公私共に困難に直面していましたが、なんとか光明が射してきました。
こういう事は、いつもながら、あっけなく片付くというか、本人の思い込みよりは簡単にいってしまうんですねぇ~。結果の良し悪しは別にしてですが……。
ということで、本日は気合の1枚を――
■Scratch / Kenny Barron (enja)
巷では「ジャケ買い」なんていう粋な行為が流行っているようですね。このアルバムなんか山城新伍風に言えば「ポエムですねぇ~、メルヘンですねぇ~」となるジャケットですが、どっこい、中身はガチガチのモロジャズが詰め込まれた裏腹盤です。
リーダーのケニー・バロンは、抜群のセンスとテクニックを兼ね備えた黒人ピアニストで、けっこう古くから活動していますから、局地的というかマニアックな人気があったんですが、どういう訳か長い間、決定的なリーダー盤を出すことが出来ませんでした。
しかしそれが好転したのが1980年代で、このアルバムあたりは、ジャズ喫茶に集うようなガチガチのファンから好意的に迎えられた代表作となりました。
なにしろ時代はウィントン・マルサリス(tp) 一派を中心とした新伝承派が台頭し、それに刺激されたベテラン勢がフュージョンの夢から覚めた者も含めて、一様に4ビートに回帰していました。そんな中で、この作品こそが、主流派ジャズの底力を存分に感じさせた新作として登場したのです。
録音は1985年、メンバーはケニー・バロン(p)、デイブ・ホランド(b)、ダニエル・ユメール(ds) というガチンコトリオ! しかも1曲を除いて全てがケニー・バロンのオリジナルという演目も強烈です――
A-1 Scratch
いきなり幾何学的なテーマが飛び出してくれば、辺りはすっかり硬派ジャズ色に染め抜かれてしまいます。しかもアドリブパートでは徹底してグルーヴィな4ビートが貫かれるんですから、たまりません♪
もちろんそれはモード系なんですが、デイブ・ホランドの弦の張りが緩いようなベースによるブゥ~ン、ブゥ~ン唸るウォーキングが実に良いですし、ドスドスバタバタに迫って来るダニエル・ユメールのドラムスも強力です!
そして主役たる、ケニー・バロンはハービー・ハンコックの影響下にあるピアノスタイルながら、充分に個性と歌心を発揮して憎めません♪
A-2 Quiet Times
これだけがカーメン・ランディという人のオリジナルで、綺麗なスロー曲ですから、ケニー・バロンのこよなく美しいピアノタッチが堪能出来ます。もちろん、じっくり醸し出される歌心の妙も素晴らしく、素敵なテーマメロディを変奏しつつ、どこまでも気持ち良い演奏に仕立てていくあたりは、流石♪
寄り添うデイブ・ホランドのベースも嫌味無く、目をつぶって真剣に聴くというジャズ喫茶モードには、うってつけの名曲・名演になっているのでした。
A-3 Water Lily
基本はワルツ曲なんでしょうが、重心の低いビードを敲き出すダニエル・ユメールの存在感ゆえに、重厚でハードな演奏が展開されます。
ケニー・バロンのピアノからもテンションが高く、それでいて琴線に触れまくるフレーズが連発されますから、完全にジャズ者の心を虜にしてしまうんですねぇ~♪ このあたりのツボの押え方こそが、この人の持ち味だと思います。
そしてデイブ・ホランドのべースソロが、これまた歌心の塊なんです♪ ダニエル・ユメールが、その背後で動かすブラシもシブイ!
う~ん、そこはかとなく泣けてきます。
B-1 Song For Abdullah
B面に入っては、いきなり叙情的なケニー・バロンのソロピアノ♪
曲調は「泣き」を含んだゴスペル風でもあり、欧州民謡の様でもあり、はたまた我国のニューミュージック歌謡曲の様でもありますが、もちろん聴いていて嫌味がありません。まあ、キース・ジャレットの様だという、スバリと言い切った御意見もあろうかと思いますが……。
まあ、それはそれとして、ここでのケニー・バロンは出来すぎです。聴いていて一瞬もダレず、全く穏やかな歌心の世界は、「良い」としか言えません♪
B-2 The Third Eye
一転して過激な演奏です。
基本はもちろん4ビートですが、トリオの全員が互いにガンガン、遠慮せずにぶつかりあって展開される世界は、当にジャズの本質でしょうか!? バラバラをやっている中で、ある時は正統派に収斂し、またある時はフリーに分裂していく様は、本当に痛快です!
このあたりは、当時の若手中心だった新伝承派に対するベテランの意地の爆発でしょうか!? 本当に凄みと気合に満ち溢れた演奏です!
B-3 And Then Again
オーラスはアップテンポのビバップ風ブルースですが、このメンツですから、一筋縄ではいきません。
早いフレーズを弾きまくるケニー・バロンは、マッコイ・タイナーのような力感溢れるスタイルから、瞬間的にセシル・テイラーへ接近遭遇していますし、デイブ・ホランドは重量感に満ちたベースワークながら、ブリブリの早弾きソロを披露♪ するとダニエル・ユメールはシャープなシンバルで絶妙のバックアップです。
あぁ、ジャズって本当に良いですねぇ~♪ そういう喜びをダイレクトに感じてしまいます。
ということで、これは当時のジャズ喫茶を中心に、かなりヒットした名盤だと思います。正直言うと、自宅で聴くにはハード過ぎるかもしれませんが、それなりの音量が確保出来る環境にあれば、これを聴かない手はありません。
もちろんヘッドホーンやカーステレオでガンガン聴くという手も、有りです。
そしてジャズ喫茶では、ぜひともリクエストしてみて下さいませ。ちなみにリアルタイムではA面が定番でしたねぇ~。
それと、もちろんCD化もされていて、どうやらボーナストラックが1曲入っているようですが、例によって残念ながら持っていないので、詳細はご容赦願います。