日本の電力会社は沖縄電力を含めて10社あり、社員だけで10万人以上(積算したことが無いが多分12~15万人)いると思います。殆どが真面目な社員です。入社した時、新入社員教育で「24時間電力社員でいるように」と言われ、度肝を抜かれましたが、99%以上の社員がその言葉通りに振る舞い、恐らく死ぬまで電力社員をやるのではないかと思います。それは外の世界の人には理解できない。
電力会社の多くの人間は、例えば、トラブルを起こすことは絶対にあってはならないこととして、トラブルに巻き込まれてもいけないと考えています。もっと言えば、目立ってもいけない。電力の社員として目立つことは悪なのです。目立って良いのは上司からそれを求められた時だけ。その基準から言えば、私(元電力社員)など犯罪者であり、電力関係者は私のブログを厳重にチェックしていることでしょう。
しかし、一方で、やくざを自称し、一般社員の前では、周りを睥睨するようにふんぞり返って、肩をいからすようにのし歩く連中もいる。こういう連中は、バックに政治家の後押しがいるか、強力な引っ張り手や支援者がいて、若い時から少なくとも取締役になることが約束されているか、彼ら悪徳プリンスの手下である。そんな彼らも、上司に対してあるいは外では完璧な紳士を演じるし、上司の前では、ものすごい気遣いを見せる。
強力なコネを持たない出世志向者は、仕事をしているふりをして、アフターファイブ、特に土日は社長や会長のご自宅に伺って、かいがいしく、庭の掃除や片づけなどを手伝う。奥様も手馴れ、どうにいったもので、「ちょっとそこの何々君。灯篭をjこちらに動かして」などと指図するらしい。言われた方はもう、心得たもので、はいはいと言って灯篭を動かす。奥様に名前を憶えられているということは、ま、少なく見ても本店次長以上が約束されたようなもの。これらの情報も、事務屋には流れるが技術屋は常に蚊帳の外。
昔は、大卒で本店部長以上が約束されていたが、現在では例えば技術系では大学院を出ていようが博士号を持っていようが、特別管理職にも慣れないケースがたくさん出てくる。(電力会社には一般管理職と特別管理職があり、前者は組合員、後者は非組合員で、特別管理職にならないと給料は十分上がらない。)何しろ、技術屋にはポストが少ないし、真面目な技術屋が真面目に努力しても、管理職教育などで指導される内容などは通用しないことが多い。
事務屋はマージャンとか上司への接待などを通じて、そこらの情報はぬかりなく、伝えられる。はっきりしているのは成績を上げても十分評価されないこと。成果主義を導入しても、それは名目上のことだけ。現実的には管理職以上はポスト昇進だし、指名されなければ昇進はなく、常務以上から介入されると、人事部長は拒否できない。だから事務屋は技術屋が真面目にせっせか働いていても笑っている。(ただし、ここらは会社によって多少の差がある)
事務畑で取締役以上に出世した人の話を聞いていると、上司の家族の面倒まで見たことなどが当り前のように語られます。長男は出来が悪かったので、どこどこの学校へ行くように手筈したとか、二男の時は苦労したとか。銀行でも、土日に上司のご自宅に伺い、上司が煙草を取り出すと、即座に部下がライターを出して火をつけるなどの話があります。
ある教授が自衛隊でも一緒だと言います。トイレから出てくる上司に対して、さも偶然出会ったように振る舞い、近づくとか。あの調子では、上司が靴を舐めろと言えば舐めるだろうとその教授は語っていました。
最もひどい目に合うのは、製品を納品する企業や出入り業者で、ぼろくそに言うし、人間扱いしない。同じ社員同士でも、出世が無いと思われる社員に対しては業者並みの扱いで露骨である。これらの傾向は特に事務屋、あるいは事務屋もどきの技術屋に顕著である。例えば上司が退職すると見方を180度変えてしまう。あれは終わった人とあからさまに言う。
電力会社の中にいても、どうすれば出世できるか知らない人が多い。ある事務屋が干されていたので、私は有力な政治家を探して支援してもらうように助言した。何と彼は、出世街道を登り始めた。他人には勧めるが、私自身は仕事の自信とプライドがありすぎてでは絶対にやらなかった。
ついでに言うが、電力会社では自信家は、それが表に出たら、それこそ絶対に出世できない。逆に管理者教育で、テキストに書かれた管理者像とあまりにもかけ離れていると声をあげて嘆いていた奴が出世するのだから笑えない倒錯の世界。
電力会社では一般の常識は通用しないと言うか真逆であったりするので、企業リーダーなどの本を読まないほうが良いと思いますね。世の中の事柄にもひどく疎い。研究所の所長がトヨタの看板方式を知らなかったので、若かった私には雲の上の人だったが書籍を贈呈したことがあった。
私は二人の副社長を含めて3回は良いお誘いを貰ったが、人間関係で出世するのは嫌で話に乗らなかった。ところが、いつしか声をかけくれる人がいなくなっていた。人生でチャンスはそうあるもではないという教訓。話が戻って、出世し始めた彼に電話した時、その人間性に愕然とした。助言するべきではなかったような気がした。
電力会社で出世するには公私混同が大切ですね。本店のそそり立つ殿堂のビルに住む住人にとって仕事は単なるツールであって、政治家のバックを持つか、プライベートタイムでの常識はずれの上司への忠誠心とサービスが出世に結びつくことは間違いない。ついでに言えば、父親が元社員で、その父親が裏で動いているケースでは、その涙ぐましい努力は抜群と言うか、驚異的な効果をもたらしておりますね。
電力会社の本店は積極的に仕事するところではない。実質的な仕事は現場(発電所、営業所)がやるし、積極的な取り組みは波風を立てる。何よりミスは致命的な傷となる。下手に新しいことをやれば、トップからにらまれる。誰かが言っていたが、一歩踏み出してはいけない。せいぜい半歩だ。技術を開発するのはメーカー、莫大なお金が無いと電力会社の技術開発は成り立たない。経済産業省の管理が厳しくて自主的な経営は許されない。赤字が出ると怒られ、黒字が出ても怒られるのが電力会社。
いずれにしても電力会社はやくざには弱い。本当のやくざにも弱いし、内なるやくざ(若い時から大出世が約束され、歩く道にはじゅうたんが敷き詰められ、きちんとエスカレータが用意されている)が大活躍する世界ではあります。
追記:私はある超大物政治家周辺のフィクサーと言われている人物と会うことがあり、食事の席で自民党国会議員は一人だけ電力会社社員を推薦できるのだと教えられた。ビジネス上のトラブルがあり、決定権を持つ人物に会って収拾させたかったが、たまたまフィクサーで驚いたがそれだけのこと。今でも借りも貸しもない。
また、これもたまたま、若いころ自民党議員(後に閣僚経験)を応援したことがあり、偶然ある宴会の席で会い、私が電力社員であることを知っていたので「〇△」のところへ行きなさいと言われた。〇△氏は自民党議員の高校の同期らしく、常務になっていた。面倒を見てくれるよとの意味だったと思うが行かなかった。大雑把に見て自民党国会議員の推薦を受けた者は常務にはなっている感じ。
私は逆に自民党議員に電力会社を改革したいので協力して欲しいと、申し入れたが、話に乗ってこなかった。よく考えれば、改革などすれば、当時の自民党議員にとってのうまみがなくなるわけだ。今は政権交代しているのでどうなっているのか。このほかにも、父がお世話していた自民党議員もいたが、そのような裏のルートは一切利用しなかった。