Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

明日へのチケット

2008-09-25 | 外国映画(あ行)
★★★★☆2005年/イタリア・イギリス 監督/エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
「甲乙つけがたいオムニバス」


有名監督による3部作ですが、どれも甲乙つけがたいほどいいですね。もう随分昔の話ですがユーレイルパスでヨーロッパを列車で旅すること、3回。「パリ、ジュテーム」に引き続き「ヨーロッパ行きたい病」に胸を掻きむしられる思いです。それにほとんど列車内の映像なのですが、あの揺れまくる列車の中で一体どうやって撮影したのだろうと驚くばかりです。通路は狭いし、機材の持ち込みも大変だったでしょう。また、あれだけ窓があれば、撮影スタッフは映り込みそうなものです。これは編集段階で処理するようなことがあったのでしょうか。いずれにしろ、その撮影の苦労を微塵も感じさせないような、軽やかで爽やかな作品に仕上がっているのが本当に素晴らしいと思います。

エルマンノ・オルミ監督による第一話
女性秘書に思いを馳せる老教授の食堂車でのほんのひと時のお話。ただ、彼女を思い出してあれこれ想像を膨らませるというだけですが、なんとまあ豊穣な世界が広がっていること。私はこの作品が一番好き。初恋の思い出も交えながら、回想と妄想が交錯する様が絶妙です。別れの後、揺れる列車内で、あれやこれやと思いを巡らせる経験は誰にでもあるはず。老人の妄想は控え目でありながら、彼女に触れられたいという欲望もちらりと覗かせます。そして、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキの何と麗しい表情。彼女の作品は結構観ているのですが、実に印象的な佇まいで魅了されました。

アッバス・キアロスタミ監督による第二話
窓に映り込む景色がとても美しいのです。青年兵士がうつろな表情で窓外を見やる。その背景に流れゆく木々の緑。老婦人に翻弄される彼の心情の揺れと見事にオーバーラップしていきます。この老婦人と青年は一体どういう関係なのかを推察したり、携帯を取られたと喧嘩になったその行く末にハラハラしたり、他の2作に比べて様々な不安が呼び起こされます。しかし、この車内の一角という限られたシチュエーションで、気持ちのすれ違いが起こす人情の機微を鮮やかに切り取っています。実に味わい深い作品。

ケン・ローチ監督による第三話
切符がない。よくあることです。そこから、まさかこんな心温まる物語に集結するとは思いもしませんでした。切符は盗まれたのだと主張する赤毛の青年の何と腹立たしいこと(笑)。そんな彼が勇気を出せたのは、難民たちが同じ車両の乗客だったからと考えるのは言い過ぎでしょうか。同じ空間の中で、同じ方向に向かって、同じ揺れを感じて旅をすることで生まれる連帯感。しかし、列車を降りれば、もうその繋がりは消えてなくなる。その刹那的な出会いに列車の旅の醍醐味が詰まっています。セルティックの応援歌は、そのまま旅ってすばらしいと言う賛歌に聞こえた、実に鮮やかなエンディングでした。