Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

始皇帝暗殺

2008-09-19 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 1998年/日・中・仏・米 監督/チェン・カイコー
「様式美を凌ぐ人間ドラマ」



始皇帝の物語は、日本で言うとさしずめ忠臣蔵のようなものでしょうか。いろんな解釈を加えたりして、様々なスタイルで映像化されている歴史物語なんでしょう。すぐに思いつくのは、チャン・イーモウの「HERO」なんですが、あちらはとことん様式美に徹した作品。特に独創的なアクションシーンが鮮烈な印象を残します。これはこれで、徹底的に映像を楽しむ、ということで面白い作品です。対して、チェン・カイコーは、すさまじい予算とエキストラを動員してこれまた圧倒的な様式美を生み出していますが、それ以上に人間ドラマとしての面白さが圧巻です。数十億円かけて作った宮殿のセットにひけを取りません。

始皇帝と言いますと血も涙もない鉄のような男を思い浮かべますが、本作の始皇帝は駄々をこねたり、喜んで飛び跳ねたり、実に人間味あふれる様が描かれています。「さらば、わが愛」同様、血の通ったキャラクターを描き出すのがチェン・カイコーは実に巧い。また、セリフの中には格言や隠喩が数多く盛り込まれ、それぞれの人物の思慮深さ、品格が見事に表現されています。とりわけ感動するのは、いわゆる大陸的な物の捉え方、鷹揚さの部分です。目の前の出来事に対処するのではなく、ずっと先を見越して行動する。「人間ひとりでできることなどちっぽけなもの」と言う諦観と、「人間ひとりの考えや行動で国をも動かせる」と言う強い意志、その対極的な物事の捉え方を同時に併せ持っている。なんとも、懐の深い人物ばかりです。

一番の見どころは、趙姫と始皇帝の駆け引きでしょう。こういうシーンを見ていると、そりゃ中国との外交は難しいよな、なんて妙にしんみりしてしまいます。相手の裏をかくということが全ての大前提になっていますから。趙姫を演じるコン・リーが本当に美しい。お飾り美人ではなく、強い意志を秘めた凛々しさが際だっています。ただ、最新作「王妃の紋章」(未見ですが)でも、女帝のような役をしていたと思います。どうも、彼女未だにこの手の役が多いのは、いかがなものか。「ハンニバル・ライジング」はレディ・ムラサキだし。たまには、等身大の年相応の役もやって欲しいなあと思います。