【社説②】:中国の政治宣伝 「喉と舌」との思い違い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:中国の政治宣伝 「喉と舌」との思い違い
中国が対外発信を強めている。だが、自国に有利な国際世論づくりを狙った「政治宣伝」が多いのが実情だ。メディアを「宣伝機関」とするのは二十一世紀の大国にふさわしい認識ではあるまい。
米国のブランスタッド駐中国大使が九月末、かつて知事を務めたアイオワ州の地元紙に、中国の政治宣伝を批判する寄稿をした。
米地元紙にはその直前、米中貿易摩擦で米生産者が損害を受けると主張する中国政府系の英字紙・中国日報が有料広告を出した。
四ページの広告はニュース記事の体裁を取り、中国政府の意図を代弁するものに映る。同紙の内容について大使は「米国が守ってきた報道の自由を利用し、政治宣伝をしている」と批判した。
中国が進める経済圏構想「一帯一路」要衝の新疆ウイグル自治区では、ウイグル族が再教育施設に収容されている事実が分かった。「完全な虚偽」と強弁してきた中国政府は「テロ対策」などとして最近、その存在を認めた。収容者数は百十万人以上とみられる。
一方、中国は「一帯一路」ルートに重なる他国メディア責任者を同自治区に招いた「学習会」を繰り返してきた。少数民族への人権弾圧には口をつぐみ、中国が描く「一帯一路」のバラ色の未来像を刷り込もうとする姿勢に映る。
最大の問題は、中国が言論の自由を一顧だにせず、ニュースの装いで、国策遂行の国際世論づくりに血道を上げていることだ。
中国の憲法は公民に言論や出版の自由を認めているが、共産党の指導が憲法より優先される。中国は伝統的に党や政府の「喉と舌」との表現を用いてメディアを「宣伝機関」に位置づけてきた。
政治宣伝を通じた社会の安定が最重要との考えが、「喉と舌」を重視する理由なのだろう。習近平国家主席は今年夏の宣伝工作会議で、言論統制を強めてきた自身の宣伝工作を「完全に正しい」と自賛した。だが、言論の自由こそが民主主義を守る砦(とりで)との価値観が国際社会では主流であり、政治宣伝とニュースの間には一線を画すのが当然である。
「国境なき記者団」による二〇一八年の報道自由度ランキングで、中国の報道の自由度は百八十カ国・地域で百七十六位だった。
世界第二の経済大国として国際社会で存在感を増そうというのなら、この結果に危機感を持ってほしい。社会のマイナス面も伝えてこその報道である。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年10月30日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。