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文春3月号掲載の芥川賞受賞作のひとつ、井戸川射子「この世の喜びよ」。小川洋子の選評にあるように、なにも書かないままに、何かを書くという矛盾が、難なく成り立っている.また平野啓一郎は選評で、V.ウルフ風の「意識の流れ」を二人称「あなた」で描くという難しい挑戦が成功していると評価している。
受賞者インタビュー小見出しには「『言葉を上手に使いたい』国語の先生は詩人で作家」とある。二人称は見守る人の視点だそうだ。「色々な書き方に挑戦したい」とも言っている。インタビュー大見出しは「(授業で)『羅生門』は授業で必ず教えてきた」だが、それはこの作品に動物の比喩が頻出するため。井戸川さんの興味は言葉の使い方であり、それは先の小川洋子の選評、あるいは奥泉光の選評、what より how、何を書くかよりどう書くかで傑出していたという指摘とも一致する。
What のほうは、ショッピングセンターの喪服売り場に勤める「あなた」の人間模様.フードコートの少女がメインで、ふたりの娘、ゲームセンターで遊ぶおじいさん、職場の同僚などが登場.タイトルに最初は拒否反応が出たが、読後感は良い。
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