また最近、物欲に苦しめられています。
まあ、私の場合、それがレコードやCD、DVDあたりなんで可愛いもんなのでしょうが……。それでもねぇ~。
そして一番いけないのは、買ってしまうと安心して、それらを楽しもうとしない性癖です。シールドを破るのが恐いというか、抵抗があるというか、決してオークションに出して儲けようなんて魂胆はないのになぁ……。
ならば保存用と鑑賞用の2セット買えばいいだろう!
なんていう悪魔の囁きが、また恐いのでした……。
ということで――
■Intuition / Lennie Tristano & Warne Marsh (Capitol)
ジャズは楽しいもんですが、中には楽しくないのに「感じる」演奏というのが、確かにあります。
例えばレニー・トリスターノ派の連中が演じるジャズは、その代表かもしれません。所謂「クール」と呼ばれ、ビバップを白人的に解釈して云々と言われているものですが、その実態は4ビートでありながら、ジャズ独特のウネリやネバリが無く、つまり黒人っぽさを排除しつつも、非常にテンションが高い緊張感のある演奏です。
そして起伏の少ないメロディラインはテーマとアドリブに共通しており、しかし自分達だけのルールでシンコペイトしまくるノリは、中毒症状さえ招く強烈なアクが魅力です。
さて、本日の1枚は、レニー・トリスターノが中心となったキャピトル録音と弟子のウォーン・マーシュが盟友達と新たな展開を聞かせたインペリアル録音を纏めたCDですが、特筆すべきは後者の音源からステレオ&モノラル仕様で異なる音源を収めていることです――
☆1956年10月3&11日録音
01 Smog Eyes (1956年10月3日録音)
02 Ear Conditioning (1956年10月3日録音)
03 Lover Man (1956年10月3日録音)
04 Quintessence (1956年10月3日録音)
05 Jazz Of Two Cities (1956年10月11日録音)
06 Dixie's Dilemma (1956年10月11日録音)
07 Tschaikovsky's Opus #42 Third Movement (1956年10月11日録音)
08 I Never Knew (1956年10月11日録音)
以上の8曲はステレオバージョンで、本来は「Winds Of Marsh / Warne Marsh (Imperial 12013)」として発売されていたものですが、元々はモノラル仕様のLP「Jazz Of Two Cities (Imperial 9027)」として出ていたもので、そのうち数曲がバージョンあるいはテイク違いになっています。
メンバーはウォーン・マーシュ(ts)、テッド・ブラウン(ts)、ロニー・ボール(p)、ジョージ・タッカー(b)、ジェフ・モートン(ds) ですが、ひとりだけ畑違いというジョージ・タッカーの強靭なベースが、このセッションを成功に導いているのかもしれません。
演奏はほとんどリズムマシーン的なドラムスとベースの4ビートが基礎となり、刺激的な伴奏をつけるロニー・ボール、極めて似たスタイルのウォーン・マーシュとテッド・ブラウンのテナーサックスが、アドリブソロはもちろんのこと、テーマの吹奏やキメのリフに独自の流麗なフレーズと緩急自在のノリを披露するという展開です。
この2人のテナーサックスの絡みと対比が、まず一番の魅力かもしれません。その似て非なる個性は、ウォーン・マーシュが神経質に細い音色と跳躍の烈しいフニャフニャフレーズなのに対し、テッド・ブラウンはレスター・ヤング直系のノリと和み系のフレーズで、トリスターノ派独特のスタイルを追求しています。音色も暖かいですねぇ。
ちなみにここでウォーン・マーシュがアドリブの先発をとっているのが「Smog Eyes」「Jazz Of Two Cities」「I Never Knew」の3曲だと、私は思い込んでいますが、これは皆様が実際に聴いて判断されるのが一番でしょう。
肝心の演目では、早いテンポで鋭いテンションのぶつかり合いが快感という「Smog Eyes」「Ear Conditioning」「Jazz Of Two Cities」、和みのスイングが楽しい「Quintessence」と烈しい「I Never Knew」、変態テーマメロディの「Dixie's Dilemma」、さらにスローな歌物で摩訶不思議な歌心を堪能させる「Lover Man」と駄演は全くありません。
気になる「Tschaikovsky's Opus #42 Third Movement」はアンニュイな雰囲気に満ちた、これまたクセになる名演ですから、たまりませんねぇ♪
そしてロニー・ボールのピアノが、なかなか味な存在で、鋭いツッコミの伴奏に歯切れの良いアドリブソロ! 非常に素晴らしいスパイスの役割を果たしています。
09 Ear Conditioning / mono (1956年10月3日録音)
10 Lover Man / mono (1956年10月3日録音)
11 Jazz Of Two Cities / mono (1956年10月11日録音)
12 I Never Knew / mono (1956年10月11日録音)
さて、前述したモノラル仕様での違いは、「Jazz Of Two Cities」と「I Never Knew」が完全な別テイク! 出来は甲乙つけがたいので、これは十人十色の好みになるでしょうが、私的にはステレオバージョンが気に入っています。
また「Ear Conditioning」は二番手で登場するウォーン・マーシュのアドリブソロが異なり、ステレオバージョンでは出だしがヘタレ気味でしたが、ここだけ差し替えられたモノラルバージョンではグッとテンションの高い展開を聞かせてくれます。ただし編集の継ぎ目がわかっちゃいますが……。
それと「Lover Man」もピアノソロが入れ替えられています。
☆1949年3&5月録音
13 Wow (1949年3月4日録音)
14 Crosscurrent (1949年3月4日録音)
15 Yesterdays (1949年3月14日録音)
16 Marionette (1949年5月16日録音)
17 Sax Of A Kind (1949年5月16日録音)
18 Intuition (1949年5月16日録音)
19 Digression (1949年5月16日録音)
以上はレニー・トリスターノをリーダーとしたセッションで、黒人が編み出したビバップに白人的な想像力を加味した演奏になっています。
メンバーはリー・コニッツ(as)、ウォーン・マーシュ(ts)、レニー・トリスターノ(p)、ビリー・バウアー(g)、Arnold Fishkin(b)、デンジル・ベスト(ds)、Harold Granowsky(ds) とされています。
その演奏は、もちろん時代的にSPフォームなので3分前後の短いものですが、内容は現在でも過激と言って良いでしょう。特に「Intuition」と「Digression」は一種のフリージャズですから、後者はリアルタイムでは発売されず、この一連の演奏がLPに纏められた時に初出となったほどです!
また「Wow」と「Crosscurrent」はテンションが高すぎて聴けばグッタリと疲れる演奏ですが、そのスリルと快感は強烈です。突き詰めたクールスタイルの完成形とも言える「Sax Of A Kind」も、言葉を失うほどに厳しい展開が聞かれます。
ですから、アルバム前半のウォーン・マーシュ&テッド・ブラウンのセッションが、どれほど和んでいたか痛感させられるのです。まあ、こんなレニー・トリスターノのガチンコスタイルは、長続きしないのが納得出来ますねぇ。それゆえに輝きが、一層、眩しいのですが……。
ということで、これはひとりで聞いて密かに悦に入るというアルバムかもしれません。後半のレニー・トリスターノのセッション音源なんか、ちょっと日常的には聴くのがシンドイところ……。暗いジャズ喫茶で瞑目し、大音量でその厳しさを浴びてこそ、快感に繋がる演奏かもしれません。
しかし前半は、名盤と認定されている「Jazz Of Two Cities」の全てを楽しむことが出来ますから、オススメです。クールだとかトリスターノ派だとかの括りを別にして素直に楽しめる演奏ですし、その独特のスタイルは、一端虜になると抜け出せない魅力があるのでした。