珈琲が大好きな私ですが、今日のように来客が多くて、その度に接客用珈琲を飲んでいると、流石に飽きてきます。
そこで麦茶も用意していると、やはり夏は、これに限りますねぇ♪ という御意見ばかりでした。
でも、やっぱりカップとお皿とスプーンが付かないと、決まらないような感じになるのは、私が古い人間だからでしょうか?
ということで、本日は古くて新しい名盤を――
■Matador / Kenny Dorham (United Artists Jazz)
最近、急速に認知されている「ジャケ買い」趣味の中で、明らかに中身とジャケットがミスマッチしているブツが、確かにあります。
本日の1枚も、そのひとつでしょう。幾何学的な騙し絵のような、眺めていると異次元に引き込まれそうなデザインはジャズっぽく無いと感じますが、中身はバリバリのハードバップ! しかしモード手法も使った新しい響きも聴かれますから、やっぱり、これで良いのか!? 迷っているぐらいがちょうど良いのかもしれません。
録音は1962年4月15日、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ボビー・ティモンズ(p)、テディ・スミス(b)、J.C.モーゼス(ds) という、なかなか興味深い面々ですが、どうやら短期間ではあるものの、実際に活動していたグループだと言われています――
A-1 El Matador
軽快なボサロック風のビートに乗って展開されるスパニッシュ調の名曲です。もちろんそれに基づいたモード手法によるアドリブは、一種独特の色合が強烈!
ケニー・ドーハムのトランペットは当にイブシ銀の音色で、短いフレーズを積み重ねるという煮詰まりが、ディープな雰囲気を増幅させています。またジャッキー・マクリーンが情熱を内に秘めたような考えすぎのフレーズばかりというも、非常に珍しい展開でしょう。
しかしボビー・ティモンズは十八番のゴスペル風味を丸出しにて、大正解のバカノリ大会♪ リズム隊一丸となった執拗なグルーヴは聞きごたえがあります。
A-2 Melanie part 1-3
ジャッキー・マクリーンが書いたモード色の組曲ですが、あまり難しく構えずに聴くのが良いかと思います。
まず東宝怪獣映画のテーマ曲のような重々しいメロディからスタートしていくあたりで、ワクワクさせられます。そしてアドリブパートでは痛快なアップテンポの4ビートになって、まずケニー・ドーハムがツボを押えたハードバップを聞かせてくれますから、たまりません。突進力のあるリズム隊も強烈!
ですからジャッキー・マクリーンも負けじと大ハッスルで、激烈な「泣き節」を存分に披露していきますが、その受渡し部分で一端テンポを落としたテーマメロディを入るあたりは、ちょっとベタな雰囲気です。しかし憎めないんですねぇ~♪
さらにボビー・ティモンズが唸り声をあげながらの突撃ピアノです! 唯我独尊のベースとちょっとバタついたドラムスが、妙に新しい感覚だと思います。
B-1 Smile
さてB面は一転して正統派のハードバップ大会です。
この曲はチャップリンの映画でお馴染みのメロディを素晴らしいモダンジャズにした名演で、そこはかとない哀愁を滲ませるケニー・ドーハムの歌心が最高ですし、ジャッキー・マクリーンも泣いていますから、もう完全に中毒になりそうです。
また軽やかにスイングするボビー・ティモンズも良いですね。そして素晴らしいバッキングを聞かせるテディ・スミスのベースが強烈! 個人的には、そのベース中心に聴いて快感の名演だと思うほどです。
B-2 Beautiful Love
モダンジャスではビル・エバンス(p) の十八番として有名なスタンダード曲ですが、ここではジャッキー・マクリーンのワンホーン体制で、せつせつと演奏されています。
もちろん得意の「泣きじゃくり」が存分に楽しめますから、やっぱり背伸びしたジャッキー・マクリーンよりは、こっちのほうが、私は好きです。
B-3 Prelude
ケニー・ドーハムとボビー・ティモンズのデュオで演奏されていますが、私には完全に??? けっこう哀しい雰囲気のテーマメロディなんですが……。
B-4 There Goes My Heart
ちょっと地味なスタンダード曲なんですが、こういうものなら俺に任せろのケニー・ドーハムが大名演です。小粋なメロディの変奏から間然することの無いアドリブ展開まで、流石のモダンジャズを聞かせてくれるます。
またジャッキー・マクリーンも本領発揮の激情節♪ 決して潔いとは言えない J.C.モーゼスのドラミングが妙にマッチしています。
そしてテディ・スミスのベースが、ここでも良いですねぇ。新しい響きのアドリブソロも秀逸だと思います。
ということで、これはジャズの解説本にも掲載される事が多い名盤だと思われますが、A面とB面では演奏の趣が異なっていますから、ジャズ喫茶ではどちらの面を鳴らすかによって、その店の傾向と対策が分かったりすると、昔から言われていました。
まあ、CD時代の今日からは想像も出来ないことでしょうが、自宅では律儀にA面から聴いて、B面にひっくり返すという儀式があってこそ、完結する名盤かもしれません。