広島市立大学からの依頼で産学連携について喋った時に、優れた戦略性を持つ企業として紹介したのがトヨタ、キャノン、シャープである。(聴きにきた学生はわずかだったのが残念だったが。)この3社に共通するのは実は優れた経営哲学だ。
日産とマツダが技術を前面に出していたのに対して、トヨタは顧客の満足を目標にしていた。また、トヨタは事実を徹底的に追求した。問題に対し、何故という疑問を5段階まで掘り下げて、根本的な原因を突き止めたという。果たして?日産とマツダが身売りすることになり、トヨタが世界一を実現したことは記憶に新しい。
キャノンの取り組みで驚いたのは、例えば、何故本社が必要かという社内的な議論だった。私は本社が有るのは当然で何の疑いも持っていなかったので、新鮮な感覚だった。考えてみれば、本社は工場の隅にあっても良い訳で、どでかいビルを銀座に持つ必要はない。御手洗会長の独特の観察力と哲学にも共鳴させられた。
シャープのPCでデーターロガーを開発することになり、シャープの営業マンと親しくなった。彼の話を聞いていて感動したのは営業マンに対する温かい扱いだった。彼が営業所に帰ると、総務も、経理も全員が立ち上がって、お帰りなさいと言うのだそうだ。今はどうなっているか分からないが。つまり、営業マンが販売しているから自分達が食べていけると言う感謝の気持を現わしているのだ。とかく、営業マンにははみ出し人間を充てる場合が多い中で、ビジネスの本質を見事に具体化している。
大切なことはトップに立つ人間の企業哲学である。哲学とは、実は見えない領域の科学であり論理であるのだが、この優れた哲学 を持つリーダーが企業や社会を発展させてゆくのだ。
世界的な企業に飛躍した3社だが課題も多い。トヨタは原油高騰でしばらく厳しい局面におかれる。しかし、問題点を克服して立ち直ってゆくだろう。惜しむらくは、問題が起きないと方向転換しないという点だ。キャノンは派遣労働者の問題で紙上を賑わせた。その善処を望みたい。シャープは太陽光発電で世界一を明け渡したし、液晶でもサムソン電子との厳しい競争にさらされている。今こそ、3社とも、原点に戻って、その戦略性を発揮してほしい。