ここのところ、電力各社のデータ改ざん、原子力のトラブル隠しなどが相次いでいる。しかも、今回は制御棒が抜けて臨界に達していたというとんでもない話だ。電力関係者でさえ、えーー!と驚く内容。地球温暖化対策として最後の切り札と考えられる原子力だが、残念ながら再脚光を浴びるチャンスが大幅に後退したと言わざるを得ない。
電力会社の体質についてはいずれ触れようと思っていたが、良い機会でもあり、問題点を指摘したい。あるキャリア官僚から、電力の人間は頭が固くてどうしようもないと言われた。官僚に言われたくないよとの思いもあるが、当たっているのでどうしようもない。電力各社の担当者を集めて、あるテーマを議論することになった。電力会社にとって難しい問題だったらしく、誰も口を開かなかった。その官僚が、自分が責任をとるから、議論してくれと頼んでも、一度持ち帰り承認を受けなければならないと全員が語ったとのことだ。一般的に官僚や役所が固いと思われているが、ある意味で電力の人間のほうが固いというか、要はロボットである。
電力業界特有の事情もある。例えば、電力会社は民間の株式会社であるが、利益を出しすぎたらマスコミから叩かれる、逆に利益が出なくても叩かれるだろう。いったいどうすれば良いのか、企業としての明確な目標を立てにくい。とどの詰まりは、最大の目標が安全な電力供給サービスということになる。電力会社は政治家には弱い、マスコミには弱い、官僚や役所には弱い、一般の消費者にもやくざにも弱い。強いのは唯一、メーカーや業者に対してだけだ。委縮するしやりがいを感じにくい。
マスコミから、今回の原子力のトラブル隠しは事務方と現場との対立との指摘がある。事務方はどんどん、事実をオープンにすべきと主張しているのに、現場(エンジニア)にその考えが伝わらず、隠し続けてこのような事態に陥ったとする、現場悪玉論である。状況はちょっと異なる。電力会社の入社人数は圧倒的に技術屋が多いにもかかわらず用意されているポスト数は事務屋と技術屋が同程度となっている。事務屋は評価に関係なく(ある人によれば馬鹿でもチョンでも)、ポストがあるという理由で昇進できる。
加えて、技術屋の分が悪いのは現場を持っていることだ。完全な物など無いから、現場ではある確率でトラブル(機械やシステムの不良、オペレーティングミス)が起こる。これは全て現場を管理している技術屋の責任になる。電力会社ではトラブルを極端に嫌う体質があり、担当箇所でのトラブルは致命的になりかねない。事務屋は、常に技術は分らんということで逃げてしまう。技術屋にデータを出させ報告させ、作文するのが事務屋の役目。作文に問題があれば自動的に技術屋の責任である。かくして、事務屋は技術屋集団を踏み台にして電力会社に君臨しているのだ。
技術屋の中にも中々悪知恵の働く者がいる。上司が喜ぶようなデータを捏造するのだ。直接関わった人から噂は聞いていたが、捏造者はいつの間にか昇進して行き、登り詰めてゆく。これは架空の話ではなく現実だ。何故、このような状況を止められないか?電力では若いうちから幹部候補者が選定され、特別扱いで昇進して行く。引っ張り上げてくれる実力者のネットワークと、得たポストで人事権を行使するからうっかりしたことを言えない。一方、電力で昇進の早い人間は決して他人の問題や、会社の抱える問題に首を突っ込まない。常に上位者の意を汲み、求められることだけをきちんとこなし、よい子になりきることが求められる。
また、一方で政権政党(現状では自民党)の国会議員が電力会社の人事に対しても多大な影響力を持っている。電力会社では重要な仕事のほとんどが政治がらみだから、政治家には常に依存しなければならない。有力国会議員の推薦する人物はトップクラスのポストを得ることになる。さすがに社長以上になる人物は学歴、人柄、家柄ともに申し分ないが、バックに政治力が無ければ最高ポストを得ることは難しいだろう。問題は、稀に強大な政治力をバックに、密室エリアの中でやりたい放題をする人物が存在することだ。
電力会社の状況は当然、各社によって少しづつ異なる。例えば、関西電力では課長以上の子弟は入社できないとか、良い評価が3回続けば自動的に昇進するなどの仕組みがあることを聞いた。良い試みとして評価できる。ただいずれにしても、電力会社が既得権維持管路組織の最たるものであることを考えれば、今回のような不祥事は起こるべくして起こったと見るのが妥当である。
最後に一言。殆どの電力マンはまじめで優秀である。特に、営業所の現場、発電所の現場で働く人には頭が下がる。以前のことであるが、台風で停電したら、すぐ電力マンが飛んで来て、土砂降りと強風の中、漏電しかねない電柱に登り故障を直してくれた。発電所には休みがない。正月でも昼夜働き、真っ暗で誰もいない、発電所エリアをパトロールして電力を支える人達。この現場電力マンの殆どは高校卒業で、ものすごくまじめに働いていながら、昇進のチャンスが少い。地域のために、あるいはまじめな電力マンのために、電力のあるべき姿を模索し、改革を着実に実行してゆくことが求められるのだ。