【社説①】:マイナカード 国民の不安への配慮が足りぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:マイナカード 国民の不安への配慮が足りぬ
マイナンバーカードを巡るトラブルが相次いでいる。政府はカードを活用した行政サービス拡大を目指しているが、安全性と国民の信頼が前提になることを肝に銘じるべきだ
マイナカードと一体化した健康保険証(マイナ保険証)に、別人の情報がひもづけられるというトラブルが後を絶たない。健康保険組合の職員らが、姓名や生年月日が同じ人の情報を誤って入力したのが原因とされている。
誤入力は昨年11月までの1年余りで約7300件に上り、このうち5件では、薬剤や医療費などの情報が他人に閲覧されていた。
医療情報は個人情報の最たるものだ。別人の情報を基に治療や投薬が行われたら、重大な医療事故を招きかねない。システムの信頼を揺るがす、ゆゆしき事態だ。
コンビニエンスストアでの証明書発行サービスでも、別人の住民票の写しなどが交付されるトラブルが頻発している。システムの不備があらわになった。
健保組合やシステムの運営事業者に再発防止策が求められるのは当然だが、マイナカードの安全性を強調し、普及を促進してきた政府の責任はより重い。今回のような事態を防ぐ機会はあったはずだが、対応は後手に回った。
マイナ保険証の個人情報閲覧が最初に発覚したのは、2021年秋のことだ。コンビニでの誤交付は、今年3月に確認されている。政府は、この時点でシステムの点検を徹底し、トラブルの内容や対策を国民に説明すべきだった。
ポイント付与という「アメ」付きの政府のPRが奏功し、マイナカードの申請数は人口の4分の3に達した。コンビニでの証明書交付など、カードを持つメリットが増えてきているのは確かだ。
一方で、政府は24年に現在の健康保険証を原則廃止し、マイナ保険証に一本化するという。
マイナ保険証を作らない人には「資格確認書」が発行されるというが、現在の保険証を持ち続けることと何が違うのか。カードを取得しなければ保険を使えない形にして普及させる「ムチ」の手法のようで、強引さは拭えない。
保険証のデジタル化には、過去に処方された薬の情報を確認し、過剰投与や検査の重複を避けられる利点がある。ただ、高齢者を中心に、使い慣れた保険証で十分だという人も少なくないだろう。
あえて廃止する意味があるのか。トラブルが続出している以上、政府は一度立ち止まって考えることも必要ではないか。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月18日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。