Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

「ポロポロ」

2022-06-10 09:17:54 | 読書
田中小実昌,中央公論社(1979/5).
装丁は野見山暁治.右は文庫本のカバーで,河出書房新社 (河出文庫 2004/8).

Amazon に引用された「BOOK」データベースより)*****
独立教会の牧師だった父親が開いていた祈祷会。そこではみんながポロポロという言葉にはならない祈りをさけんだり、つぶやいたりしていた―著者の宗教観の出発点を示す表題作「ポロポロ」の他、中国戦線で飢えや病気のため、仲間たちとともに死に直面した過酷な体験を、物語化を拒否する独自の視線で描いた連作。谷崎潤一郎賞受賞作。

著者について
1925年、東京都生まれ。東京大学文学部哲学科中退。軽演劇、将校クラブの雑役、香具師などの職を転々とした後、翻訳、文筆業へ進む。1979年、「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」で第81回直木賞、「ポロポロ」で第15回谷崎賞を受賞。2000年、ロサンゼルスにて客死。*****

7篇の連作とはいえ連続性は乏しい.最初の「ポロポロ」以外は戦場のはなし,と言いたいが,戦闘場面はなく,誤って味方を撃ってしまうくらいのもの.後半は敗戦後になるが,さしたる変化はない.
むしろ著者が平和な時代になってから盛り場をうろつく場面と連続しているようだ.

ひたすら行軍し,あとはコレラと赤痢とマラリアでふらふらしているだけ.文庫本の表紙のようなきれいな服装は最初の 2-3 日だけだろう.「北川はぼくに」によれば行軍の途中の下痢便が乾いてズボン (軍袴) にくっつき,キャラメルみたいにてらてら固く光るのだそうだ.「寝台の穴」の穴はベッドの尻の位置にあっておまるの役を果たす.

最後の「大尾のこと」で,物語を拒否するという意味の文章が出てくる.そういえばこの本の文章は全てとりとめがない.しかし「岩塩の袋」には,重い思いをして行軍中背嚢の底に入れて運んだ岩塩が水と雨と汗で洗われてただの砂になっていたというオチがついている.この部分は物語的.

現代の戦争はボタンを押せばおしまいと思っていたが,テレビで見るウクライナはそうでもないらしい.ロシア兵側の報道は少ないが,戦車の中に押し込められて手足を伸ばすことも糞尿の処理もままならず,すのうち榴弾砲にやられるのを待つのみ ?

この歳になって徴兵されるとは思わないが、自分が若い時に兵隊になっても,この著者と似たようなことになっていただろう.

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