【英EU離脱・揺れる欧州】:(中)英EU貿易交渉 多難 企業移転 加速を懸念
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【英EU離脱・揺れる欧州】:(中)英EU貿易交渉 多難 企業移転 加速を懸念
「人生はこれからも続く。でも、新たな職が見つかるかは分からない」
ロンドンから西へ約百二十キロ。一月中旬、英南部スウィンドンのホンダ工場を訪れると、勤務を終えた従業員が次々に出てきた。約三千五百人が働く工場は二〇二一年中の閉鎖が決定。勤続十五年のアーロン・ヒューソンさん(44)は、将来を案じてため息をついた。
1月中旬、来年中に閉鎖となるホンダの英南部スウィンドン工場。地元住民からはさらなる企業流出を恐れる声が聞かれた
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ホンダは工場閉鎖と英国の欧州連合(EU)離脱は「無関係」と説明する。ただ、閉鎖を公表したのは社会経済に混乱を招く「合意なき離脱」が現実味を帯びていた昨年二月。ヒューソンさんは「自動車市場の変化もあるが、離脱問題の先行きが見えないことも要因だったと思う」と語った。
約三十五年前に操業を始め、一昨年は英国の乗用車生産全体の一割にあたる十六万台を製造。閉鎖に伴い部品供給会社などの約八千人も失業するとされ、人口約二十二万人のスウィンドンへの打撃は大きい。地元住民のゲーリー・ヘイラーさん(71)は「EUとの貿易交渉に失敗すれば、地元企業がさらに減るかもしれない」と不安を抱える。
英国は離脱後、激変緩和のための移行期間に入った。年内にEUとの自由貿易協定(FTA)締結を目指すが、交渉は難航が予想される。ジョンソン英首相は移行期間延長を拒否し、決裂の可能性をちらつかせて譲歩を引き出す戦術で、英国の漁業水域でEUの操業を制限する方針もほのめかす。EU側も「交渉時間が足りない」と応戦。英金融業のEU市場へのアクセス制限を示唆する。
ジョンソン氏は、日米などとの新たな自由貿易で景気を上向かせる考え。だが、EU単一市場の恩恵を受ける現在の英国の貿易は半分がEU加盟国とのやりとりだ。部品などの供給網を欧州大陸に持つ在英日系企業も、貿易障壁の高まりを懸念する。日立製作所は本紙の取材に、「通商協議の結果次第で欧州、英国での事業展開への影響が変わる」と回答。富士通の子会社・PFU現地法人は英EU間で法規制や税制で大きな違いが生じることを心配し「長期的な課題として、大陸側へ欧州本社を移すべきかを検討する」と話す。
英国では離脱の混迷から、既に三百三十超の金融関連会社が事業、人員などの一部をEU側へ移転した。調査したシンクタンクは「EUと包括的な協定を結べなければ、今後数年で移転は大幅に増える」と分析。ロンドンの世界的な金融街「シティー」が衰退する可能性を指摘する。
ロンドン大のトーマス・サンプソン准教授(経済学)は「多様な規制面で合意が必要なFTA締結は困難。ゼロ関税や輸入量の制限ゼロといった基本的な貿易協定も締結できるか分からない」と分析。「何の協定もない場合は景気が落ち込み、一人当たりの所得は8%減るだろう」と、消えない「合意なき離脱」の影を指摘した。(スウィンドンで、藤沢有哉、写真も)
<激変緩和のための移行期間>
今年12月末までが期限。期間中は英国はEU加盟国並みの状態を保ちつつ、期間後に発効する自由貿易協定(FTA)をEUと結ぶ計画。交渉が決裂すれば、合意なき離脱と似た状態に陥り、EUとの貿易で関税や煩雑な通関手続きが復活する恐れがある。英EUが6月末までに同意すれば、2022年末まで最長2年延長できる。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 国際 【欧州・イギリス】 2020年02月02日 06:15:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。