【社説②】:中国と南太平洋 影響力拡大への警戒が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:中国と南太平洋 影響力拡大への警戒が必要だ
中国がソロモン諸島を足がかりに、南太平洋で影響力を拡大する動きを強めている。米国主導の国際秩序に挑戦する構図だ。米豪日は警戒を怠ってはならない。
中国とソロモンは2019年の国交樹立以降、関係を深め、昨年には安全保障協定を結んでいる。中国の軍の派遣や艦艇の寄港を可能にする内容とみられている。
今年7月には、ソロモンのソガバレ首相が訪中して習近平国家主席と会談し、経済関係の強化で合意したほか、警察協力協定も締結した。サイバー対策や警備など、治安関連の幅広い分野で中国が協力するという。
米国と豪州の影響力が伝統的に強い南太平洋で、中国がソロモンを 橋頭 堡 にし、進出を加速させようとしているのは明らかだ。
ソガバレ氏は習氏との会談で、対中圧力を強める米国を念頭に、「中国を抑え込む行動には反対だ」と述べた。事態は中国の思惑通りに進んでいると言える。
ソロモンは軍隊を持たず、治安維持に不安を抱えている。一昨年の反政府暴動の際は、豪州などの治安部隊を受け入れ、中国からは警官派遣や警棒の提供といった支援を受けた。経済も 脆弱 で、インフラ整備が課題となっている。
そうしたソロモンの社会・経済基盤の 脆 さを中国が突いた。今回の合意で、経済、安保、治安維持のいずれにも中国が深く関与することになる。ソロモンの国家運営に対する中国の影響力が格段に強まるのではないか。
途上国の過度な中国傾斜の弊害はすでに顕在化している。
カンボジアは、強権体制を中国の巨額援助が支える構造から、東南アジアでの国際会議で中国の立場を代弁することが多い、と評されている。スリランカは中国への債務返済に窮し、港の権益を事実上譲渡せざるを得なくなった。
今後、南太平洋で同様のことが起きないとは限らない。
島嶼 国は中国の経済支援に期待を寄せる一方、米中の板挟みになるのは避けたいのが本音だ。自国の陣営に引き込もうとするかのような中国の行いで、自由で開かれた海であるべき太平洋が覇権争いの場となるのは好ましくない。
米豪は、この地域で法の支配や航行の自由が維持されるよう、関与を強める必要がある。
日本は米豪と連携して、島嶼国共通の課題であるインフラ整備や地球温暖化対策、人材育成などを支援し、国家としての基盤固めに貢献していくことが大切だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年08月21日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。