【HUNTER】:南海トラフ大地震と原発事故の脅威 ■発生確率「30年以内に70~80%」の現実
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER】:南海トラフ大地震と原発事故の脅威 ■発生確率「30年以内に70~80%」の現実
政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会は今月9日、長期評価による地震発生確率値の更新内容を公表した。昨年1月1日時点で算定した前回評価を今年1月1日を基準日として算定し直したもの。注目されたのは、南海トラフ沿いにおける地震発生確率が大きく上昇したことだった。
M8~9級の大地震が30年以内に起こる確率は、前回より10%も高い「70~80%」。10年以内でも「30%」、50年以内なら「90%程度もしくはそれ以上」となっており、国が将来的に「確実に発生する」と保証した形だ。
南海トラフ地震で予想される被害は、人的にも物的にもおそらく過去最大。見逃せないのは、南海トラフ地震が影響を及ぼす地域に、「原子力発電所」があるということだろう。
■南海トラフとは
南海トラフとは、静岡から四国にかけての太平洋側に存在する深さ4000m級の海溝(下の図参照)。フィリピン海プレートとユーラシアプレートが衝突する場所にあたり、その地点が沈み込むことで地殻変動の幅が大きくなる。
直近では、1944年(昭和東南海地震)と1946年(昭和南海地震)に起きた地震を「昭和地震」と総称し、それぞれM7.9、M8.0が記録されている。古文書などで確認されているだけでも、684年、887年、1096年、1099年、1361年、1498年、1605年、1707年、1854年と100~200年周期で南海トラフに起因するとみられる大地震が起きており、危険度は極めて高い。
確度の高い地震予測は難しいと考えられているが、南海トラフに関する「マグニチュードM8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が『70~80%』」という予測は、
(1) 他の海溝や活断層を発生源とする地震の発生確率予測をはるかに上回っている
(2) 過去の記録で100~200年周期で大地震が発生している
ことから、相当現実味を帯びた結果であると言えそうだ。(下が、地震調査研究推進本部が公表した資料)
気象庁がホームページ上で公表している説明によれば、南海トラフ地震は、複数回に分けて発生したり、一回で全域を破壊したり、その発生の仕方には多様性があるという。最大クラスの地震が発生すると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域で震度6強から6弱の強い揺れ。関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸には、10mを超える大津波の来襲が予想されるとしている。津波は、海溝型地震の特徴である。
■驚愕の被害予想
政府は、南海トラフ地震により著しい被害が生ずるおそれのある地域を「南海トラフ地震防災対策推進地域」に指定しており、国、地方自治体、関係事業者等が、それぞれの立場から地震防災対策を推進することになっている。対象地域で現在予想されている「被害」だけでも、想像を絶する凄さである。
下は、平成25年3月に中央防災会議 防災対策推進検討会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが発表した「南海トラフ巨大地震の被害想定について」の一部の記述。はじき出された数字に、愕然となる。
【発災直後の様相】
◇建物・人的被害
- 地震の揺れにより、約62.7万棟~約134.6万棟が全壊する。これに伴い、約3.8万人~約5.9万人の死者が発生する。また、建物倒壊に伴い救助を要する人が約14.1万人~約24.3万人発生する。
- 津波により、約13.2万棟~約16.9万棟が全壊する。これに伴い、約11.7万人~約22.4万人の死者が発生する。また、津波浸水に伴い救助を要する人が約2.6万人~約3.5万人発生する。
- 延焼火災を含む大規模な火災により、約4.7万棟~約75万棟が焼失する。これに伴い、約2.6千人~約2.2万人の死者が発生する。
- 液状化により、約11.5万棟~13.4万棟の建物が沈下被害を受ける。
◇ライフライン被害
- 電力は、約2,410万軒~約2,710万軒が停電する。
- 火力発電所の運転停止等により、西日本全体の供給能力が電力需要の5割程度となる。
- 固定電話は、約810万回線~約930万回線が通話できなくなる。
- 輻輳により、固定電話・携帯電話は、1割程度しか通話できなくなる(90%規制)。
- インターネットに接続できないエリアが発生する。
- 上水道は、約2,570万人~約3,440万人が断水する。
- 下水道は、約2,860万人~約3,210万人が利用困難となる。
- 都市ガスは、約55万戸~約180万戸の供給が停止する。
◇生活への影響
- 発災翌日には約210万人~約430万人が避難所へ避難する。また、約120万人~約270万人が比較的近くの親族・知人宅等へ避難する。被害の大きな地域では満杯となる避難所が発生する。
- 水や食料の供給は、家庭内備蓄と都府県・市町村の公的備蓄により対応するが、発災後の3日間で約1,400万食~約3,200万食分の食料及び約1,400万リットル~約4,800万リットルの飲料水が不足する。
- 中京・京阪神都市圏で約320万人~約380万人の帰宅困難者が発生する。
◇1週間後
- 避難所避難者数は約240万人~約500万人となり、発災後最も多くなる。
- 自治体間や避難所間で、食事の配給回数やメニュー、救援物資の充実度等にばらつきや差が生じ始める。
- 従前の居住地域に住むことができなくなった人が、遠隔地の身寄りや他地域の公営住宅等に広域的に避難する。
- 指定避難所以外の避難所が多数発生し、状況の把握が困難になるほか、支援が十分に行きわたらない避難所が発生する。
- 被災地への燃料供給は十分ではない。
■無視された原発の存在
被害予測を読んで気になったのは、原発の事故をまったく想定していないことだ。福島第一原発の事故で明らかなとおり、地震、津波で原発が甚大な被害を被るのは必至。しかし、被害想定のどこにも、原発の事故を前提とした被害予測は出てこない。原発の事故は、「起きないもの」とされている。
下は、南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが発表した「南海トラフ巨大地震の被害想定について」に添付された「南海トラフ地震防災対策推進地域」の範囲。その範囲内に、3か所の「原子力発電所」がある。(*赤字の書き込みはHUNTER編集部)
南海トラフ地震が影響を及ぼすとみられている地域内にある原発は、浜岡原発(静岡県御前崎市。1~5号機。1、2号機は2009年に運転停止)、伊方原発(愛媛県西宇和郡伊方町。1~3号機)、川内原発(鹿児島県薩摩川内市。1~2号機)。廃炉作業中のものも含めて、10基の原発が存在する。フクシマがそうであるように、どの原発が事故を起こしても、中央防災会議が策定した被害予測をはるかに上回る惨状となるのは確かである。
そもそも、中央防災会議の被害予想は過小評価に基づくもの。驚愕の数字が並んでいるが、南海トラフ地震が他の活断層に影響を与えることを計算に入れていない。地震調査研究推進本部は、四国地域の断層帯についても再評価し、その結果を昨年12月に発表している。国内最大の断層帯は「中央構造線断層帯」。再評価によって、これまで四国沖と考えられていた西の端が大分県まで達していることが明らかになっている。(下の図参照。地震本部公表資料より)
中央構造線断層帯は、伊方原発のすぐ北側を走っている。南海トラフ地震によって中央構造線断層帯に大きな力が加われば、巨大地震が連動する可能性もある。その時、最も危険な存在となるのは間違いなく伊方原発だ。
川内原発も安全ではない。四国を東西に貫く断層帯は、そのまま豊後水道を渡って別府湾に入り、大分県内の細かな活断層へと続いていく。その延長線上にあるのが熊本地震を引き起こした活断層の帯。南に下れば、川内原発がある。市来断層帯や甑断層帯といった同原発周辺の活断層を巡っては、地震調査研究推進本部の再評価によって九電の調査結果が否定されており、内陸部と海側が一続きとなる長大なものであることが分かっている。
浜岡、伊方、川内。三つの原発すべてに巨大地震の被害が及べばどうなるか――。南海トラフ地震が現実味を帯びたいま、国民に求められているのは、原発と真剣に向き合うことではないのだろうか。
元稿:HUNTER 主要ニュース 政治・社会 【社会ニュース】 2018年02月16日 08:20:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。