Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

アンテナ

2008-03-21 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2003年/日本 監督/熊切和嘉
「コンセントと見比べると面白い」


原作「コンセント」と「アンテナ」、設定は違いますがテーマは似ています。家族を失った喪失感を埋めるプロセスを描くということ。そして、そのプロセスには性的な解放が欠かせないということ。作品を貫く陰鬱なムードもほぼ変わりません。なのに、映画として「コンセント」と「アンテナ」を見比べてみると、その違いはどうでしょう。監督によってこうも変わるものかと言うほど。なので、私は「原作の映画化」ということを考える上で、この2作品を見比べるというのは、なかなか面白い作業ではないかと思います。

で。熊切監督はネクラな原作をさらにずんどこまで暗くしました。いやあ、頭を抱えたくなるほど暗いです。しかし、その暗さを超えて、見ている側に訴えかけてくる力を持っている。ストーリーは知っているのに、祐一郎が抱えるやりきれなさにどんどん同化していく自分がいました。誰の視点で捉えているのかわからない階段からリビングを見下ろすショット、鏡に映る妹の姿、廊下にぽつんと置かれた扇風機など、特に自宅内の描写は不安定なムードを助長します。

この暗さの増幅と言うのは、主人公が女性から男性に変わったことも大きいかも知れません。祐一郎を演じる加瀬亮。渾身の演技。役者魂を感じます。ある意味、加瀬亮と言う役者にとことんフォーカスするなら、これぐらいの暗いムードで迫らなければならなかったと言えるのかも知れない。もちろん、どちらが良いと言うわけではなく、双方の監督は「原作の映画化」という命題に対して決してそのままなぞらえるのではなく、共にとことん「らしさ」を発揮したのです。一つ難を言うと、女王様を演じる女優の存在感。そして、映画としてどっちが好みかと聞かれると、私は「コンセント」です。