【SALLiA「トレンドなるままに」】:「教育虐待」がトレンド入り…「医学部9浪殺人事件」から考える“最悪の結末”回避へ必要なこと
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【SALLiA「トレンドなるままに」】:「教育虐待」がトレンド入り…「医学部9浪殺人事件」から考える“最悪の結末”回避へ必要なこと
行きすぎた教育虐待によって、2018年に滋賀県で起きた「医科大学生母親殺害事件」について記したノンフィクション本「母という呪縛 娘という牢獄」(講談社刊)がベストセラーとなり注目を集めている。
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昨今、様々なメディアで“教育虐待”という言葉を目や耳にすることも多く、ツイッタートレンド入りすることも珍しくない。教育虐待とは、親が教育を理由に子をコントロールしようとし、自分の求める結果がでなければ激しく叱責する「虐待」である。
当時、医科大学に通う31歳の4年生の女子大学生が58歳の母親を殺害し、遺体をバラバラにした後、胴体を近所の河川敷に捨てた事件だが、娘がツイッターに投稿した《モンスターを倒した。これで一安心だ。》という言葉も、社会にインパクトを与えた。
娘が控訴審で提出した陳述書は、「いずれ、私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと現在でも確信している」という言葉で締めくくられているが、その言葉が教育虐待の根深さを感じさせる。
娘・あかりさん(仮名)と、30通以上にも渡る手紙のやりとりを経て、「母という呪縛 娘という牢獄」を上梓した著者の齊藤彩氏に話を伺った。
■子どもの権利保障が発展途上という日本の現状
「日本は儒教の影響で、親を敬わなければならないという価値観もあり、親に対する深刻な不満を気軽に相談できないという点も、表面化されづらい理由の一つとしてあるかと思います。また法制度の観点から見ても、子どもの権利保障は発展途上です。
民法は親が子を監護し教育する権利・義務を定めている一方、子の親に対する権利は明確には保障されていません。相次ぐ児童虐待や国際基準を受けて、2000年以降こうした民法や児童の福祉に関する法律の改正が進んでいますが、執行する行政機関の人手不足で実際のところ対応しきれていないことも要因の一つといえるかもしれません」
あかりさんは母との暮らしの中で何度も家出を試み、18歳の時に寮付きの就職を自力で決めたが、母が勝手に電話で断り、5浪目に金銭を持って家から逃げ出そうとした際は、「帰ってこなければ警察に被害届を出す」と電話で告げられ、家出が成功することはなかった。
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殺害現場となった滋賀県のあかりさん(仮名)の自宅(C)共同通信社
◆子育て以外の生きる目的を見つける重要性
また教育虐待が深刻化する理由として考えられるのは、あかりさんで言えば「医者になる」という親子共通の目標があることで、必要以上に親子の結びつきが強くなり、「互いのためだけに生きる」という共依存状態に陥りやすいという点だ。
「人間には色々な側面があり、そのコミュニティに応じて自分の役割が変わります。あかりさんは、閉鎖的な親子のコミュニティで過ごしている時間がとても長く、母を一人の人間として客観視する機会も持てずにいたのかもしれません」(齊藤氏)
大阪拘置所であかりさんは、他の被告人たちとの触れ合いを通じて、様々な価値観や生き方があることを知り、初めて自分たち親子の関係を客観視できたことで「母の苦しみや焦燥を、もう少しちゃんと分かれば良かった」と自然と思えるようになったと述べている。
また教育虐待が深刻化する理由として考えられるのは、あかりさんで言えば「医者になる」という親子共通の目標があることで、必要以上に親子の結びつきが強くなり、「互いのためだけに生きる」という共依存状態に陥りやすいという点だ。
「人間には色々な側面があり、そのコミュニティに応じて自分の役割が変わります。あかりさんは、閉鎖的な親子のコミュニティで過ごしている時間がとても長く、母を一人の人間として客観視する機会も持てずにいたのかもしれません」(齊藤氏)
大阪拘置所であかりさんは、他の被告人たちとの触れ合いを通じて、様々な価値観や生き方があることを知り、初めて自分たち親子の関係を客観視できたことで「母の苦しみや焦燥を、もう少しちゃんと分かれば良かった」と自然と思えるようになったと述べている。
「母である妙子さん(仮名)は、娘の将来を想うのと同時に、娘の人生を自分の幸せと過度に重ねていたように見受けられます。わが子と一緒に幸せを感じたいという願望は、多くの親が持つ自然な感情といえるでしょう。しかし、子育てが人生の全てになると、娘の人生に執着してしまうことにも繋がるため、子育て以外の生きる楽しみや居場所を見つけることも重要。愛がエスカレートしてしまった妙子さんが、考えを改める機会にもなり得たかもしれません」(齊藤氏)
逮捕当初、死体遺棄・損壊は認めたが、殺人の罪は否認していたあかりさん。しかし裁判長が共感と同情を示したことで、一審判決後、一転して殺人の罪を認めた。
なぜ母がそのような「教育虐待」をしなければならなかったのか? 妙子さんが持つ一人の人間としての苦悩を、もしあかりさんが知り、自分の痛みを理解してくれる存在に出会えていれば、結果は違っていたのかもしれない。
著者のコラム一覧
■SALLiA歌手、音楽家、仏像オタク二スト、ライター
歌って作って踊るスタイルで話題を呼び、「イデア」でUSEN 1位を獲得。2018年より仏像オタクニストの活動を始め、初著「生きるのが苦しいなら
」は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。近著に「アラサー女子、悟りのススメ。
」(オークラ出版)がある。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITA 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載・SALLiA「トレンドなるままに」】 2023年05月05日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。