OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

やっぱり和みのザ・スリー・サウンズ

2008-12-21 12:03:08 | Jazz

Blue Genes / The Three Sounds (Verve)

ザ・スリー・サウンズはジーン・ハリス(p)、アンドリュー・シンプキンズ(b)、ビル・ダウディ(ds) から成るピアノトリオで、ご存じのように1950年代末からブルーノートに大量のレコーディングを残した同レーベルの看板スタアです。

もちろんその魅力の源はジーン・ハリスのリラックスしてグルーヴィなピアノでしょう。そしてそれをサポートするベースとドラムスの見事な一体感は、絶妙に自然体のアレンジに裏打ちされいるんでしょうねぇ~。とにかくジーン・ハリス・トリオじゃなくて、ザ・スリー・サウンズと、あえてバンドとして売っているところが、その証だと思います。

さて、このアルバムは売り出してもらったブルーノートを離れ、一時的にヴァーヴと契約していた時期に作られたもので、録音は1962年10月13日とされています。

 A-1 Mr. Wonderful
 A-2 Autumn In New Yourk / ニューヨークの秋
 A-3 Love Somebody
 A-4 Blue Genes
 B-1 Red Sails In The Sunset / 夕日に赤い帆
 B-2 In A Mellow Tone
 B-3 Gina, My Love
 B-4 Whims Of Chamberland

まずは上記のように、バラエティ豊かな選曲が大いに魅力です。そしてブルーノートとは、一味違ったリラックスムードが微妙に強いんですねぇ~♪

と言っても、スリー・サウンズがやっていることは何時もと変わらず、また録音担当もヴァン・ゲルダーですから、ブルーノートと基本は同じだと思います。しかし、この雰囲気の、良い意味でのユルユル感♪ 私には、そこがたまりません。

和みのスイングが心地良すぎる「Mr. Wonderful」、お馴染みのシンミリ系メロディをブルージーに解釈した「ニューヨークの秋」、個人的にはお目当てだったドリス・デイのヒット曲「Love Somebody」は素晴らしいアレンジでグルーヴィな演奏が展開されていきます。

その中心になっているのは、もちろんジーン・ハリスのピアノなのは言わずもがな、オスカー・ピーターソンやビリー・テイラー、レッド・ガーランドやハンク・ジョーンズといったバカテク&和み系のピアノスタイルを全く自己流にしてしまった、「楽しい系」ピアニストの真骨頂が存分に楽しめます。

実際、粘っこいスイング感とブロックコード弾きの巧みな構成で盛り上げていくアドリブの美味しさは、ほとんどのジャズ者を虜にしてしまうんじゃないでしょうか。

その極北がアルバムタイトル曲の「Blue Genes」で、この楽しいゴスペルロックのグルーヴは、ジャズに精神性を求める愛好者からは忌嫌われるほどの快楽性に満ちています。あぁ、ボビー・ティモンズもラムゼイ・ルイスも、この演奏を前にしては、……です。ビル・ダウディの狂熱のタンバリンも良い感じ♪ コクがあるのにあっさりと、決して脂っこくない仕上がりも高得点だと思います。

そしてB面に入っては、これも大衆ヒットの「夕日に赤い帆」が、ほどよい思わせぶりにソウルフルな解釈で演じられるんですから、グッとシビレがとまりません。このあたりはオスカー・ピーターソンのトリオとは似て非なる、まさにザ・スりー・サウンズだけの個性かもしれませんねっ♪

そうしち雰囲気の良さはデューク・エリントン楽団の十八番「In A Mellow Tone」でも、まさにグルーヴィなソフトスイングとして表現されていますし、ここでのカウント・ベイシーぱりのシンプルな音選びとか、ブルースフィーリングの旨みは絶品です。

またジーン・ハリスの自作曲「Gina, My Love」では、キュートなワルツビートのテーマメロディをエロル・ガーナー的な「後ノリ」で聞かせてくれるという、実に芸の細かい演技・演奏には、思わずはニヤリです。もちろんブロックコードの滑らかな使い方は完全にジーン・ハリス流儀なんですからねぇ~~♪♪

しかし、このトリオは決してジーン・ハリスだけのワンマンバンドではありません。例えばベースのアンディ・シンプキンスが大活躍の「Whims Of Chamberland」は、ハードバップの代表的なペースプレイヤーだったポール・チェンバースのオリジナル曲へ果敢に挑戦し、見事に結果を出した純正モダンジャズ! そして全篇で堅実なサポートと自己主張が展開されているのです。

ということで、完全に楽しさ優先主義のピアノトリオ盤ですから、アッという間に聴き終えてしまうほどです。そして既に述べたように、このムードは明らかにブルーノートの諸作と微妙に異なっているのです。

これは全くのサイケおやじ的推論ではありますが、セッションをプロデュースしたクリード・テイラーは、「まあ、気楽にやってよねっ、楽しくさぁ」なんて簡単な指示しか出さなかったんじゃないでしょうか? そしてそれでいて、ポイントのキメを要求するという、実に現場主義のやり方が感じられるのです。

ご存じのようにブルーノートのレコーディングセッションは、事前に演目をきっちり決定し、リハーサルも行ってから本番を録音するという完成度の高いものでした。それゆえに緊張感も高いイノセントな作品が生まれていたと思われますが、ザ・スりー・サウンズについては、こっちのようなリラックスして商売っ気のあるセッションを私は好みます。

ジャズ特有の、ある種の「厳しさ」が無いところが、大いなる魅力のアルバムだと思うんですよ。

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ゲッツとルグランの素敵なコラボ♪

2008-12-20 12:12:47 | Jazz

Communications '72 / Stan Getz & Michel Legrand (Verve)

1960年代以降のスタン・ゲッツといえば、まずはボサノバ♪ そしてチック・コリア(p) やゲイリー・バートン(vib) 等々の有能な若手を起用したレギュラーバンドでの活動を真っ先に思い浮かべてしまいますが、同時期にはスタジオレコーディング優先の企画として、様々に意欲的なアルバムも作っています。

本日の1枚もその中のひとつで、フランス音楽界の巨匠でジャズピアニストとしても有名なミッシェル・ルグランの作編曲と大胆にコラボレーションを展開した傑作盤だと、私は勝手に決めつけている愛聴盤です。

録音は1971年11月のパリ、メンバーはスタン・ゲッツ(ts) とミッシェル・ルグランが集めたオーケストラの共演ですが、結論から言うと緻密なストリングスやバンドアンサンブルに加えてコーラスやヴォイスが効果的に使われ、それはフランスの人気グループ「スイングル・シンガーズ」が担当しているようです。ちなみにグループのメンバーの中にはミッシェル・ルグランの姉というクリスチャンヌがいるわけですが、おそらくは契約の関係でしょうか、アルバムにはクレジットがありません。しかし聴けば一発で納得のダバダバコーラスがたまりませんよ♪

A-1 Communications '72
 いきなりシュビデュヴィ、ダバダバのコーラスとユニゾンしていくスタン・ゲッツのクールで熱いテナーサックス! 高速4ビートとブレイクの巧みな交錯も、用意周到なアレンジと、恐らくは多重録音を使ったであろうサウンド作りによって間然することがありません。
 このあたりは好き嫌いがはっきりするかもしれませんが、アルバムの幕開けとしては衝撃的であり、自然体だと思います。もちろんスタン・ゲッツのアドリブは凄いですよっ!

A-2 Outhouse Blues
 そして続くのが、このお洒落な4ピートのブル~スです。チープな電子オルガンと膨らみのあるオーケストラアレンジ、さらにスイングル・シンガーズの如何にもというコーラスワーク♪
 スタン・ゲッツのアドリブも、常と変わらぬ浮遊感でグルーヴィな雰囲気を作り出し、リスナーをモダンジャズ王道の安心感に導いて、流石だと思います。

A-3 Now You've Gone
 ミッシェル・ルグランが十八番のメロディ展開とアレンジの妙を用意すれば、スタン・ゲッツは緩やかなビートに乗って、最高のフェイクとアドリブを聞かせてくれます。ちょっとレトロな雰囲気の4ピートが実に良い感じてすねぇ~~♪
 2人のコラボレーションとしては当たり前すぎる気も致しますが、これが和みの源かもしれません。

A-4 Back To Bach
 スイングル・シンガーズでしかありえないというバロックメロディのダバダバコーラス、クールで甘いスタン・ゲッツのテナーサックス、そして躍動的な8ビート♪ ミッシェル・ルグランのアレンジも冴えまくりですし、グルーヴ全開のエレキベースも良い感じ♪
 このあたりの雰囲気はロマンポルノで女優さんが魅せてくれた官能演技のクライマックスで使われていたサントラ音源に散々パクられたものですから、当然、サイケおやじは大好きな演奏です。とにかく、これを聴いたら歓喜悶絶の気持ち良さ♪ ラウンジ系やソフトロックがお好みの皆様ならば絶対ですよっ!

A-5 Nursery Rhymes For All God's Children
 あぁ、ジェントルなムードが横溢したメロディとアレンジの素晴らしさっ♪
 スタン・ゲッツのテナーサックスも幻想的に浮遊していますが、リズム隊のビートが相当にディープなロック&ソウルの隠し味ですから、たまりません。
 地味ながら、ストリングスとエレピのコンビネーションも絶妙だと思います。

B-1 Soul Dance
 これまたお洒落映画のサントラ音源のような、スキャットコーラスとテナーサックの共演が素敵な演奏です。背後を彩る緻密なアレンジの完璧な再現は、参加ミュージシャンのレベルの高さの証明でしょうが、中盤からのグイノリ4ビートのグルーヴは、モダンジャズの楽しみに他ならず、かなり自然体の仕上がりがニクイところです。
 もちろんスタン・ゲッツはマイペースのアドリブですよ。

B-2 Redemption
 ちょっと湿りっ気のあるメロディとスローな演奏の展開は、スイングル・シンガーズのプログレ系のスキャットコーラスが効果的で、しかもスタン・ゲッツが如何にも新しい雰囲気の吹奏に挑戦しています。
 このあたりは完全に1970年代の「音」ですし、これを電気的に解釈すれば、ウェザー・リポートいう感じでしょうか。つまりスタン・ゲッツとウェイン・ショーターの似て非なる個性が解明される演奏かもしれません。
 個人的にはハスキーなサブトーンで幻想的な歌心を聞かせてくれる、こういうスタン・ゲッツも大好きです。 

B-3 Flight
 刺激的なストリングスの挑戦的な姿勢、そして受けて立つスタン・ゲッツのアグレッシブなアドリブが最高にエキサイティングです。う~ん、このハードドライヴなムードは今でも全く古びていないですねぇ~。
 ただし和みは全くありません。
 実はスタン・ゲッツには以前にもこんな演奏があり、それは1961年に吹き込まれた「Focus (Verve)」というアルバムで聞かれますが、リアルタイムでは、あまりにもプログレ過ぎたようですから、このトラックと聴き比べるのも一興かと思います。

B-4 Moods Of A Wanderer
 一転して、これはスローな展開で安らぎに満ちた世界です。
 ミッシェル・ルグランならではの優しいメロディとストリングのアレンジが、急速調やワルツテンポのビートと交わっていくあたりは凝り過ぎかもしれませんが、スタン・ゲッツはどんな場面でも本領発揮です。

B-5 Bonjour Tristesse
 そしてオーラスは「悲しみよこんにちわ」です。
 あぁ、こんなにせつないメロディをスタン・ゲッツが吹いてくれる、ただそれだけで満足してしまうのですが、ミッシェル・ルグランの細かい配慮、スイングル・シンガーズの素晴らしいコーラスワーク、そしてスローな前半から躍動的な8ビートが導入される後半まで、ジワジワと盛り上げてクライマックスに到達する展開は、実に感動的です。
 ただし、あまりにも出来すぎなんで、「感動的」というのもワザとらしいでしょうか……。正直、ちょっと素直になれない部分もあるんですよねぇ……。

ということで、これもジャズ喫茶的には完全無視の1枚でしょうか。しかし密かに自宅鑑賞で喜びに浸っているファンも多いと推察しております。実際、私がそうですから♪ 特に「Back To Bach」が入っているA面が、たまらんですよっ♪

こういうアルバムを作ってくれるから、ヴァーヴというレーベルは侮れませんね。ちなみにプロデュースはスタン・ゲッツ本人というのも、吃驚して納得です。

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ドルフィーに免じて

2008-12-19 09:45:01 | Jazz

Where ? / Ron Carter with Eric Dolphy (New Jazz / Prestige)

ジャケットにはエリック・ドルフィーがでっかい顔して写っていますが、これはれっきとしたロン・カーターのリーダーアルバムで、つまりはエリック・ドルフィーの人気にあやかった再発盤というわけです。

しかし私は、そんな事は全然知らず、ただただエリック・ドルフィーが聴きたくて買ってしまったんですねぇ~。もちろんジャケットもオリジナル (New Jazz) とは異なっていますが、若い頃の私はそれすらも知らず、鑑賞優先主義というか、聴きたいという純粋な衝動から輸入盤バーゲンで、これをゲットしたのです。

録音は1961年6月20日、メンバーはエリック・ドルフィー(as,fl,bcl)、マル・ウォルドロン(p)、ロン・カーター(cello,b)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という実力派が集合しています。

A-1 Rally
 いきなりエキセントリックで幾何学的な、個人的にはメロディとは呼びたくない旋律が、激しいアップテンポで演じられます。しかもそれはエリック・ドルフィーのバスクラリネットとロン・カーターの弓弾きチェロによるユニゾン&アンサンブルなんですから、悶絶です。
 もちろんアドリブはロン・カーターの、それこそギスギスした悪夢のようなチェロ! その背後には躍動的なチャーリー・パーシップのドラミング、陰湿なマル・ウォルドロンの伴奏、さらにジョージ・デュヴィヴィェが蠢き系の4ビートウォーキングというリズム隊が、暴虐なんですねぇ。
 そしていよいよ登場するエリック・ドルフィーは情念のバスクラリネット!
 ちなみにロン・カーターは、マイルス・デイビスの1960年代黄金のクインテットでレギュラーを務めた名手という認識があって、このアルバムもそれゆえの安心感があると思っていたのですが、ド頭からのこのアブナイ雰囲気! う~ん、先が思いやられるなぁ……。なんていうのが、初めて針を落とした時の正直な感想でした。

A-2 Bass Duet
 タイトルどおり、左チャンネルのロン・カーターと右チャンネルに定位するジョージ・デュヴィヴィェによるベース対決! 即興的なブルース進行を素材にグルーヴィな雰囲気が楽しいところですが、ここではリーダーであるロン・カーターを凌ぐ、ジョージ・デュヴィヴィェの恐ろしい実力に驚嘆してしまいます。
 しかしエリック・ドルフィーが出ませんからねぇ……。俺はドルフィーが聴きたくて、このアルバムを買ったんだぜっ! なんて憤慨したのが当時の忌憚のない心情でしたが、まあ、いいか……。なにせマル・ウォルドロンとチャーリー・パーシップの王道4ビートが心地良いですから♪♪~~♪

A-3 Softly, As In A Morning Sunrise
 お馴染みのスタンダードをロン・カーターがベースの弓弾きでリードしますが、その音程のアブナサには……。しかし途中からエリック・ドルフィーがアルトサックスで助け舟を出し、そのまんま突入するアドリブは、ブッ飛びと歌心の巧みな混合♪ チャーリー・パーシップのヴィヴィッドなドラミングも最高ですねぇ~♪♪
 しかしそれにしてもロン・カーターのアルコは、なんとかならんのかっ! もともとベースの弓弾きソロは好きではない私ですが、これには……。

B-1 Where ?
 セロニアス・モンク派のピアニストでアフリカ色の強い作風が得意だったランディ・ウェストンの書いた、情緒いっぱいのメロディなんですが、そのスローな展開の味わいが、失礼ながらロン・カーターのチェロによって見事にぶち壊されてしまったと感じます。そのアブナイ音程と趣味の悪さは、どーしても自分の感性に合いません。
 実際、これを聴いた時は、このアルバムを買ったのを後悔したほどです。
 しかしマル・ウォルドロンの伴奏は、なかなか味わい深く、ベースとドラムスのサポートも繊細で良い感じなんですよ♪ あぁ、なんとも勿体ないかぎりです。
 エリック・ドルフィーが出ないのも減点……。ジャケットからして、詐欺じゃねぇのかっ! なんて思ってしまったですね……。

B-2 Yes, Indeed
 しかし一転、これはエリック・ドルフィーのフルートが味わい深いゴスペル系のハードバップ♪ その穏やかな雰囲気の良さが、ここでも音程がヤバイというロン・カーターのチェロを見事に救っています。
 グルーヴィなリズム隊も地味ながら最高に印象的で、特にチャーリー・パーシップのブラシが冴えまくりですよっ♪ そしてロン・カーターも綱渡り的な快演という、別な意味でのスリルが満点なのでした。

B-3 Saucer Eyes
 オーラスは、これもチャーリー・パーシップのドラミングが素晴らしい、アップテンポの爽やかハードバップです。エリック・ドルフィーのフルートも決してコードから外れない王道の中に、激しい跳躍やエキセントリックな音選びで、実に興奮させられますねぇ~。
 またマル・ウォルドロンが十八番の執拗な反復フレーズを乱れ打ちしてくれますが、何時ものような脂っこさは無く、続くロン・カーターの4ビートウォーキングとチャーリー・パーシップのブラシ対決を見事に導いています。

ということで、過激なんだか保守的なんだか、ちょいと結論が見えない作品です。

既に述べたように、私はエリック・ドルフィーが完全なるお目当てでしたから、このジャケットにして、この内容というのは、些か騙されたような気もしていますが、もしもオリジナル盤のロン・カーターのジャケ写だったら、おそらくは買っていないでしょう。

ですから、ここでチャーリー・パーシップやジョージ・デュヴィヴィェという、あまりジャズのガイド本には登場しない名手達の実力に接することが出来たのは、嬉しい偶然でした。そしてロン・カーターのファンには申し訳ありませんが、ロン・カーターが居なかったら、もっと良いアルバムが出来ていたんじゃなかろうか? なんていう思いを、今でも禁じえません。

本日は暴言、失礼致しました。ドルフィーに免じてご容赦願います。

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ティナ・ブルックスのハードバップ直球勝負

2008-12-18 14:01:18 | Jazz

True Blue / Tina Brooks (Blue Note)

今でこそ手軽に聴けるこのアルバムも、1970年代までは名門ブルーノート4000盤台の中でも、存在そのものが珍しいという特級の超幻盤として君臨していました。

主役のティナ・ブルックスは、如何にも黒人テナーサックスという直球勝負型のプレイヤーで、しいて言えば、デクスター・ゴードンやハンク・モブレーを混ぜ合わせて素直にしたスタイルでしょうか。バルネ・ウィランの黒人版という感じもしますし、もちろんジョン・コルトレーンのフレーズや影響なんか微塵も出ないという潔さが、ハードバップ中毒者の琴線に触れまくりという人です。

このアルバムはティナ・ブルックスの初リーダー盤で、しかも公式には唯一のリーダー盤でもありますが、それは本人の早世による所為でもあります。ただしブルーノートでは、この他にも幾つかのセッションに参加しており、如何に当時、プロデューサーのアルフレッド・ライオンが期待していた逸材だっかが証明されるところです。

録音は1960年6月25日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ティナ・ブルックス(ts)、デューク・ジョーダン(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という滋味豊かなクインテット♪ もう、このメンツだけで、愛好者はワクワクしてくるんじゃないでしょうか。

A-1 Good Old Soul
 グッとタメの効いたリズム隊のグルーヴにダークなファンキーメロディというテーマが鳴り出した瞬間から、もうティナ・ブルックスの世界の虜になるのが、ハードバップ者の宿命でしょう。
 そして真っ黒なアドリブフレーズを存分に吹きまくるティナ・ブルックスの雰囲気の良さ♪ これはもう、何処を切ってもハードバップでしかありえないという素晴らしさです。もちろんリズム隊の4ビートはエグイほどにハードエッジなんですが、デューク・ジョーダンの参加が独特の愁いを滲ませていますから、尚更に味わい深いと思います。
 ですからフレディ・ハバードの若さに任せた朗々としたトランペットの響きも、絶妙に抑制された歌心に通じていて高得点ですし、デューク・ジョーダンの泣きメロのアドリブも良い感じ♪
 しかし決して情緒に溺れずに力強いラストテーマの合奏も最高です。何気なく聴けば、あまりにも当たり前の演奏に聞こえるかもしれませんが、こういう雰囲気はかけがえのないモダンジャズ黄金期の追体験に他ならないはずです。

A-2 Up Tight's Creek
 アップテンポで、ちょいとスマートな感覚も粋なハードバップの典型ですが、アドリブパート先発のフレディ・ハバードがイキイキとした満点の爽快感! 続くティナ・ブルックスもノリノリのフレーズを連発するという王道の展開ですから、実に和んでしまいますねぇ~♪ コルトレーンのフレーズが出ないのも素敵です。
 そしてデューク・ジョーダンが特有のハスキーなピアノタッチというか、聴けば一発で納得という美メロのフレーズ展開がニクイです。

A-3 Them For Doris
 ホレス・シルバーの名曲「Nica's Dream」をネクラに焼き直したような、ダークなラテン系ハードバップです。ちょっとモードが入っているような雰囲気も……?
 しかし演奏全体のグルーヴィなムードは、まさに黒人モダンジャズとしか言えません! ティナ・ブルックスの微妙に煮え切らないアドリブ展開はウェイン・ショーター風なところが面白く、リズム隊のミステリアスな重心の低さは、明らかに新時代のハードバップを表現しているんじゃないでしょうか。
 それでもジョン・コルトレーンのフレーズを出さないティナ・ブルックスの潔さ! ちなみにアドリブを演じているのはティナ・ブルックスだけというのも意味深でしょうねぇ。

B-1 True Blue
 アルバムタイトル曲はワルツビートのハードバップ! そしてブルース衝動も強いんですから、たまりません。リズム隊の濁った雰囲気も私は好きですし、アドリブパートをバックアップするセカンドリフもカッコイイです。
 う~ん、アドリブも含めて演奏時間の短さが勿体ないかぎり……。

B-2 Miss Hazel
 アップテンポでバンドが疾走する、これも痛快なハードバップで、テーマのサビで炸裂するアート・テイラーのラテンビート、そして全編をスイングさせまくるハイハットとシンバルのコンビネーションが、もう最高です。
 ティナ・ブルックスも直球勝負のハードバップ節ばっかりですし、フレディ・ハバードは明朗闊達に大ハッスル! するとデューク・ジョーダンが、これしか無いの美メロのアドリブで飛び跳ねるんですから、ジャズが好きで良かったと思える瞬間の連続になっています。
 あぁ、それにしてもアート・テイラー、最高っ!

B-3 Nothing Ever Changes My Love For You
 オーラスは哀愁たっぷりのハードバップという、まさに愛好者感涙の名曲♪ ホレス・シルバーだって、こんな演奏はなかなか出来ないであろうと思うほどです。テーマ演奏のアレンジも秀逸ですねぇ~~♪
 もちろんアドリブパートでも泣きのフレーズが頻発され、まずはフレディ・ハバードがハードに迫りつつも、美味しいキメがニクイところですし、ティナ・ブルックスはテナーサックスの音色そのものが泣いているという感じでしょうか、そのソウルフルな感性の豊かさは、地味ながらも同時代のテナーサックス奏者としては抜きん出た個性だと思います。
 そしてお待ちかね、こういう曲調ならば俺に任せろのデューク・ジョーダンが、もうこれ以上無いという美メロのせつないアドリブですから、涙がボロボロこぼれます♪

ということで、こんな素敵なバードバップ盤でありながら、リアルタイムでは売れなかったのでしょうねぇ……。アッという間に廃盤となって中古市場では高嶺の花の代名詞になっていたほどです。我が国のジャズ喫茶でも置いてある店は珍しいほどでした。

それが再発盤やCDが出ると、何処からともなくオリジナル盤がズラズラと現れて廃盤屋に並んだんですから、世の中の仕組みは分からないものです。尤も文字通りに「高値の花」ではありましたが……。

ちなみにティナ・ブルックスは既に述べたように、ブルーノートには未発表セッションがかなり残されていて、それらは今日までに集大成されておりますが、やはりこのアルバムの価値は内容の良さ、雰囲気の濃厚さで飛びぬけた1枚だと思います。

その秘められたR&B感覚が見事にハードバップに滲み出た黒人テナーサックスの醍醐味は、地味ではありますが、捨て難い魅力に溢れています。色見本みたいなジャケットデザインもイカシでいますねっ♪

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凄すぎるハンプトン・ホーズの秘宝

2008-12-17 11:53:15 | Jazz

Bird Song / Hampton Hawes (Contemporay / Fantasy-OJC = CD)

1999年に突如として発売されたハンプトン・ホーズの未発表演奏集ですが、その内容は全盛期だった1956年と1958年のトリオセッションで、しかもオクラ入りしていたのが不思議なほどに素晴らしい出来栄えだったのですから、吃驚仰天でした。

収録の全13曲は有名スタンダードとビバップの聖典曲、さらにハンプトン・ホーズのオリジナルという、全く王道の選曲も嬉しく、トリオのサポートメンバーもポール・チェンバース、スコット・ラファロ、ローレンス・マラブル、フランク・バトラーと役者が揃っています。ただし実際に聴いてみれば、そのメンツにも???という部分があるのは否定出来ず、それゆえにプックレット記載の録音データも怪しいのですが……。

一応、1956年1月18日のセッションがハンプトン・ホーズ(p)、ポール・チェンバース(b)、ローレンス・マラブル(ds) というハードバップトリオ♪ また1958年3月とされるセッションではスコット・ラファロ(b) とフランク・バトラー(ds) がサポートする、なかなか興味深い演奏になっています――

 01 Big Foot (1956年1月18日録音)
 02 Ray's Idea (1956年1月18日録音)
 03 Stella By Starlight (1956年1月18日録音)
 04 Blues For Jacque (1956年1月18日録音)
 05 I Should Care (1956年1月18日録音)
 06 Bird Song (1956年1月18日録音)
 07 Yesterdays (1956年1月18日録音)
 08 What's New (1958年3月録音)
 09 Just One Of Those Things (1956年1月18日録音)
 10 I'll Remember April (1958年3月録音)
 11 Cheryl (1956年1月18日録音)
 12 Blue 'N' Boogie (1958年3月録音)
 13 Blues For Jacque (alternate / 1956年1月18日録音)

――、まずはド頭の「Big Foot」からして、ハンプトン・ホーズが物凄い勢いです! グリグリにスイングしていくハードドライヴィンなピアノは、まさに黒人モダンジャズの真髄といって過言ではないと思います。そのブルース魂とジャズフィーリングの豊かさは、代表作とされる「Hampton Hawes Vol.1 (Contemporay)」に勝るとも劣らないでしょう。これは聴いていただければ、万人が納得されるんじゃないでしょうか。
 そのあたりの絶好調さは、同系演奏の「Blues For Jacque」の2つのテイクやタイトル曲の「Bird Song」でも堪能出来ますし、ハードバップを基本としながらも軽妙なグルーヴが味わい深い「Ray's Idea」や「Cheryl」にも顕著で、いずれもハンプトン・ホーズならではの「節」が出まくった快感が、それこそ存分に楽しめるのです♪
 またスタンダード曲の演奏では、パド・パウエルの歴史的名演に果敢に挑んだ「I Should Care」が潔く、思わせぶりな前半のピアノ独奏からリズム隊を呼び込んだ後半のイマジネーション豊かな展開に好感が持てます。同じような解釈の「Stella By Starligh」や「Yesterdays」も、後半のグイノリがさらに良いですねぇ~♪ ただし「Just One Of Those Things」は、ちょいとそのあたりをやり過ぎた雰囲気が賛否両論かもしれません。
 そして既に述べたように、気になるサポートメンバーについては、例えば「Big Foot」や「Ray's Idea」あたりで登場するベースソロなど、ど~しても私にはポール・チェンバースには聞こえません。バッキングの4ビートウォーキングにしても同様で、もしかしたらジョー・モンドラゴンかレッド・ミッチェルという疑惑も……。どうにかポール・チェンバースっぽいのは「Blues For Jacque」ぐらいだと思います。
 しかし、それはそれとして、とにかくハンプトン・ホーズが絶好調の快演には違いなく、こんな凄い演奏が埋もれていたという事実にはジャズシーンの魔界を感じてしまうほどです。
 さて、続く1958年とされるセッションは、いきなりグイノリという「What's New」の演奏が、これまた賛否両論でしょう。原曲の一般的な解釈のスローな味わいが否定され、グルーヴィにスイングしていくのですから!? もちろんハンプトン・ホース特有の「節」が楽しいほどに出まくっているのですが……。気になるスコット・ラファロの活躍は、後年のビル・エバンス・トリオで印象的だった、あの繊細に震えるようなベースソロの片鱗は感じられますが、意外にもポール・チェンバースっぽいところあるという発展途上です。
 それは些か落ち着きのない「I'll Remember April」やスピード違反気味の「Blue 'N' Boogie」でも同じ雰囲気なんですが、もしかしたら、こっちのセッションがポール・チェンバースの参加なのか!? 特に「I'll Remember April」のアルコ弾きなんか、モロですよっ! う~ん、謎は深まるばかりです。

ということで、その発売経緯も含めて、全くミステリアスなアルバムなんですが、ハンプトン・ホーズに関しては間違いなく「ハンプトン・ホーズだけの世界」です。ドライブ感満点のハードバップグルーヴは、この時期だけのハンプトン・ホーズを聴く喜び♪♪~♪

ジャケットもイケていませんので、あまり話題になったとも思えませんが、聴いて吃驚のアルバムですよっ♪ データ的な謎は誰かが何時か解明してくれるでしょうし、それまでは素直に楽しみませう。

初っ端から「Big Foot」の一発で、KO間違いなしですよっ♪

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ドルフィーのピュアハートライブ

2008-12-16 09:53:13 | Jazz

Eric Dolphy In Europe Vol.1 (Prestige)

エリック・ドルフィーといえば、あのブッ飛びのアルトサックスで、恐らくはチャーリー・パーカーの世界に一番近づいたプレイヤーだったと思うのですが、同時にフルートやバスクラリネットで醸し出されるガチンコのジャズも多いに魅力です。

どうやらエリック・ドルフィーはクラシックの勉強もしていたそうですから、譜面にも強く、また各種楽器のコントロールが上手いのは当然ながら、一端ジャズの世界に入ってしまえば、荒々しさと繊細な感覚の両面を見事に表現した演奏は驚異です。

さて、このアルバムは、そうしたエリック・ドルフィーのフルート&バスクラリネットの凄味が堪能出来るライブ盤♪

録音は1961年9月8日、コペンハーゲンの学生講堂での公演から、メンバーはエリック・ドルフィー(bcl,fl)、ベント・アクセン(p)、エリック・モーズホルム(b)、チャック・イスラエル(b)、ヨルン・エルニフ(ds) という現地調達の混成バンドです。ちなみにチャック・イスラエルは後年、ビル・エバンスのトリオではレギュラーを務める名手ですが、この時は某バレエ団の伴奏メンバーとして当地に赴いていたと言われています――

A-1 Hi-Fly
 セロニアス・モンク派の黒人ピアニストとして、やはり印象的な活動をしたランディ・ウェストンの代表曲で、ジャズメッセンジャーズのド派手なバージョンも残されているアフリカ色の強いハードパップ御用達のメロディですが、ここではエリック・ドルフィーのフルートとチャック・イスラエルのペースだけという、静謐なデュオ演奏♪
 まずはエリック・ドルフィーの思わせぶりなメロティフェイクによる導入部、その思惑を図るようなチャック・イスラエルによる腹の探り合いがあった後、あのマーチテンポも楽しいテーマメロディが出てきます。
 そしてアドリブパートに入っては、イマジネーション豊かに飛翔していく、まさにエリック・ドルフィーならではのフレーズがテンコ盛り♪ ビートをキープしつつも自己主張を忘れないチャック・イスラエルのペースも快感です。
 あぁ、それにしても息継ぎやエリック・ドルフィーの心臓の鼓動までもが感じられる雰囲気は、リアルですねぇ~~♪ ジャズに対するピュアハートというか、これは決して精神主義でジャズを聴いているわけではないサイケおやじにしても、感じざるをえないものがあります。

A-2 Glad To Be Unhappy
 優しいメロディが印象的なスタンダード曲で、まずはエリック・ドルフィーが曲想を大切にしたテーマ演奏♪ しかしアドリブパートに入ると一転、今度は激情迸る展開になるのですから、吃驚仰天です。う~ん、それにしても、ここでのフルートの表現力の凄さには悶絶させられますねぇ~。
 リズム隊はベント・アクセン以下、現地のトリオが務め、ベースはエリック・モーズホルムに交替していますが、彼等の実力もなかなか侮れません。エリック・ドルフィーの独り舞台が勿体無い感じさえしますよ。

B-1 God Bless The Child
 これもジャズでは有名曲ですが、なんとエリック・ドルフィーはバスクラリネットの単独演奏! 原曲のメロディフェイクはもちろんのこと、所々に良く知られたメロディの断片が出てくるのにも二ヤリとさせられます。
 しかし聴いているうちに、どこかしら煮詰まった雰囲気が感じれるのも確かです。
 当時のエリック・ドルフィーは、この欧州巡業直前にブッカー・リトル(tp) と組んだ伝説のバンドで強烈なライブレコーディングを残していますが、そこから作られたアルバム「At The Five Spot (New Jazz)」も、リアルタイムでは決して良い評価では無かったそうですし、こうして単身渡欧したのは現状打破の目論見があったのかもしれません。
 そんな「もがき苦しみ」が、この演奏から滲み出ていると感じるのは、私だけでしょうか……。しかし正直、こんな重苦しい演奏をやっていたら、大衆から見放されるのは当然という気も、残念ながらしています。それが例えピュアなジャズだとしてもです。

B-2 Oleo
 しかし一転、これは壮絶にして痛快な演奏です!
 曲はお馴染み、ソニー・ロリンズが書いたハードバップの聖典ですから、アップテンポで激しく爆発していくエリック・ドルフィのバスクラリネットは強烈です。低音部でのオドロの雰囲気、高音域でのエキセントリックな泣き叫び、さらに完璧な楽器コントロールから尽きることなく放出され続ける危険なフレーズの嵐!
 リズム隊も懸命の追走で、ビバップのクールな情熱というベント・アクセンのピアノ、スットコドッコイの合の手とタイトなハイハットが印象的なヨルン・エルニフのドラミング、健実なエリック・モーズホルムの野太いペースが、これもピュアなジャズ魂でしょうねぇ~~♪ 全く、ついついボリュームを上げてしまう演奏なのでした。

ということで、実はプレスティッジにおける最後の契約セッションが、このライブです。エリック・ドルフィーはこの後、帰米してジョン・コルトレーンのバンドに入り、あのヴィレッジ・バンガートでの壮絶ライブセッションを残すというわけですが、もちろん生涯を通して経済的には不遇でした。

そして1964年には病で他界してしまうのですが、エリック・ドルフィーが、あえて安定していた仕事のチコ・ハミルトンやチャールズ・ミンガスのバンドを自発的に辞め、極貧の中で自分の音楽に向き合っていた真摯な姿勢には、素直に共感を覚えます。

ある意味で、自分には決して出来ない生き方ですし、羨ましいというのには語弊があるかもしれませんが、このライブ盤あたりを聴いていると、サイケおやじは何時も、そんな思いが尽きないのです。

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四兄弟サウンドの魅力

2008-12-15 11:55:21 | Jazz

The Four Brothers....Together Again ! (Vik / RCA)

クラシックにサキソフォンカルテットという編成があるように、ジャズの世界にもサックスアンサンブルという楽しみがあります。

これが一般的に人気を集めたのは、白人ジャズオーケストラでは常に先進的な演奏を試みていたウディ・ハーマン楽団の第二次バンドによるところが大きいというのが歴史です。そしてそこにはスタン・ゲッツ(ts)、ズート・シムズ(ts)、ハービー・スチュワート(ts)、サージ・チャロフ(bs) という素晴らしい「四兄弟」が集められ、あまりにも印象的なサックスアンサンブルを聞かせてくれたのですが、そこに至る過程では、ジミー・ジェフリー(ts,bs) が陰の立役者だったというのも、歴史のひとつでしょう。

実はこの「四兄弟」サウンドは、決してウディ・ハーマン(cl,vo) のオリジナルのアイディアではなく、新しいバンド結成を目論んでいたウディ・ハーマンが、あるクラブに出演していた某バンドの演奏に感銘をうけ、そこに在団していた前述のサックスセクションを引き抜いたのが真相だと言われています。

しかしそこに居たジミー・ジェフリーだけが諸事情から参加出来ず、代わりに入ったのがサージ・チャロフだったというわけです。しかしジミー・ジェフリーは自分が書いていたアレンジだけは提供してバンドの基礎を作ったという、縁の下の力持ちを担当したのです。

こうしてウディ・ハーマンのオーケストラは1947年から「Four Brothers」や「Summer Equence」等々という、まさに歴史的な名演を残し、その要となった前述の「四兄弟」も、それぞれがスタアとなるきっかけを掴んだわけですが、しかしその裏側には、尚更に複雑な事情もあり、その「四兄弟」サウンドの成立には、他にサックスプレイヤーだけでもアル・コーン(ts)、アレン・イーガー(ts)、ブリュー・ムーア(ts)、そしてジェリー・マリガン(ts) あたりまでもが関わっていたと言われているのです。もちろん関連音源の録音セッションも同時期にいろいろと残されています。

まあ、それはそれとして、このアルバムはその人気「四兄弟」サウンドの再現を狙った企画セッション盤で、録音は1957年2月11日、メンバーはズート・シムズ(ts)、アル・コーン(ts)、ハービー・スチュワート(ts)、サージ・チャロフ(bs)、エリオット・ローレンス(p)、バディ・ジョーンズ(b)、ドン・ラモンド(ds)、そして特にアレンジャーとしてマニー・アルバムが参加しています――

 A-1 Four And One Moore
 A-2 So Blue
 A-3 The Swinging Door
 A-4 Four In Band
 A-5 A Quick One
 B-1 Four Brothers
 B-2 Ten Years Later
 B-3 The Pretty One
 B-4 Aged In Wood
 B-5 Here We Go Agin

――という上記演目は全て、素晴らしいサックスアンサンブルの妙技が堪能出来ます。もちろん各人が絶好調のアドリブも満載で、それは原盤裏ジャケットにソロオーダーが記載されていますから、ご安心下さい。

その似て非なる個性は、共通して持ち合わせるレスター派の流麗なスタイルに裏打ちされいますから、確固たる歌心とスマートなフレーズ展開は最高です。もちろんサックスアンサンブルは完璧で、そのイントネーションまでがバッチリ揃った、爽やかにしてスマートな響きにはシビレる他はないのです♪

躍動的な「Four And One Moore」や「Aged In Wood」、ふくよかなサウンドが心地良い「The Swinging Door」、痛快な合奏の「Here We Go Agin」、個人芸が冴える「A Quick One」、さらに「So Blue」のせつないムード等々、なかなかバラエティがあって、しかもビシッとスジが通った演奏ばかりですから、この手のサウンドが好きな皆様には必需品でしょう。また、レスター派サックスプレイヤーのファンにもオススメ♪ もちろんズート・シムズは絶好調だった時期ですからねぇ~♪ 言わずもがなの快演が楽しめますよ。

お目当ての「Four Brothers」再演バージョンは、オリジナルバージョンとは一味変えたアレンジがミソながら、そのスピード感と流麗なサックス合奏の醍醐味は尚更に鮮やかです。

ただしセッション全体の録音が完全に好き嫌いのある雰囲気で、リズム隊が極端に引っこんでいます。それゆえにサックスアンサンブルが思う存分に楽しめる結果にもなっているのですが、これが意図的なのかは不明……。

それと参加メンバーでは、バリトンサックス奏者のサージ・チャロフが、これがラストレコーディングです。なんとこの時は末期癌に侵されており、スタジオには車イスでやって来たという伝説も残されているほどですが、そのプレイは、とてもそんな事を感じさせない豪快な歌心がいっぱい! 素晴らしいの一言です。

ということで、ちょいとマニアックすぎる演奏集ではありますが、BGMとしても使えますし、それと知らずに聞いているうちにワクワクしてきますよ♪

しかし前述のようなリズム隊の存在感が薄い録音、それとモノラルミックスというあたりが減点対象かもしれません……。

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レイ・ブライアントのにくい貴方

2008-12-14 11:18:29 | Jazz

Lonesome Traveler / Ray Bryant (Cadet)

なんだかんだ言っても、自分は快楽的な生き方が自然体なんで、日頃に聴くものも気楽なアルバムが多くなっています。

例えば本日の1枚はジャズ喫茶的には軽く扱われているかもしれませんが、人気盤には違いなく、もしかしたらレイ・ブライアントでは最高のベストセラーなのかもしれません。もちろん私には必需品の愛聴盤♪ 内容はこの前作「Gotta Travel On (Cadet)」をよりお気楽に発展させたゴスペル系歌謡ジャズロックの決定版です。

録音は1966年9月1&8日、メンバーはレイ・ブライアント(p)、ジミー・ロウザー(b / 9月1日)、リチャード・デイビス(b / 9月8日)、フレディ・ウェイツ(ds)、クラーク・テリー(flh)、スヌーキー・ヤング(flh) という名手揃いですが、結論から言うと主役はあくまでもレイ・ブイアントを主役としたピアノトリオで、2人のトランペッターは彩としてのホーンアンサンブルを作るだけなんですが、これが実に気持ち良い演奏ばかりです――

A-1 Lonesome Traveler (1966年9月8日録音)
 下世話なフレディ・ウェイツのドラムス、躍動的なリチャード・デイビスのベースリフがあって、さらに昭和歌謡曲っぽいホーンアンサンブルという脇役陣の素晴らしさ♪ ですからレイ・ブライアントが何の屈託も無くゴスペル&ソウルなメロディを弾いても、その場は和みの熱気に満たされるだけという、全く私にとっては至福の演奏です。
 とにかくレイ・ブライアントの転がりまくったピアノからはゴッタ煮の美味しさ、闇鍋の危うい楽しさが堪能出来ます。そして3分ほどの短い演奏時間が愛おしくなるばかり♪

A-2 'Round Midnight (1966年9月1日録音)
 モダンジャズを超えて20世紀の名曲となったセロニアス・モンクの有名オリジナルが、なんとダークなボサロックで演じられるという禁じ手が、これです。
 しかもレイ・ブライアントは最初、ソロピアノで神妙にメロディフェイクをやっているんですねぇ~。そのタッチの力強さ、真摯なジャズ魂は流石と唸ってしまいます。そしてそれが一転、フレディ・ウェイツのガサツなボサビートに乗せられた快楽の展開となるんですから、絶句して感涙です♪
 キワモノ寸前のアレンジも素晴らしく、もしこれをセロニアス・モンクが聞いていたとしたら、どう思ったのか非常に興味をそそられるのでした。

A-3 These Boots Were Made For Walkin' (1966年9月8日録音)
 邦題は「にくい貴方」というナンシー・シナトラが歌った大ヒット曲のカバー♪ それを楽しいゴスペルロックに仕立てた、本当にたまらない演奏です。リチャード・デイビスのあざといベースも最高に効いていますねぇ~♪
 もちろんレイ・ブライアントも本領発揮の真っ黒なアドリブが全開で、後年のリチャード・ティーのようなグルーヴでバンド全体をグイグイと引っ張っていきますし、シンプルで楽しいホーンアレンジや如何にも1960年代のテレビショウみたいなドラムスの響きも、私は大好きです。

A-4 Willow Weep For Me (1966年9月1日録音)
 このアルバムでは一番、正統派ジャズっぽい演奏でしょうか、演目そのものがお馴染みのブルース系歌謡スタンダード曲ということもあって、レイ・ブライアントもリラックスしてスイングしたピアノを聞かせてくれます。
 しかし、と言っても、そこはこのアルバムの色合いが大切にされた雰囲気で、幾分早めのテンポでライトタッチの展開は、イノセントなジャズ者が最も毛嫌いする仕上がりかもしれません……。
 それでも私は、これだってレイ・ブライアントならではのモダンジャズだと思っていますし、人気の秘密じゃないでしょうか。

B-1 The Blue Scimitar (1966年9月1日録音)
 ちょいとヘヴィな雰囲気のゴスペル系モダンジャズで、おそらくはホーンセクションの2人が敲いたパーカッションやアフロなドラミングを披露するフレディ・ウェイツの存在が、なかなか素敵なスパイスになっています。
 レイ・ブライアントも十八番の力強い左手、絶妙にマイナーな音選び、グリグリにツッコミ鋭いフレーズもエグイですし、かなりのガチンコを聞かせてくれます。
 このアルバムの中では異質の演奏なんですが、それがネクラなムードになっていないのは流石というか、それこそがレイ・ブライアントの資質だと思います。

B-2 Gettin' Loose (1966年9月8日録音)
 一転して楽しいレイ・ブライアントのオリジナル曲で、ラテンビートとゴスペルムードの華麗なる結婚という感じが実に楽しい雰囲気です。ホーンアレンジが、なんとなく西部劇のテーマ調になっているのも高得点♪
 短い演奏ですが、場面転換としては気が利いています。

B-3 Wild Is The Wind (1966年9月1日録音)
 そして、またまた一転、今度はレイ・ブライアントがソロピアノで地味なスタンダードを存分に聞かせるスローな演奏で、相当にジャズっぽい雰囲気が濃厚です。そして途中から密やかに入ってくるベースとドラムスを従えて、グッとジェントルなムードが高まった展開は、これぞモダンジャズの保守本流なのでした。
 ただしレイ・ブライアントとしては、地味過ぎるのが難点かもしれません……。

B-4 Cubano Chant (1966年9月1日録音)
 さてさて、これぞレイ・ブライアント的な名曲の決定版で、本人のステージでも、これが出ないと収まらないというオリジナル♪ 今日まで幾多のバージョンがレイ・ブライアント自身によっても吹き込まれていますが、ここではホーンアレンジを効果的に使ったゴスペルロックな演奏がたまりません。
 力強いピアノのエグイ感覚は実に真っ黒ですし、適度にC調なテーマ演奏、エキゾチックな本来のメロディの心地良さ♪ あまり期待するとハズレるかもしれませんが、私は大いに気にいっているのでした。

B-5 Brother This 'N' Sister That (1966年9月1日録音)
 そしてオーラスは、これもゴスペルロックが丸出しというレイ・ブライアントのオリジナルで、まさにアルバムの締め括りには、これしか無いの雰囲気が横溢しています。あぁ、フレディ・ウェイツのダサダサのドラミングが実に素晴らしいですねぇ~~♪
 なんて思っているのは私だけかもしれませんが、それがあってこそのレイ・ブライアントのここでの名演じゃないでしょうか。如何にものフレーズしか出てこないピアノは最高ですよっ♪♪~♪

ということで、ワケアリの旅の途中を想わせる美女ジャケットも素敵ですし、けっこうゴリゴリの音が楽しめる録音も良いと思います。

レイ・ブライアントは、このアルバムのように所謂シャリコマな事をやり続けたが為に、1960年代の我が国では評価が低かったのかもしれませんが、ピアニストとして黒人大衆音楽を追求する姿勢は、それも立派なモダンジャズそのものじゃなかっでしょうか? ジャズは娯楽だと思うんですよ。

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ミンガスやエバンスの映像いろいろ♪

2008-12-13 12:11:23 | Jazz

European Nights 1964-1970 / Bill Evans, Lee Koitz, Charles Mingus (Impro-Jazz = DVD)

ビル・エバンスとチャールズ・ミンガスの欧州巡業から、貴重なライブ映像を集めたオムニバスの復刻DVDです。しかも年代的に、なかなか珍しいメンバーやゲストが入ったものばかりですから、嬉しいですねぇ~♪

Charles Mingus Sextet (1970年10月21日、デンマークで収録)
 01 Pithecantropus Erectus
 メンバーはエディ・プレストン(tp)、チャールズ・マクファーソン(as)、ボビー・ジョーンズ(ts)、ジャッキー・バイアード(p)、チャールズ・ミンガス(b)、ダニー・リッチモンド(ds) という充実のレギュラーバンド♪
 そして演目はミンガスバンドでは必修科目とう名曲「直立猿人」なんですが、残念ながら途中からの収録です。しかしそれがジャッキー・バイアードのエキセントリックにゴッタ煮のピアノが、本当にガンガン炸裂したスタートなんですから、いきなりの大興奮!
 混濁したバンドアンサンブルの熱気、意外にも冷静にバンドメンバーを支えるチャールズ・ミンガスの貫禄も流石ですし、続くボビー・ジョーンズのテナーサックスも大健闘です。ちなみにこの人は白人ながら独自のスタイルを持った隠れ名手で、激ヤバのプローやスタン・ゲッツの物真似も上手いので、一時はジャズ喫茶で局地的な人気者に成りかけた時期もあったほどですから、この映像は嬉しいプレゼントでした。
 気になる画質は「-A」で、約9分ほどのモノクロ映像ですが、音質は問題無く楽しめると思いますし、カメラワークも安定感があります。

Charles Mingus Sextet (1971年、ドイツで収録)
 02 Mingus, Mingus, Mingus
 03 Blues
 メンバーはジョン・ファディス(tp)、チャールズ・マクファーソン(as)、ボビー・ジョーンズts,cl)、ジョン・フォスター(p,vo)、チャールズ・ミンガス(b)、ロイ・ブルックス(ds,etc.) という、かなり珍しい編成ですが、演奏は充実しています。
 まず「Mingus, Mingus, Mingus」は哀愁のテーマからグイノリのアドリブパートへ繋がり、ボビー・ジョーンズがクラリネットで大名演! もうこのパートを楽しめるだけで満足してしまいますが、続くチャールズ・ミンガスのペースソロが、この時代になっても怖さを感じさせてくれます。まさに大親分の貫禄でしょうか!? またディジー・ガレスピーの弟子だったジョン・ファディスのハイノートも頑張っていますねっ♪
 そして「Blues」は、思わせぶりなチャールズ・ミンガスのペースソロからグルーヴィな雰囲気が横溢し、ジョン・フォスターのボーカルとピアノが粘っこいブルースをリードするという、まさに黒人音楽ど真ん中の演出で、チャールズ・マクファーソンやジョン・ファディス、そしてボビー・ジョーンズも熱演ですが、ここでの主役はロイ・ブルックスの隠し芸だったミュージックス・ソーでしょう! これは弾力のある板状の「洋式のこぎり」をマレットで敲き、のこぎりの板を片手で歪ませながら音階を出していくという至芸で、話だけは聴いていたのですが、こうして映像で観られる喜びは格別です。もちろんこれがポヨヨヨ~ン♪ と、最高に不思議な心持ちにさせられるんですねぇ~♪ 観客も呆気にとられて拍手喝采ですよ♪
 気になる画質は、ここも「-A」のモノクロ映像で、演奏時間は2曲で約16分、音質も十分にバランスが良いと思います。

Bill Evans Trio with Lee Konitz (1965年11月1日、ストックホルムで収録)
 04 What's New
 05 How Deep Is The Ocean
 06 Beautiful Love
 これまた非常に珍しいメンツによるライブ映像で、ビル・エバンス(p)、ニールス・ペデルセン(b)、アラン・ドウソン(ds) というトリオにリー・コニッツ(as) が加わって、実に素晴らしい演奏が堪能出来ます。
 まず「What's New」は途中からの収録とはいえ、いきなりニールス・ペデルセンの物凄いペースソロ! グイノリのビートに恐ろしい早弾きと野太いグルーヴは、この時、まだ16歳だったとは思えないほどです。続くリー・コニッツの意味不明なメロディフェイクもアブナイ雰囲気ですねぇ~。しかもこの後にメンバー紹介をするリー・コニッツが、ニールス・ペデルセンを「ニューボーイ」と一言、思わず苦笑いの場面には観客も大喜びです。
 そして始まる「How Deep Is The Ocean」は、いよいよビル・エバンスが大活躍♪ 十八番のミディアムテンポで最高のメロディフェイクと耽美なアドリブフレーズの洪水には、まさにビル・エバンスだけのモダンジャズが全開なんですねぇ~~~♪ 映像では、あの俯いた姿勢でピアノに向かい、珠玉の美メロを紡ぎ出していく様が感動的に映し出されていきます。
 リー・コニッツも空間を自在に浮遊する唯一無二のスタイルを押し通し、そこに絡むビル・エバンスのピアノ、さらに強いビートでそれを支えるドラムスとベースというバンドコンビネーションの潔さには、本当にゾクゾクさせられますよっ♪
 また「Beautiful Love」はビル・エバンスのトリオによる快演で、アラン・ドウソンのシャープなシンバルとニールス・ペデルセンの豪快なウォーキング、さらにビル・エバンスのアドリブが冴えまくりです。しかもクライマックスのソロチェンジではアラン・ドウソンがブラシの妙技ですから、たまりません。ちなみにこの人はトニー・ウィリアムスの師匠と言われる名手ですが、映像は意外に少ないので貴重だと思います。
 画質は正直「B」クラスなんですが、音質とミックスのバランスは良好ですし、なによりもニールス・ペデルセンが駆け出し時代から、実にとんでもない実力者だったという実態が確認出来るだけでも、完全なる「お宝」なのでした。

Bill Evans Trio (1964年9月2日、ストックホルムで収録)
 07 My Foolish Heart
 このDVDでは一番古い演奏ですが、画質・音質ともに非常に良好♪ メンバーはビル・エバンス(p)、チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds) という些かシブイ実力トリオで、演目は十八番のスタンダードとくれば、スローな展開の中にはビル・エバンスがキメの美メロしか出していないという素晴らしさです。
 もちろん俯いてピアに向かう姿は感動的ですし、映像そのものが、まるで長谷部安春監督が撮った日活ニューアクションのハードボイルド調というモノクロですから、たまりません。もちろんカメラワークも絶品!
 地味な演奏ですが、間然することのない5分間のスタジオライブです。

Bill Evans Trio (1970年12月15日、デンマークで収録)
 08 Emily
 これも画質・音質ともに良好なスタジオ演奏で、メンバーはビル・エバンス(p)、エディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds) というお馴染みのレギュラートリオです。今となっては、この時期のトリオは安定感がありすぎて、イマイチ人気薄かもしれませんが、やはりグッと惹きつけられるものがありますねぇ~♪
 特にエディ・ゴメスはやっばり凄いです。実は前述のニールス・ペデルセンがあまりにも衝撃的だったんで、そのまんまビル・エバンスのトリオに入っていれば……、なんて不遜な事を思っていたのですが、エディ・ゴメス恐るべし!
 わずか4分半のモノクロ映像とはいえ、これも貴重なコレクターズアイテムだと思います。

Bill Evans Solo (1969年初頭、ニューヨークで収録)
 09 I Love You Porgy
 これはボーナストラックで、ビル・エバンスのソロピアノ演奏ですが、演目が私の大好きな「愛するポギー」というだけで高得点! ビル・エバンスは厳しい態度で緩急自在なピアノを聞かせてくれます。
 モノクロ映像で3分半ほどのスタジオパフォーマンスですが、画質・音質ともに問題の無いレベルでしょう。

ということで、実は音源だけは、これまでも様々な関連ブートで流通していましたが、映像作品集としては、なかなか見どころの多い逸品です。

既に述べたように画質はそれなりの部分もありますが、音質は全て問題無いモノラルミックスですし、まだまだ本物の勢いがあったモダンジャズの貴重なライブ映像を拝めるだけ、有意義な時間が過ごせると思います。

個人的にはロイ・ブルックスのミュージック・ソーとか、若き日のニールス・ペデルセンの天才ぶりが拝めただけで満足しています。それとボビー・ジョーンズ♪ この人も再評価が望まれますね。

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ラウズとクイニシェットの和みのバトル

2008-12-12 12:27:20 | Jazz

The Chase Is On / Charlie Rouse & Paul Quinchette (Bethlehem)

個人芸という側面が強いモダンジャズのひとつのウリがバトル物、つまり対決セッションですが、特に同種の楽器のぶつかりあいはアドリブ饗宴の醍醐味だと思います。

しかしそこにギスギスしたものばかりが強くなると、聴いている側は決して和めません。むしろ協調と対話が成立した真剣勝負こそが、一番望まれる姿勢だと思います。

と、いきなりこんなことを書いてしまったのは、最近の仕事が完全に仁義なき戦いになっているからで、誰を信用していいのか、疑心暗鬼の暗中模索で連日、鬼のようなことをやっている自分がいるからです。

そこで、まあ、せめても聴くレコードぐらいは和みを求めてしまうわけですが、本日ご紹介のアルバムは、一応はバトル物の体裁ながら、実に協調性の高い緊張と緩和が見事な仕上がりになっています。

その主役たるチャーリー・ラウズは、セロニアス・モンクのバンドレギュラーを長年務めた黒人テナーサックス奏者で、いつも同じようなフレーズばっかり吹いている印象もありますが、本音はビバップの伝統を立派に継承している実力派♪

また相手役のポール・クイニシェットは、レスター・ヤング直系のソフトな歌心と絶妙のスイング感を持ち合わせた名手で、黒人ながら白人的なスマートさも漂わせるあたりが、私のお気に入り♪ テナーサックスそのものの音色もフガフガしながら、ハスキーなサブトーンが実に心地良いのです。

録音は1957年8月29日&9月8日、メンバーはチャーリー・ラウズ(ts)、ポール・クイニシェット(ts)、ウイントン・ケリー(p / 8月29日)、ハンク・ジョーンズ(p / 9月8日)、フレディ・グリーン(g / 9月8日)、ウェンデル・マーシャル(b)、エド・シグペン(ds) という味わい深い組み合せが楽しめます――

A-1 The Chase Is On (1957年8月29日録音)
 ウイントン・ケリーの勢いが表出したイントロから景気の良いテーマ、それに続くアドリブ合戦の先発はチャーリー・ラウズです。
 ちなみにバトル物はステレオミックスがやはり楽しく、右チャンネルにはチャーリー・ラウズ、対して左チャンネルには、もちろんポール・クイニシェットが定位して、ブリブリとスカスカの自己主張となっています。
 ウイントン・ケリーの弾みまくったピアノも絶好調ですし、エド・シグペンのドラミングも流石の上手さですが、惜しむらくは録音の状態からピアノが幾分引っこんでいるのが残念です。

A-2 When The Blues Come On (1957年9月8日録音)
 しっとりとした泣きのメロディが心にしみる名曲にして名演です。とにかく初っ端からポール・クイニシェットが最高のメロディフェイク♪ 音色の妙も素晴らしく、サビで登場するチャーリー・ラウズのハートウォームなテナーサックスとは好対照の演出です。
 もちろんアドリブパートでも両者は持ち味を存分に発揮していますが、ここはポール・クイニシェットに軍配が上がるでしょう。
 ちなみにピアノはハンク・ジョーンズに交替し、フレディ・グリーンのリズムギターが参加したのも曲想にはジャストミートしています。そしてこの日の録音では、左にチャーリー・ラウズ、右にポール・クイニシェットが定位したステレオミックスなので、要注意かもしれません。まあ、このあたりは聴けば納得だと思います。

A-3 This Can't Be Love (1957年8月29日録音)
 お馴染みの楽しくて胸キュンのスタンダード曲で、イントロから飛び跳ねまくりのウイントン・ケリー♪ そして絶妙のバンドアンサンブルからチャーリー・ラウズのアドリブに入るあたりは、ステレオミックスの良さが上手く活用されています。
 そのチャーリー・ラウズのテナーサックスが、幾分ソフトな音色とフレーズ展開になっているのも興味深く、あの思い出し笑いのような頻発フレーズも尚更に憎めません。
 そして続くポール・クイニシェットが、ここでも淀みない歌心と楽しすぎるドライヴ感♪ そこへ密かに絡みついていくチャーリー・ラウズのテナーサックスにも、瞬間的にグッとシビレてしまいます。
 またウイントン・ケリーが最高級のアドリブを聞かせてくれるのも嬉しいプレゼントで、途中で誰かが、思わず「イェ~」とか声を発してしまうんですねぇ~~♪ まさにジャズの喜びって感じです。
 さらにクライマックスではテナーサックスのバトルが「お約束」ながら、その和みのムードが素晴らしく、これぞ協調! しかし決して八百長ではない、リアルファイトなのは言わずもがなでしょう。

A-4 Last Time For Love (1957年8月29日録音)
 そしてこれまた和みの極みという、せつないメロディの上手すぎるジャズ的な展開♪ まずはテーマ部分のアンサンブルとリラックスしたノリの良さ、そのゆったりとした感情表現には感涙してしまいます。
 それはアドリブパートにも見事に引き継がれ、ポール・クイニシェットが「全てが歌」のフレーズで絶妙にテナーサックスを泣かせれば、チャーリー・ラウズは思い切ったフレーズ展開で男泣き♪
 ウイントン・ケリーも最高のイントロと上手い伴奏で存在感を示していますし、何度でも聴きたくなる名演だと思います。

B-1 You're Cheating Yourself (1957年9月8日録音)
 フレディ・グリーンのギターが入っている所為でしょうか、かなりモダンスイング調の楽しい演奏になっていて、しかも原曲メロディに秘められた胸キュンの味わいが見事に活かされた、これも名演だと思います。
 しかしアドリブパートでは両者が相当に入れ込んだ熱血というか、特にチャーリー・ラウズはセロニアス・モンクとやっているような過激な音の跳躍も聞かせてくれますし、ポール・クイニシェットにしてもジョン・コルトレーンと対決したセッションのような、かなりツッコミの効いたフレーズを使っています。
 ただし演奏全体に歌心は決して蔑ろにはされておらず、ウイントン・ケリーのピアノは極上のハードバップを聞かせてくれるのでした。う~ん、最高っ♪♪~♪

B-2 Knittin' (1957年8月29日録音)
 グルーヴィな4ビートのペースウォーキングにハードボイルドなシンバルワーク、そして粘っこいウイントン・ケリーのピアノが最高のイントロ! さらにシャレの効いたテーマ合奏という、まさにジャズの楽しみが満載の演奏から、アドリブパートもメンバー全員が抜かりなしです。
 特にリズム隊の存在感は強い印象を残し、それゆえにチャーリー・ラウズもポール・クイニシェットも自分の持ち味を完全披露するのですが、特にポール・クイニシェットの品格を落とす寸前のプロー、それに続くウイントン・ケリーのファンキーピアノが、最高の相性なんですねぇ~♪
 そしてウェンデル・マーシャルのペースが手堅いアドリブとサポートの上手さを聞かせれば、エド・シグペンのドラミングもじっくり構えてシャープな切れ味です。

B-3 Tender Trap (1957年8月29日録音)
 確かフランク・シナトラが十八番にしているスタンダード曲だと思うのですが、ここでの和み優先の演奏は、テナーサックスの魅力を存分に活かしたテーマアンサンブルが心地良いかぎり♪ ウイントン・ケリーのピアノも、実にしぶとく活躍しています。
 もちろんアドリブパートもなかなかの出来なんですが、このサックスアンサンブルというか、テーマ部分のアレンジと上手い演奏は絶品だと思います。エド・シグペンのブラシは本当に至芸ですよっ♪
 
B-4 The Things I Love (1957年8月29日録音)
 これも2本のテナーサックスが抜群のハーモニーと美しい協調性を聞かせる名演で、曲も私の大好きなスタンダードですから、たまりません。
 ポール・クイニシェットが優しく歌えば、チャーリー・ラウズの些かケレンの効きすぎたフレーズの連発には苦笑するしかありませんが、ウイントン・ケリーのピアノが琴線に触れまくりですから、結果オーライ♪
 欲を言えば演奏時間の短さが残念です。

ということで、極めてモダンスイングに近いハードバップなんですが、そんなスタイル分類はどーでも良くなるほどに和みの演奏ばかりです。特にウイントン・ケリーが素晴らしいですねぇ~♪ ただし既に述べたように録音の状態から、ピアノの音が幾分引っこんでいる所為か、誰も名演とか褒めないのは勿体ないでしょう。まさに隠れた名演として、ファンは密かに楽しんでいるはずだと思うのですが。

肝心のチャーリー・ラウズとポール・クイニシェットは、見事な協調とミスマッチの個性が最高に発揮された快演です。個人的には贔屓のポール・クイニシェットが好調なのが嬉しところですが、チャーリー・ラウズもセロニアス・モンクとやっている時よりはノビノビとした吹きっぷりが微笑ましいですよ。

ちょっと地味なアルバムかもしれませんが、聴くほどに味わいが深くなる隠れ名盤だと思います。

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