【東洋経済オンライン セレクション】:ビッグモーター不正、中古車業界から怨嗟の声
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【東洋経済オンライン セレクション】:ビッグモーター不正、中古車業界から怨嗟の声
◆顧客流入の期待あれど業界の信頼低下が懸念
ビッグモーターの不正や不祥事の報道は今も続いている。業界他社への影響についてはネガティブな見方とポジティブな見方が混在している(記者撮影)
「ビッグモーターの不正は論外だ。クリーンな事業者までイメージが悪くなってしまう。いい迷惑だ」ある大手中古車販売会社の幹部は、怒気を含んだ声で言い放った。
中古車販売最大手ビッグモーターの不正問題が連日取り沙汰されている。鈑金・塗装(BP)部門でゴルフボールを入れた靴下を振り回して車体に傷を作るなどし、水増しした修理費に基づいて保険金を不正請求していた。
7月25日に開かれた記者会見では、創業者の兼重宏行社長(7月26日付で退任)がした「経営陣は関与していない」「従業員の刑事告訴も考えている(会見後半で取り下げ)」といった発言も話題になった。
中古車業界関係者にビッグモーター問題への感想を聞いて回った。不正を驚く声はなく、「昔から悪いうわさを聞いていた」「ここ数年、業績が大きく拡大していたので、現場は相当な無理をしていたはずだ」と起こるべくして起きたといった声も少なくない。
◆業界他社の業績へのインパクトは
ビッグモーターはここ数年、急激な成長を遂げていた。帝国データバンクの調査によると、2022年9月期の売上高は約5800億円(推定値)で、ここ9年でおよそ8倍に成長。中古車販売市場でのシェアは約15%のトップと見られ、中古車の買い取り台数でも「6年連続日本一」(同社ホームページ)とうたっている。
その最大手の不祥事が連日取り上げられる事態に、「中古車業界全体のイメージが傷ついてしまった」との嘆く声は多い。各社に業績への影響を尋ねると、ネガティブとポジティブの両方の見方が混在する。
中古車の買い取り・販売業者では、短期的には「消費者の間で購入を様子見する動きが出てくるだろう」とのネガティブな見方が有力だ。冒頭の中古車販売大手の幹部は、「今は中古車業界全体に対するマイナスイメージがあるので、消費者は状況を見るために購入をいったん控えるだろう」と分析する。
一方、中期的には「ビッグモーターから離れた顧客が自社に流入してくる」と期待する声がある。7月25日の会見で和泉伸二新社長が、足もとの買い取り・販売台数が「通常時に比べて約半減している」と明かしているが、その後も不祥事が相次いで発覚していることを考えると顧客離れの長期化は免れそうにない。
問題はビッグモーターから離れた顧客がどのような行動をするか。大手買い取り業者では、直近の土日時点(7月29日、30日)で集客数に顕著な差が見られた。「ビッグモーターが近くにある自社店舗では、顧客流入によって10%ほど客数が増えた」(IR担当者)。ただし、「ビッグモーターが近隣にない店舗では10%ほど客数が減った」(同)といい、プラスとマイナスが混在している。
業者間での中古車売買を仲介するカーオークション業者への影響はどうか。
◆換金売りへの期待と不安
あるオークション業者の管理職は、「不透明な部分が多い」と前置きしたうえで、「仮にビッグモーターの事業継続が怪しくなり、規模縮小のために小売りの在庫をキャッシュに換えるというのであれば、われわれのオークションに流れてくる台数が増えるかもしれない。これはプラスになりうる」と予想する。
オークション業者は出品料や成約料、落札料などの手数料ビジネスで稼ぐため、出品台数が増えれば単純に業績にはプラスとなるからだ。半面、ビッグモーターが在庫の中古車を一気に換金売りした場合の市況低下を懸念する声もある。
半導体不足による自動車生産の不調を受けて中古車相場は高値が続いていたが、昨年9月以降は下落基調となっていた。それがこの4月以降は持ち直し局面にある。中古車相場は自動車生産や為替を含む輸出環境、新車発売動向などのさまざまな要素が絡み合って決まるため、ビッグモーター問題の影響は読み切れないのが現状だ。
業態や時間軸によって影響度合いは異なるとはいえ、トータルでは「中古車業界へのイメージ悪化によるマイナス影響が大きい」との見方はおおむね共通している。
前述の大手買り取り業者のIR担当者は、「当社が創業したときは、車の下取り価格は言い値で決まってしまうような世界だった。そこから販売車両の情報開示などの活動をして少しずつ信頼を築き上げてきたのに、今回の件でガラッと中古車の信頼が崩れてしまった」と憤る。「今後のマーケットの成長にネガティブな影響は避けられない」と失意を隠せない。
もっとも、業界のイメージ悪化をビッグモーターのせいにだけしていいかは微妙なところだ。
国民生活センターが運営するPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された「中古自動車」に関する相談件数は2022年度に7194件。国民生活センターのホームページでは、問い合わせ件数の多い商品の一例として紹介されている。購入時のトラブルのほかにも、買い取り業者に売却する際のトラブルも見られるという。
ちなみにPIO-NETへの「ビッグモーター」に関する2022年度の相談件数は1491件で、過去9年間で約5.7倍に急増している。前述の中古自動車に関する問い合わせ件数とは定義が異なるため単純にはいえないが、ビッグモーターにかかわらない問い合わせも決して少なくはなさそうだ。
◆業界で不正は珍しくない
中古車を含む自動車のアフターマーケットではここ数年、大手自動車メーカー系列ディーラーによる不正車検や板金・塗装の不正などが発覚している。アフターマーケットを見る消費者の目はより厳しくなりそうだ。
ビッグモーターの調査報告書には、「鈑金業界ではこれまでにも保険金請求に当たって、過剰な修理や実際に施行した工数以上の請求といったことは、業者の規模にかかわらず常態的に行われてきた」と述べる従業員が複数名いたとの記述があった。
自動車ユーザーである国民が「ビッグモーターは氷山の一角なのではないか」と考えても何らおかしくはない。中古車業界全体として健全化と信頼回復の取り組みが必要なことだけは確かだ。
【村松 魁理 : 東洋経済 記者】
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「東洋経済オンライン セレクション」】 2023年08月10日 11:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。