今日は家族・親戚、そして友人一家と海へ出かけました。久々に優雅な休日というわけです。ちょっと台風の余波で海は濁っていましたが、海辺でワイワイやることに意義があるというか、お決まりのバーべキュー大会とか♪
そしてカーステレオで聴いていたのが、これです――
■The Quartet & The Quintet / Jack Sheldon (Jazz:West)
ジャック・シェルドンは西海岸派の白人トランペッターですが、私の世代ではコメディアンとして有名かもしれません。なにしろ私の少年時代には、テレビで放送されていたギャグアクションの決定版「逃げろや逃げろ」のイメージが絶大ですから!
で、そのジャック・シェルドンの正体が、実はジャズのトランペッターだったことを知ったのは、かなり後のことで、アート・ペッパー(as) の相方として参加した名盤「リターンズ(Jazz:West)」における屈託の無い名演には、完全に虜になりました。
そして同じレーベルにリーダー盤を残していると知っては、聴かずにいられません。ところがそれは、10吋盤が2枚というウルトラ級の幻盤! さらにその2枚をカップリングして再発した12吋のLPも、なかなか希少度の高い人気盤ということで、本日の1枚が、それです。
ただし収録時間の関係で、2曲がオミットされたのは残念――
☆Jack Sheldon Quartet (1954年録音)
これは「Jazz:West JWLP-1」として発売された10吋盤からの演奏です。メンバーはジャック・シェルドン(tp)、ウォルター・ノリス(p)、ラルフ・ペナ(b)、ジーン・ギャメージ(ds) という、所謂ワンホーン編成――
A-1 Get Out Of Town
A-2 Ahmoore
A-3 Dozo
A-4 Mad About The Boy
A-5 Toot Sweet
A-6 Jack Departs
以上の6曲は、いずれも明快な歌心とスイング感に満ちた演奏ばかりです。しかしそれゆえに、聴き通すと、やや飽きがくるのも正直な感想でしょうか……。
それでも「Get Out Of Town」は素直なテーマ解釈と爽快なドライブ感が一体となった快演で、分かり易いアドリブは美メロの宝庫という感じです。
また哀愁が滲む「Ahmoore」は、しっとりとした情感があって、ちょっとワビサビの世界です。「Mad About The Boy」も、やや内向的なメロディ展開の妙が、ジャック・シェルドンの屈託の無さと上手くブレンドした名演だと思います。
共演者では、やはりウォルター・ノリスが素晴らしく、ホレス・シルバー調のゴンゴンいう左手のコード弾きとビル・エバンスっぽい右手のメロディラインが、非常に面白いスタイルです。ちなみにこの人は、後にオーネット・コールマンと共演したり、自己のリーダー作品では浮遊感溢れるスタイルで独自の世界を築いた隠れ名手ですから、要注意です。
もちろんリズム隊が一丸となったグルーヴも強烈で、けっこう黒い感覚も魅力的♪ さらに疾走感に満ちた「Dozo」でのノリなんか、新主流派っぽいところまで行っていますので、聴いて吃驚でしょう。煽られたジャック・シェルドンも過激な姿勢を示してくれます。
同じく「Jack Departs」での幾何学的な演奏は、とても1954年とは思えません。今日でも古びていないのではないでしょうか!?
☆Jack Sheldon Quintet (1955年録音)
こちらは「Jazz:West JWLP-2」として発売された2回目のセッション音源です。メンバーはジャック・シェルドン(tp)、ズート・シムズ(ts)、ウォルター・ノリス(p)、ボブ・ホイットロック(b)、ローレンス・マラブル(ds) という、なかなか凄い顔ぶれ――
A-7 What Is There To Say
B-1 Groovus Mentus
B-2 Beach-Wise
B-3 Palermo Walk
B-4 Blues
B-5 Irresistible You
B-6 Guatemala
B-7 Getting Sentimental Over You
ここでの注目は、やはりズート・シムズの参加でしょう。この時期のズート・シムズが絶好調だったのは、残れた録音からも歴史的に証明されていますが、ここでも流石の名演を聞かせてくれます。
もちろん主役のジャック・シェルドンも好調を維持しています。
まず「Groovus Mentus」が凄いですねぇ~♪ けっこう黒いハードバップでズート・シムズがグルーヴィにスイングしまくって痛快です。リズム隊もハードエッジな雰囲気で容赦なく攻め込んできますから、これにはジャック・シェルドンも大ハッスル! そしてズート・シムズも刺激されたのでしょうか、終盤のドラムスとの対決では待ちきれずにツッコミを入れてしまう場面もあったりして、憎めません。
そのあたりは即興的なブルースを聞かせる「Blues」でも楽しめる展開で、いきなりプローしまくるズート・シムズが最高です。ノリの良いリズム隊も素晴らしいですねぇ~♪
肝心のジャック・シェルドンは「What Is There To Say」で聞かせる歌心の妙が、尚一層、ディープなフィーリングで流石です。あぁ、泣けてきますねぇ……。もちろん「Irresistible You」での明快な歌心も不滅です。ズート・シムズとの関係も実に上手くいっているようです。
それはオーラスの「Getting Sentimental Over You」で頂点に達し、明るく楽しく、そしてちょっぴりセンチなハードバップを聞かせてくれます。あぁ、こういう哀愁系のモダンジャズこそ、何時の世にも受け容れられるものでしょうねぇ。こんな文章を書いている自分が虚しくなるばかりです。
また、このセッションでもウォルター・ノリスの活躍が素晴らしく、ファンキーな感覚に新主流派っぽい浮遊感が混じったような不思議系のスイングには、グッと惹きつけられます。
ということで、珍しいだけのアルバムでは決してありません。ただし、惜しむらくは1954年のセッションから2曲が欠落していることです。
しかしご安心下さい♪ 我国でCD化されたアルバムにはボーナストラックとして、その「Cheek To Cheek」と「Streets Of Madashi」が収録されています。前者は溌剌としたスタンダード解釈が素晴らしいアップテンポの名演ですし、後者はウォルター・ノリスが書いた和み系の名曲ですから、たまりません。
実は告白すると、オリジナル盤を入手した後、その2曲のために件のCDをゲットし、いろいろとあってオリジナル盤を手放したというのが、今の私です。まあ、オリジナル盤といえども盤質がイマイチでしたから、リマスターの良いCDでガッチリ鑑賞♪ なんて負け惜しみにしか聞こえないでしょうか……。
いずれにしても、これは聴かないと損をする演奏集だと思います。特にズート・シムズの快演、ウォルター・ノリスという隠れ名手の存在がありますから、ノー文句でジャズの楽しさに浸れると思います。