【ジャニーズ事務所】:性加害問題「なぜ疑いを皆が知りながら、長年見過ごされてきたのか」 求められる改革は
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ジャニーズ事務所】:性加害問題「なぜ疑いを皆が知りながら、長年見過ごされてきたのか」 求められる改革は
かねて取り沙汰された件で動きがあった。ジャニーズ事務所の前社長、ジャニー喜多川氏(2019年死去)が絡む性加害疑惑。14日、現社長の藤島ジュリー景子氏が謝罪の動画と書面を公表した。真相はまだはっきりしないが、メディアや世間が目を向けるべき理由がある。社会的に大きな役回りを担うようになったジャニーズ事務所。「エンタメ業界の一企業の問題」で済ませられない。(西田直晃、岸本拓也)
◆「被害者も何人いるか分からない」深刻さ
「被害を訴えている方々に深く深くおわびします」
14日に公式サイトに公開された1分余りの動画で、藤島ジュリー景子社長はたびたび頭を下げた。創業者の故ジャニー喜多川氏による疑惑を巡っては、かねて週刊文春や英BBC放送が報道。同氏から下半身を触られるなどの性被害を受けたと、ジャニーズJr.として活動していた複数のタレントが証言した。ジュリー氏は性加害の有無について「当事者に確認できない」と明言しなかった。
刑事事件に詳しい穂積剛弁護士によれば、被害証言通りなら淫行や強制わいせつなどの犯罪行為に該当する可能性がある。「ジャニー氏は使用者として絶対的な権力を持っていたと思われる。被害者も何人いるか分からない」と深刻さを推し量る。
◆今や「公的な役目を担う一大企業」になり
16日、立憲民主党のヒアリングに出席した元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん(右)と橋田康さん=朝倉豊撮影
世間がこの疑惑に目を向けるべき理由は他にもある。今やジャニーズ事務所はエンタメ業界の一企業ではない。「社会的存在」ともいえる。
所属タレントの活動は歌やドラマにとどまらず、情報番組の進行役や報道番組のキャスターまで広範囲に及ぶ。その分だけ世間と多く接点を持つ。
ジャーナリストの松谷創一郎氏は「シブがき隊や光GENJIが1980年代に活躍したが、90年代前半にかけては『アイドル冬の時代』と言われた。逆境を乗り越えて売れ始めたSMAPがジャニーズを今の位置に引き上げた」と説明する。
「コントやお芝居、スポーツまで、高いレベルでこなす実力があった。誰もが知るヒット曲も生まれた」。続いてデビューしたV6、KinKi Kids、嵐(現在は活動休止中)も躍進。2000年代には邦画ブームにも貢献し、「全盛期」(松谷氏)を迎えた。
10年代以降は公的な役割を担う機会が増えた。TOKIO(現在は傘下会社所属)は12年以降、震災後の福島を伝えるCMの出演を続け、21年の東京五輪では大会旗を巡回させるツアーのPR役に。天皇陛下の即位を祝う19年の「国民祭典」の際は嵐が奉祝曲を披露した。
元博報堂社員の作家本間龍氏は「所属タレントが公的行事に登場するようになり、ジャニーズ事務所はより重い社会的責任を負うようになった」と語る。
「公的な役目を担う一大企業」の顔を持つ同社。深刻な性加害が事実ならば「世間に甚大な不信を与えかねない」と本間氏は語る。重い役回りを担う同社に深刻な不祥事があるなら、世間としても看過できない。先の松谷氏は「報道機関は忖度し、見過ごしてきた」と述べ、従来の姿勢をただすよう求める。
◆故人2人しか知らない状態が恒常化、と釈明
16日、立憲民主党のヒアリングに出席した(右手前から)元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんと橋田康さん=朝倉豊撮影
問われるのは、ジャニーズ事務所の対応もだ。
14日に公開された書面を見ると、気になることがあった。閉じられた組織風土だ。
ジャニー喜多川氏の性加害疑惑について「知らなかった」とする藤島ジュリー景子社長は公開書面の中で、ジャニー氏とその姉、藤島メリー泰子氏(2021年死去)が会社の全権を握り「本件を含め、会社経営に関わる重要な情報は、2人以外には知ることのできない状態が恒常化していた」と釈明した。
ただ、週刊文春が疑惑を報じた1999年には、メリー氏の長女に当たるジュリー氏は既にジャニーズ事務所で取締役の立場にあった。その後は記事を巡って裁判でも争われ、文春側が実質的に勝訴した。
◆トップに長年君臨し新たな問題を生んだ事例は他にも
「知らなかった」というジュリー氏の説明をどう受け止めるかは悩ましいところだが、独断専行型の経営体制に陥れば、新たな問題を生みかねない。
過去の例でいえば昨年9月、会社の経費で出張コンパニオンの女性を湯あみ着姿にさせて露天風呂で混浴を繰り返していたなどとして、TOKAIホールディングス前社長の鴇田勝彦氏(78)が解任された。2018年にも会社の金を流用したなどとして、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(69)=海外逃亡中=が特別背任罪に問われた。いずれも長年にわたって経営トップに君臨していた。
ジャニーズのように創業者一族が支配する非上場企業ではより危険性をはらむ。ジュリー氏は「2人以外は、会社管理・運営に対する発言はできない状況だった」とも明かした。
社会構想大学院大の白井邦芳教授(リスクマネジメント)は「創業者一族に対抗できる番頭がいればまだいいが、いない会社は誰もトップを止められない。ジャニーズも創業家企業のありがちなパターンにはまり込んだのが実態では」と推察する。
◆「日本の芸能界やマスコミの課題として向き合うべきだ」
11日、記者会見する「PENLIGHT ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」のメンバー=須藤英治撮影
今後、ジャニーズ事務所に求められるのは、事実関係の究明と被害者の救済、そして信頼回復に向けた企業風土の改革だ。
同事務所は、社内にコンプライアンス委員会を設置。5月中に社外に相談窓口をつくり、被害者対策を行う姿勢を打ち出した。取締役会に外部の意見を反映させるために、社外取締役を迎える考えも示した。「こちら特報部」の取材に対し「厳しい目で指摘する役割として、現在人選、依頼を進めている」とメールで回答した。
ただ「ヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」とし、実態究明に向けた第三者委員会は設置しないとした。
先の白井氏は「創業者一族が支配し、ずっと隠されてきたという状況で、内部だけで事実関係を明らかにするのは難しい。心理カウンセラーを交えて、第三者による調査を進める必要がある」と指摘する。
「社外取締役も知り合いではなく、本当に独立した役員でなければ意味がない。取締役会でしっかりと問題を指摘し、意見を反映できるだけの人数も必要だ。また企業風土を本当に変えたいなら、本件の再発防止策をまとめたら創業家トップは退き、新しい人に託した方が良い」
元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は「ジャニーズ事務所は株式会社だが、実態は個人事務所に近い。その権力者を、中の人がただすのは難しい」と述べる一方、「本件はジャニー氏特有の問題。組織のコンプライアンスやガバナンスの問題と捉えると本質を見失う」と語り、通常の企業不祥事の枠を超えた根深い事態をただす必要があると強調する。
「なぜ芸能界の巨人が性加害をした疑いがあることをマスコミを含めて皆が知りながら、長年見過ごされてきたか。問題のある事務所に大きな権力を与えてきた日本の芸能界やマスコミの課題として向き合うべきだ」
◆デスクメモ
配慮か、傍観か。メディアへの批判。一方で被害証言通りなら事態は重い。その疑惑を抱える会社は公的な分野に絡む。今後関与していいか、公金を投じていいのか、真相が分かるまでどうすべきか。問うべき仕事は多い。私たちこそ社会的責任に頭を巡らせるべきだと自戒したい。(榊)
元稿:東京新聞社 主要ニュース 社会 【話題・ジャニーズ事務所の前社長、ジャニー喜多川氏(2019年死去)が絡む性加害疑惑】 2023年05月17日 12:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。