どうにか梅雨が明けたと思えば、猛烈な暑さになりましたですね。どうやら台風の襲来も予想されますから、暑さは当分、続くかもしれません。
そしてこういう時こそ、本来はボサノバあたりを聴けば良いんでしょうが、天邪鬼な私は鬱陶しい、こんなアルバムを――
■Johnny Griffin In Poland (Muza / Norma)
黒人テナーサックス奏者のジョニー・グリフィンは、その豪快にうねる早吹きでハードバップの第一人者となりましたが、その魅力の真髄は黒~いフィーリングが滲み出た情念のバラード吹奏やじっくりと歌いこまれるブルースにあると言われています。
実際、最初に夢中になるのは、急速テンポにおける激烈なフレーズの連射なのは確かです。しかし一度、そのスローな演奏の虜になると、これは何を吹いてもジョニー・グリフィンでなければ満足出来なくなります。
さて、このアルバムは、その両方が堪能出来るライブ音源集で、原盤はポーランドの国営レーベル「ムザ」から発売された「Jazz Jamboree 63」という実況録音盤の1&2集に分散収録されていた演奏を1枚のCDに纏めたものです。
録音は1963年10月、メンバーはジョニー・グリフィン(ts)、ケニー・ドリュー(p)、ルディ・ジャコブス(b)、ロバート・ジョセフ(ds)、ウィム・オヴァハウ(g) という、欧米混成のバンドですが、時期的にジョニー・グリフィンは渡欧した直後でありますから、バンド編成は先に欧州で活動していたケニー・ドリューが集めたと推察しています――
01 Sophisticated Lady (1963年10月26日録音)
いきなり、デューク・エリントンが書いたディープソウルの美メロなバラードです。もちろんモダンジャズでは幾多の名演が残されていますし、歌詞が付けられたボーカルバージョンにも数え切れないほどの名唱があります。
それをここではジョニー・グリフィンが、じっくりと魂の吹奏です。完全に歌詞を噛みしめているような雰囲気でもあり、またオリジナルメロディを素直に解釈しつつ、自分だけのソウルを吹き込む作業でもあって、本当に感動的!
なにしろテナーサックスの音色に深みありますし、伴奏するケニー・ドリューのピアノとの相性も素晴らしい限り♪ そして演奏は、少しずつ熱を帯びていくという「お約束」の世界に入るわけですが、独自の呻きとヒステリックなフレーズ、さらには情熱と思わせぶりのバランスがハードバップの精神に満ち溢れているのです。あぁ、最高です。
また意想外のグイノリを聞かせるベースやどっしり構えたドラムスのグルーヴも、なかなかに新鮮です。もちろんケニー・ドリューは歯切れの良いタッチで十八番のアドリブ展開♪ 後年のような甘さが無いのも、逆に良いですねぇ~。5分45秒目あたりからの幻想的な部分には、心底シビレます。
02 Rhythming (1963年10月26日録音)
一転して烈しいアップテンポの演奏で、曲はセロニアス・モンクが書いた「Rhyth-A-Ning」でしょう。エキセントリックなテーマメロディを一気に演奏していくバンドの勢いが、まず最高です。
ジョニー・グリフィンは合の手気味の叫び声までも入れて、最初っからブッ飛ばしていきますが、リズム隊の必死の伴奏が、これまた良い感じ♪ あぁ、これがジャズだと思います。
またケニー・ドリューも熱演ですが、凄いのがベースのルディ・ジャコブスのウォーキング・ソロ! 背後で指パッチンは、ジョニー・グリフィンの仕業でしょうか? 実にジャズの雰囲気が横溢しています。
おまけに途中から、ジョニー・グリフィンがアドリブで乱入してくるんですが、きっとマイクから離れているんでしょう、かすかに聞こえて、それが少しずつ大きくなっていくスリルが最高! そしてドラムスも入って、ついにはジョニー・グリフィンがデカイ音で吹きまくっていくところが、ハイライト! あぁ、何度聞いても興奮するパートです。もちろん観客も大拍手! ここだけで、このアルバムの価値があるほどです。
03 Body And Soul (1963年10月26日録音)
再びスタンダードのバラード吹奏となりますが、もちろん情熱の嵐です。堂々とサブトーンも使いながらのジョニー・グリフィンの男気には、全くシビレますねぇ。録音も臨場感があって、なかなかに秀逸だと思います。
ここから以下の3曲はドラムスが抜けて、ギターのウィム・オヴァハウが入っており、絶妙に繊細なアドリブソロが魅力です。ベースとのコンビネーションも良く、これにはケニー・ドリューも苦笑いしている様子が微笑ましいところ♪
04 Lover Man (1963年10月27日録音)
これもモダンジャズでは定番化している歌物スタンダードですから、ジョニー・グリフィンにとっても十八番でしょう。そして例のチャーリー・パーカーの悲劇を知っているジャズ者にとっては、妙に構えて聞いてしまう演目でもありますね。
しかし、ここでの演奏は素直なブルースフィーリングが滲み出た名演としか言えません。まさにジョニー・グリフィンの良さが全開していますから、完全に惹きつけられて昇天してしまいます。
ジャズが好きで良かった……、と私はシミジミと思います。
05 Cherokee (1963年10月27日録音)
これはモダンジャズ創成のヒントが秘められた有名スタンダードですから、避けて通れない演奏になっています。もちろん急速テンポでアグレッシブに吹きまくるジョニー・グリフィンの豪快な楽しさを満喫出来るのです。
しかし正直、ドラムスが入っていないのが最初は気になるんですが、リズム隊の弾き出すビートは本当に強烈ですし、唯我独尊に突進するジョニー・グリフィンにとっては問題外なんでしょう。むしろ清々粛々としたアドリブには、途中の呻き声も含めて熱狂させられるのでした。
ドラムセットを持っている人は、これに合わせて敲くという楽しみもついていますよ。ケニー・ドリューのアドリブソロのバックでは、誰かさんの指パッチンが痛快です♪
ということで、ちょっと暑苦しい演奏なんですが、良いものは良いということで、ご容赦願います。
ちなみにオリジナル盤の「Vol.1」には「Cherokee」だけが収録され、残り4曲が「Vol.2」に入っているものの、それらのアルバムは当然、我国では「超」が付く幻盤ですから、こういうCD復刻は大歓迎♪ デジパック仕様というのも、なんだか嬉しいです。