今朝は家の庭に夥しい蝉の死骸があるのに仰天しました。
借りている家は木立に囲まれた一軒家で、しかも山間部ですから、毎日、蝉が煩いほどに泣いていましたが、死んでしまうのも一緒になると、ゲッとなります。
きっと今頃は、蟻が亡骸の始末をしているはずですが……。
ということで、本日は――
■Good Old Days / Dusko Goykovich (キングレコード)
確証はありませんが、現役トランペッターの中では我国で一番人気なのが、ダスコ・ゴイコビッチじゃないでしょうか。
ご存知のように、この人は東欧出身ながら本場アメリカでも活躍し、その後は欧州をメインに世界を巡業しながら、素晴らしいアルバムを作り続け、我国では1970年代からジャズ喫茶の人気者になっています。
しかし日本公演はなかなか実現せず、ようやく1996年に単身来日! 我国の若手精鋭をバックに従えて素晴らしいライブを繰り広げた事は、今や伝説になっています。
そして本日の1枚は、その時に敢行されたスタジオセッションから製作されたCDアルバムです。
録音は1996年7月1日、メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp,flu)、椎名豊(p)、上村信(b)、大坂昌彦(ds) というワンホーン編成ですが、実はこれと同じ顔ぶれの演奏が、同年7月6日のNHK-FMラジオ番組「セッション'96」で放送されており、これが非常に充実した大名演でしたから、このアルバムも大いに期待していました。ちなみに演目は2曲を除いて、全てがダスコ・ゴイコビッチのオリジナルです――
01 Good Old Days
アルバムタイトル曲は、もう、これしか無いという哀愁のスローバラード♪ しかもマイルス・デイビス直系のミュートの妙技をたっぷりと聞かせてくれるんですから、ダスコ・ゴイコビッチとプロデューサは分かっています♪
阿吽の呼吸を感じさせる若手リズム隊も、らしからぬ落ち着きが感度良好です。
02 Little Teo
ダスコ・ゴイコビッチが自分の孫の名前にちなんで作った、小粋でグルーヴィな名曲ですから、オープンで朗々と吹きまくる快演は「お約束」を超えています。
快適なビートを生み出すリズム隊も素晴らしく、特に控えめながらアクセントが強い大坂昌彦のドラミングは、温故知新の魅力があります。終盤でのダスコ・ゴイコビッチとの対決でも、一歩も退かぬ潔さ! スイングしまくっています。
03 In The Sign Of LIbra
スローなボサビートで演じられる、これも哀愁の名曲です。
ここでのダスコ・ゴイコビッチは、多分、フルューゲルホーンを吹いていると思われますが、その柔らかな歌心と音色の妙は、ベテランだけの枯れた味わいが最高です。
また椎名豊のピアノは膨らみのあるコード選びで印象的♪
04 Someday My Prince Will Come
これはマイルス・デイビスの名演が歴史になっている人気曲だけに、ダスコ・ゴイコビッチもミュートで自身のルーツを披露した感が濃厚です。
ただし、ファンにしてみれば、どうしてもマイルス・デイビスの演奏が耳タコ状態ですから、ややモドカシイ気分にさせられるかもしれません。いや、これは私だけでしょうか?
リズム隊も、そのあたりを意識し過ぎたのでしょうか、やや、モタツキがあるように感じます……。
05 How Insensitive
アントニオ・カルロス・ジョビンが書いた有名ボサノバ曲で、素晴らしい快演が披露されています。テーマ解釈とアドリブの歌心、そしてリズム隊の心地良さ♪ 本当に気持ち良いです。
ただし、ジャケットにも注意書きがあるように、途中で少しばかりデジタルノイズのような雑音が入ります。それでも、あえて収録したのが、ご理解いただけると思います。
06 No Love Without Tears
1970年代からダスコ・ゴイコビッチが十八番にしているオリジナル曲♪ スローな哀愁のテーマメロディが、ここでもミュートトランペットで吹奏されています。
あぁ、この「泣き」のフィーリングは、マイルス・デイビスとは似て非なるダスコ・ゴイコビッチだけの個性でしょうねぇ。何度聴いても、シビレます♪
07 Tokyo Shuffle Blues
初来日にちなんで書かれたグルーヴィなブルースで、椎名豊のゴキゲンなピアノがイントロになり、ダスコ・ゴイコビッチがタメを効かせたテーマ解釈を聞かせれば、もう辺りはハードパップ色に染上げられます。
ダレそうでダレないリズム隊のノリも素晴らしい熱演ですねっ♪
08 Ballad For Belgrade
またまたミュートトランペットで吹奏される哀愁のスローバラード♪ あぁ、こういう琴線直撃の曲調はダスコ・ゴイコビッチにしか書けないと感動させられるほどです。
もちろんアドリブパートでもマイルス・デイビス直系の静謐な歌心に満ちたフレーズが連発され、しかも確実にダスコ・ゴイコビッチのオリジナリティが出ているのですから、たまらんですねぇ♪
柔軟な伴奏で実力を証明するリズム隊も、良い感じです。
09 Old Fishrman's Daughter
オーラスはファンならずともお馴染みという名曲をやってくれるんですから、サービス満点♪ しかもここでは、あの「泣き」のメロディがオープンで吹奏される新機軸です。多分、フルューゲルホーンでしょうか、ソフトな音色と和みのアドリブフレーズがベストマッチの快演になっています。
それはグルーヴィなハードバップ感覚をも含んだ楽しい展開ですから、リズム隊も油断が出来ません。なかなかに厳しい伴奏とアドリブを聞かせる椎名豊、温故知新の上村信、ちょっと新しい感覚の大坂昌彦と、各人が奮闘しています。
ということで、来日ジャズメンの記録としては、またひとつ名盤が誕生したというわけです。ただし惜しむらくは、強烈なアップテンポの演奏が無いことで、このあたりは前述したラジオ放送音源やライブステージの場では相等に熱い演奏を繰り広げていたのですから、勿体無い感じです。
もしかしたらオクラ入りした演奏があるのかも!?
という期待を抱かせてしまうほど、充実したセッションということなんですねぇ。ライプ音源も含めて、いつの日か陽の目を見るような気がしています。
ちなみに私は、前述したNHK放送の演奏もテープに残していて、愛聴しているのでした。