全く、暑い1日でしたから、映画館に非難してきました。
しかし表に出ると熱い、暑い!
こんな時は定石どおり、クールなボサノバしかありませんね――
■Jazz Samba Encore ! / Stan Getz & Luiz Bonfa (Verve)
新しいブラジル音楽であったボサノバが世界に広まったのは、スタン・ゲッツとヴァーブレコードの貢献があってこそだと思いますが、その端緒となった1962年のアルバムは、ボサノバではなくて、「ジャズサンパ」と題されていました。
さらに続けて出たのが「ビックバンド・ボサノバ」という、スタン・ゲッツのクールサウンドをゲイリー・マクファーランドのアレンジが彩ったアルバムですから、ジャズサンバとボサノバは同じなのか? あるいは別物なのか? 私なんか、ちょっと素朴な疑問にとらわれてしまいます。
で、路線3作目として作られたのが、本日のアルバムで、タイトルはズバリ「ジャズサンバ・アンコール!」です。しかも今回の共演者は、本場ブラジルのギタリストであり、民族音楽の研究家でもあったルイス・ボンファというのがクセモノ♪
結論から言うと、お洒落な感覚の中に土着的な色合が出た傑作盤となりました。
録音は1963年2月、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ルイス・ボンファ(g)、マリア・トレード(vo)、アントニオ・カルロス・ジョビン(g,p,per)、ジョージ・デュビビエ(b)、トミー・ウィリアムス(b)、Don Payne(b)、デイブ・ベイリー(ds,per)、Paulo Ferreira(ds,per)、Jose Carlos(ds,per) 等が入れ乱れたセッションです――
A-1 Sambalero (1963年2月8日録音)
心に滲みる胸キュンメロディが最高の名曲です。ハミングボーカルのマリア・トレードは、アストラッド・ジルベルトとは違った味わいの涼しさが大きな魅力ですねぇ~♪
演奏そのものはアドリブが少ししかない短いものですが、それがまた、良いんです。
とにかく私には、棺桶の中でも聴きたいという、お気に入りになっています。
A-2 So Danco Samba (1963年2月8日録音)
これはお馴染み、この後に吹き込まれる「ゲッツ~ジルベルト」でも印象的だった洒脱なボサノバ♪ スタン・ゲッツのクールで熱いテナーサックスも印象的ですが、ルイス・ボンファの予想外にジャズっぽいギターソロが最高です。
そして聞き逃せないのが、作者であるアントニオ・カルロス・ジョビンが弾くリズムギターの素晴らしさ♪ これぞボサノバの真髄だと思います。
A-3 Insensatez (1963年2月8日録音)
これも有名なボサノバのスタンダードで、確か邦題は「お馬鹿さん」でしたね♪ ここでは期待通り、マリア・トレードの爽やかボーカルが聴かれますが、どこか土着的な味わいが魅力的です。
もちろんスタン・ゲッツのテナーサックスはムード満点ですし、アントニオ・カルロス・ジョビンのピアノが、シンプルで良い味出しまくりです♪
A-4 O Morro Nao Tem Vez / 悲しみのモロ (1963年2月8日録音)
これもアントニオ・カルロス・ジョビンが書いた超有名曲♪ そして聴けば誰しも納得の名演になっています。
まずスタン・ゲッツがクールな音色で歌心いっぱいのアドリブを聞かせれば、ルイス・ボンファのギターも味わい深いメロディを弾きまくりです。
またリズム隊がジャズっぽさを強調したノリで、特に左右のスピーカーに分かれて印象的なペースを聞かせるジョージ・デュビビエとトミー・ウィリアムスの存在は強烈!
ですから後半はバンドが一丸となった粘っこい雰囲気で、まさにジャズサンバの魅力が全開しています。
A-5 Samba De Duas Natos (1963年2月9日録音)
原題は「トゥー・ノート・サンバ」という意味らしく、もちろん有名曲の「ワン・ノート・サンバ」を意識した演目です。
軽快なリムショットとルイス・ボンファのリズムギター、リズミックなスタン・ゲッツのテナーサックス、そしてマリア・トレードのラララのボーカルが素晴らしい限り♪
アドリブパートでは、ルイス・ボンファがスパニッシュ調のギターソロを聞かせてくれるのも、意味深かと思います。
B-1 Menita Flor / 私の花 (1963年2月9日録音)
マリア・トレードとルイス・ボンファが共作した素敵すぎる名曲です。クールなテナーサックスのスタン・ゲッツは、せつなさも滲ませた好演ですが、ここではマリア・トレードのボーカルが最高ですねぇ~♪ ちょっと土着的な味わいがあって、たまりません。
またルイス・ボンファのギターソロも完璧に出来すぎ! 何度弾いても、このフレーズしか出ないんじゃないでしょうか。
B-2 Mania De Maria (1963年2月9日録音)
これも前曲と同じ作者による曲作ですが、確かマリア・トレードとルイス・ボンファは結婚していたような……。
まあ、それはそれとして、アグレッシブなルイス・ボンファのギターが強烈で、スタン・ゲッツが押され気味……。その所為か、フェイドアウトが勿体無いところでした。
B-3 Saudade Vem Correndo (1963年2月27日録音)
これもマリア・トレードとルイス・ボンファの共作となる軽快なボサノバの決定版です。
ここではスタン・ゲッツがテーマメロディを流麗に歌いあげた後、マリア・トレードのボーカルが出て、ルイス・ボンファのギターソロが始るという、ジャズ系ボサノバ演奏の定石が決めつけられます。
バックのリズム隊も実にシャープで、良い雰囲気ですねっ♪
B-4 Um Abraco No Getz / A Tribute To Getz (1963年2月8日録音)
タイトルどおり、スタン・ゲッツに捧げられた演奏とあって、かなりジャズっぽいアプローチがスリル満点です。
まずアグレッシブなルイス・ボンファのギターが痛烈ですし、スタン・ゲッツも、このセッションでは一番、突っ込んだアドリブを聞かせてくれます。ただし歌心とドライブ感のバランスを忘れていないのは、流石!
そして再び登場するルイス・ボンファの指使いも、どうなっているのか、ちょっと圧倒されてしまいます。
B-5 Ebony Samba (1963年2月27日録音)
オーラスは和み系ボサノバで、という趣向でしょうか、とにかく安らいでしまいます。ギターとテナーサックスの絡みが、何気に素晴らしく、何時の間にか入っているマリア・トレードのラララのボーカルが本当に素敵です。
哀愁と涼やかさという、私がボサノバに求めるイメージが、好みの按配で出てしまったという、これも胸キュン演奏でした。
ということで、ヒットパレード的なA面に対して、意欲的なB面という雰囲気もある秀作だと思います。非常に涼しげなジャケットも素晴らしいですね♪
スタン・ゲッツのボサノバ物では、アストラッド・ジルベルトと組んだ作品が一番人気かもしれませんが、ここでのマリア・トレードとのコラボレーションは、その基本形でしょう。繰り返しまずが、土着的な味わいがあって、こちらも私は好きです。