【中山知子の取材備忘録・07.09】:「大谷翔平でも出さない限り維新に勝てない」前回衆院選全敗の大阪で始まった自民党内のもめごと
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【中山知子の取材備忘録・07.09】:「大谷翔平でも出さない限り維新に勝てない」前回衆院選全敗の大阪で始まった自民党内のもめごと
安倍晋三元首相が昨年7月8日、参院選の街頭演説中に銃撃され命を落としてから8日、1年がたち、一周忌法要や有志による、しのぶ会が行われた。7年8カ月に及んだ第2次政権で「1強」体制を築いたが、長期政権に至った1つの理由として野党自民党総裁に返り咲いた直後の2012年衆院選を含め、6回の衆参の国政選挙で勝利したことが挙げられている。
- 次期衆院選の大阪の一部小選挙区での公募方針について、党幹部と面会後、取材に応じる自民党の佐藤ゆかり元衆院議員。右は中山泰秀元衆院議員(2023年7月4日)
安倍氏の一周忌に際し、自民党の石破茂元幹事長にインタビューをした際、石破氏が見た安倍氏の人物評の1つとして「結果がすべてという傾向がありました」「選挙に勝てばそれが正しい、政治の源泉は選挙だという考えも強かった」と振り返っていた。実際、安倍氏が臨んだ数々の選挙戦を取材していて、選挙の勝利に向けた並々ならぬ執念のようなものを感じることが多かったことも、自分自身、あらためて思い出す機会になった。
その選挙をめぐり、自民党内が揺れている。次期衆院選から新設される東京28区での与党公明党との候補者調整が大もめしたのに端を発し、公明党から次期衆院選の東京の選挙区での協力関係解消を突きつけられた。公明の推薦がなかった場合、当選に黄色信号が出ると指摘される現職もいるとされる。実際に選挙になった時、東京での自公の協力関係は本当に成立しないのか。戦々恐々となっている当事者も少なくない。
先週7月4日には党本部で、聞き捨てならないワードが飛び交った。
「これは不当解雇だ」「ブラックボックスだ」。
これは、日本維新の会が躍進する大阪の小選挙区全19選挙区で、前回衆院選で1議席も獲得できなかった自民党が、落選中の元衆院議員がいる6選挙区について、事実上の「候補差し替え」となる公募実施を当事者たちに通告したことを受けたもの。対象になった6人が党を訪れて、茂木敏充幹事長や森山裕選対委員長に面会。非情な通告に抗議した後のぶら下がり取材や関係者への取材で、こうしたワードが出てきた。
当事者たちも公募に応募はできるとはしているが、それなら公募の必要はなく、差し替えが念頭にあるのは明らかだ。「もめごと」が可視化されるリスクは承知で、元議員の候補者を差し替えようというのだから、ある意味、党本部側の覚悟も見て取れる。
6人のうちの1人、大阪4区の中山泰秀元衆院議員は、手にしたバッグから資料を取り出し、昨年10月、次期衆院選で公認候補予定者となる選挙区支部長の「再任」を、書面で交付されていると訴え「なぜいまさら公募なのか」と、怒りをあらわにした。具体的なデータを示すよう求めても「(情勢調査など)総合的にいろんな指標を勘案した」と言われただけで、「ブラックボックスの中で(調整が)行われている」と納得いかない様子だった。
中には、2005年の小泉郵政総選挙で初当選し、「小泉チルドレン」の1人で知られた佐藤ゆかり氏の姿もあった。佐藤氏も「この厳しい大阪で自民党を守ってきたのは大阪11区においては私、佐藤ゆかりだ。ほかの選挙区の皆さんも同じプライドと自負心があると思う」と、冷静な口調ながら怒りがにじませた。
大阪では、今年4月の統一地方選でも維新が躍進して自民は大きく議席を減らした。党本部は、統一地方選後、大阪府連の立て直しに向けて「大阪刷新本部」を設置。今回の流れもその1つだが、地元への根回しはほとんどなかったとされ、府連関係者は「実際に選挙を戦うのは地元だ。にっちもさっちもいかなくなったのだろうが、やり方が強引過ぎる」「新しい候補者が来ても地元に支える気がないと結局は、維新の思うつぼだ」と首をひねる。同じ落選中の元議員でも、総裁派閥の岸田派、幹事長派閥の茂木派は公募対象になっていないことにも、「身内びいき」の声が渦巻く。
2014年衆院選の沖縄の4小選挙区でも、自民候補が全員、野党系候補に敗れたことがあった。米軍普天間飛行場の移設をめぐる地元の反発が背景にあったためだが、今回「大阪は、当時の沖縄より深刻」という声も聞いた。沖縄ではその後、自民党の議席獲得状況も回復基調に転じたが、大阪は維新の勢いが衰える様子がみえず、自民党が議席を奪還できる見通しも立っていないからだという。
ある府連関係者は、自虐的にこう口にした。「大谷翔平選手でも出さない限り、維新に勝てるわけがない。顔をすげ替えて勝てる保証があるのか。ここまで放置してきた党本部の責任はどうなるのか」。
6人が、事実上の「候補者差し替え」を通告された翌7月5日、自民党のホームページには「衆院選候補者公募 大阪を変える! 自民党の新たな挑戦へ 人材募集」という募集告知が掲載された。支部長不在の4選挙区と合わせた計10選挙区について、7月内には公募の結論が出る見通しだが、6人の扱いは未定。波乱は続きそうだ。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)
■中山知子の取材備忘録
◆中山知子(なかやま・ともこ) 日本新党が結成され、自民党政権→非自民の細川連立政権へ最初の政権交代が起きたころから、永田町を中心に取材を始める。1人で各党や政治家を回り「ひとり政治部」とも。現在、日刊スポーツNEWSデジタル編集部デスク。福岡県出身。青学大卒。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・コラム・「中山知子の取材備忘録」】 2023年07月09日 11:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。