Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

キカ

2008-09-16 | 外国映画(か行)
★★★★ 1993年/スペイン 監督/ペドロ・アルモドバル
「思いつきが物語になるフシギ技」


奇抜な衣装とキャラに目を奪われがちなのですが、私がこの作品で驚いたのはアルモドバルのストーリーテラーとしての技量です。本作、メイクアップ・アーティストのキカ、カメラマンのラモン、ラモンの義理の父で小説家のニコラス、最悪事件の突撃レポーターのアンドレアの4人が主要人物でそれぞれの人物たちの関わり合い方があまりにもヘンテコな設定なのです。普通の人は考えつかないだろうと断言してもいい。

例えば、死に化粧していたら突然生き返っただの、レイプ犯に犯されて盗撮されていただの、連続殺人事件発生だの、「ここでこんなことあったら面白いよね~」と酒場で悪乗りして思いついたようなアイデアの羅列です。しかも、どれもこれもが悪趣味極まりない。この「羅列状態」のキテレツストーリーが、ラストに向けてきちんと収まっていくことが、驚き以外の何物でもないのです。

私は映画の脚本がどういうプロセスを経て完成品になるのか知らないのですが、おそらく誰でも最初は「こういう物語にしよう」と言うプロットがあるはずです。一つの大まかな軸があって、そこから脱線させたり、肉付けさせたりするのではないしょうか。しかし、この「キカ」と言う作品は、そういう発想とは全く違う手法で書かれているような気がしてなりません。さっき言いました「羅列」の繋げ方は、実に強引なんですが、わかったような気にさせて、物語はどんどん進みます。そのわかったような気にさせる、つまり目くらましの役割の一つのがゴルチエの衣装ではないでしょうか。

しかし、騙し騙し話を繋げているという雰囲気は全くなく、最終的には犯人はコイツだったというサスペンスオチにもっていき、一つの物語としての充足感がきちんと味わえる結末となっています。後から考えると、えらく強引でハチャメチャなストーリーだなと思うのに、見ている時はそれを感じさせない。奇妙な人たちの愛憎入り乱れる人間ドラマとして、観客を引っ張り続ける。これぞ、アルモドバルの摩訶不思議パワーです。