【社説】:首都圏に緊急事態宣言へ 迷わず感染抑止に全力を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:首都圏に緊急事態宣言へ 迷わず感染抑止に全力を
菅義偉首相は、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県を対象に特措法に基づく緊急事態宣言の発令を検討すると表明した。
週内にも発令し、期間は1カ月程度を軸に調整している。
感染高止まりで医療崩壊が現実味を帯びる中、1都3県の知事が2日に発令を政府に求めた。
飲食店への営業時間短縮要請や国の観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止の効果が見えず、現行制度で取り得る最終手段を選択するしかなくなった。
感染抑止よりも経済再生に比重を置いたような政府の対策が行き詰まったと言わざるを得ない。
宣言の対象にならない道内は感染者が一時期より減少傾向にあるとはいえ、医療現場は逼迫(ひっぱく)している。今は首都圏を中心に感染抑止に全力を傾け、これ以上の地方への波及を止めなければならない。
宣言発令は昨年4月に続き2度目で、コロナへの慣れが広がる国民の間に危機意識を共有してもらえるかがカギを握る。だからこそ、政府は国民の納得と共感が得られる対策を打ち出す必要がある。
■甘かった首相の認識
首相は、1都3県の新規感染者数が全国の約半数を占めているとして「より強いメッセージが必要と考えた」と説明した。
だが、宣言の再発令が求められるほど感染を広げた主な要因は、場当たり的としか言いようのない政府の対応のまずさにある。
その象徴が、経済を重視する首相の肝いりのGoTo事業だ。
流行の第2波が懸念されていた7月下旬に見切り発車し、10月に東京発着を加えた。
感染者が急増しても、地域や年齢などを限定して一時停止と利用自粛を小出しにし、年末年始の全面停止に追い込まれた。
外出自粛を呼びかける一方で旅行を奨励するちぐはぐな対応では国民に危機感は伝わらない。
首相が経済再生と感染対策の両立を掲げるのなら、感染の動向に細心の注意を払い、状況に応じて対策の強化に機敏にかじを切る必要があった。
未知のウイルスへの首相の認識の甘さが事態の悪化を招いた。
■十分な補償が必要だ
今回の宣言は、教育・文化関連施設なども休業した前回と違い、感染リスクが高いとされる飲食店への休業・時短の要請が中心になるとみられる。
首相は「限定的、集中的に行うことが効果的だ」と述べた。
ただ、飲食業はこれまでも地方自治体からの時短要請などで売り上げ減に直面し、疲弊が著しい。
要請に応じないところも出てくる可能性がある。対策の効果を高めるためにも、十分な経済的補償が欠かせない。
政府は1都3県に対し、協力金などの財源をしっかりと手当てしなければならない。
本来であれば、特措法を改正して補償を担保する法的な裏付けを定めておくべきだった。
しかし、首相はコロナ対策が批判されて内閣支持率が急落するまで重い腰を上げなかった。この間の不作為の責任は重い。
首相は法改正に関し「補償と罰則はセット」と重ねて強調した。
ただ、罰則は人権抑圧につながりかねない。国民に幅広い自由を保障する憲法との兼ね合いなどで反対論も根強くあり、慎重な検討が必要だ。
特措法改正では国と地方の役割分担も課題である。
今回も4人の知事が首相に緊急事態宣言を要請したのに対し、政府側が逆に飲食店の時短強化を知事側に求め、ぎくしゃくした。
国と自治体が責任を押しつけ合うのではなく、双方が一致協力して感染対策に当たることができる仕組みこそが求められる。
与党は来月初めの法改正を目指し、野党側と調整に入った。拙速な議論を避けながら、感染抑止に実効性が上がる法整備を急いでもらいたい。
■解除は状況見極めて
前回の宣言時は休業要請に応じない店に陰湿な嫌がらせをする「自粛警察」が登場した。社会の分断を助長するような行いは慎まなければならない。
宣言の期間が高校や大学の入試シーズンと重なる。受験生の不安を解消するため、国や自治体は試験会場の感染対策などの情報をこまめに発信してほしい。
最初の宣言は感染者数などの目安を満たさない地域が残ったまま解除し、その後の感染再拡大の火種になった。
政府は専門家の意見を聞いた上で、科学的知見に基づいた解除要件を定め、感染状況をしっかりと見極めて判断すべきだ。
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シリーズ「コロナの先へ」は休みました。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年01月05日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。