優雅なお盆休みも終り、雪国に帰ってきました。高速は逆方向なので、ガラガラで飛ばしまくり! 渋滞している反対車線を尻目に優越感に浸るという、いやらしい性格を再認識してしまいました。
ということで――
■Sizzlin' / Arnett Cobb (Prestige)
アーネット・コブは所謂テキサス・テナーと呼ばれる、泥臭くて豪快なスタイルの人ですから、一部では熱狂的なファンを持っているようです。
ちなみにその楽歴で脚光を浴びたのが、ライオネル・ハンプトン楽団での花形プレイヤー時代でしょうか、圧倒的なブロースタイルで1940年代に大活躍しています。そして1950年代からは独立して自分のバンドを率い、R&B色が強い演奏に撤していくのです。
しかし私のような者には、ちょっと重いというか、やや胸にモタれる感じでして……。
ところが1950年代後半からは、かなりモダンジャズに接近した演奏を聞かせるようになり、この時期に吹き込まれたアルバムには、なかなかグッとくる作品も少なくありません。
本日の1枚は、当にそうした中の代表作で、演目も共演者も申し分ない逸品だと思います。
録音は1960年10月31日、メンバーはアーネット・コブ(ts)、レッド・ガーランド(p)、ジョージ・タッカー(b)、J.C.ハード(ds) という凄さです――
A-1 Sweet Georgia Brown
古いスタンダード曲で、ジャズの世界でも定番ですから、ここでもアップテンポの快演が披露されます。まずレッド・ガーランド以下のリズム隊によるテンションの高いイントロが、実に良いですねぇ~。
そしてアーネット・コブの瑣末に拘らないテーマ吹奏とビシビシグイグイにうねるリズム隊のコントラストも最高です! つまりアーネット・コブは決してモダンなフレーズは吹いていないのですが、その音色と豪快なノリが、ジャズの本質を突いているかのようです。
続くレッド・ガーランドは何時もながらコロコロと転がりまくるスイング感が見事ですし、非常に厳しいドラミングを聞かせるJ.C.ハード、容赦無いジョージ・タッカーの黒いベースが強烈! 特にJ.C.ハードは唸り声を出しての熱演で、クライマックスのソロチェンジでも敲きまくっています。
A-2 Black Velvet
同系スタイルの先輩であるイリノイ・ジャケー(ts) のオリジナル曲ですから、アーネット・コブも気合が入っているようです。ミディアムテンポのたっぷりとしたグルーヴ、余裕のブローとタフな音色は薬籠中の名演としか言えません。
あぁ、こういう、コルトレーンもロリンズも関係ない世界が、ジャズには確かにあるのですねぇ~♪ 仕事に疲れきった後に独り酒でも飲んで聴けば、シビレて止まないものがあると思います。
しかもジョージ・タッカーの骨太ウォーキングベースが、物凄く心地良いですし、レッド・ガーランドもツボを押えた好演♪ もちろん黒人ジャズそのものという雰囲気も、大いに魅力なのでした。
A-3 Blue Sermon
これまた黒~い雰囲気満点という、アーネット・コブのオリジナルです。まずスローテンポで繰り広げられるリズム隊だけの演奏からして、全くゴキゲンですよ♪
そしてアーネット・コブが登場してからは、尚一層に真っ黒なフィーリングが充満します。あぁ、このサブトーン、この余裕、このネバリとタメ、もちろん「泣き」のフレーズも止まりません!
リズム隊の伴奏も素晴らしく、これぞ黒人ジャズの真髄という局面が連続しています。
B-1 Georgia On My Mind / 我が心のジョージア
今やレイ・チャールズの歌で有名になったスタンダード曲ですから、良く知られたメロディをアーネット・コブが、どのように聞かせてくれるのか、それだけでワクワクさせられてしまいます。
スバリ、ここではスローテンポで黒いノリ♪ もちろん期待は裏切られていません。まずはサブトーンと思わせぶりで吹奏するアーネット・コブのテーマ解釈だけで満足、大満足でしょう。
ただしアドリブパートに入ると、あまりのしつこさに辟易する瞬間も、確かにあります……。なにしろ本人が感極まって唸って叫ぶほどですからねっ! ここまで出来る人って、そんなには居ないと思いますよ。
そしてレッド・ガーランドのパートに入ると、世界が突然、モダンジャズになってしまうあたりも、叶いませんねぇ♪
B-2 Sizzlin'
ジョージ・タッカーとJ.C.ハードのコンビネーションが冴えた名演です。そこへ加わったレッド・ガーランドの3者によるイントロだけで、満足してしまうかもしれません。
もちろん曲はアーネット・コブが書いた黒~いオリジナルですから、豪放で思わせぶりなスタイルが堪能出来るわけですが、実は演奏全体をグルーヴィに盛り上げているのが、やはりジョージ・タッカーのベース! これ中心に聴いてシビレまくりの私です。
また2ビートっぽく演奏を盛り上げていくJ.C.ハードも流石ですし、全体にミディアムテンポで押しまくった全員の熱気が、ジワジワ迫ってきて、たまりません。
B-3 The Way You Look Tonight / 今宵の君は
モダンジャズではアップテンポで白熱の演奏になる事が多いスタンダード曲ですが、ここではラテンリズムを入れてノンビリと展開されるテーマに和みます。サビで4ビートになるあたりもテンションが高いですねぇ。
そしてアドリブパートでは、グイノリのリズム隊に対し、余裕でボケとツッコミに撤するアーネット・コブの潔さ! まさに悠々自適というか唯我独尊というか、私のような凡人には素直にひれ伏す以外に道がありません。
う~ん、これには流石のレッド・ガーランドもお手上げのようですねぇ、アドリブパートの迷い道も珍しいところですから、アーネット・コブが乱入しての仕切り直しもジャズの王道かと思います。
ということで、決してモダンジャズ一辺倒の演奏ではありませんが、リズム隊の素晴らしさとアーネット・コブの温故知新の魅力で一気に聞かせてしまう秀作だと思います。
ちなみに全篇で熱演を聞かせているJ.C.ハードは、モダンスイング~ビバップあたりが守備範囲かもしれませんが、実は幅広い実力を持った名手であることが、このセッションで証明されていると思います。私は、かなり好きですね。
ただし炎天下では聞かないように! あくまでも夜の大人の時間向けかと思います。あぁ、熱気が冷めやらぬ夜の空気が……!