【社説①】:年のはじめに考える 賄賂が人間的とされる国
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:年のはじめに考える 賄賂が人間的とされる国
バルト諸国を除く旧ソ連圏の国々は総じて汚職天国です。「賄賂は潤滑油」と、かの地でもよく言われます。大学はじめ学校の入学や成績、車の運転免許証取得に絡むものなど賄賂は日常的です。
中でも最も身近なのは交通違反もみ消しのための賄賂でしょう。
車を運転中に交通警察官に停止を命じられて、違反切符を切られる。手続きが煩わしくて時間がかかるし、ささいな違反に難癖をつけてきた警官に口答えしたら、免許証を没収されかねないという懸念も先に立つ。
取り締まりを賄賂目当てにしている警官がいることは市民の間では常識です。
少しばかりカネがかかってもさっさと片付けたい、と思うのが人情というもの。そこで、警官に袖の下を持ち掛ける際に使われるのが、次の常套句(じょうとうく)です。
「人間的に解決しましょう」
◆法律はすり抜けるもの
クレプトクラシー(泥棒政治)という言葉があります。ひと握りの権力者とその取り巻きが国の富を食い物にする体制を指します。
その最たるものがロシアのプーチン体制。贅(ぜい)を尽くした「プーチン宮殿」の存在を暴いた野党指導者のナワリヌイ氏は獄につながれたままです。
昔の話になりますが、「役人に賄賂をたかられて困る」と苦情を聞かされたプーチン大統領が「賄賂をせびる連中の手を切り落としてしまえ」と毒づいたことがありました。
それが今では…。「魚は頭から腐る」ものなのでしょう。
「合意は拘束する」と教えるローマ法の精神が根付いた西欧とは違い、ロシアは、権威主義的なビザンチン文明の影響を強く受けました。
ロシアには「法は電柱のようなもの」ということわざがあります。電柱は跳び越えられるものではなく、すり抜けていくものだ、という意味です。法を軽視するロシア人気質を表しています。
腐敗役人には袖の下をもらうことに罪悪感はうかがえません。むしろ賄賂は自分のポストに見合った役得と見なしているふしもうかがえます。
帝政時代を含めロシアの支配が長かった旧ソ連圏。汚職はそこにはびこる風土病ともいえます。
欧州連合(EU)は昨年末の首脳会議でウクライナとの加盟交渉を開始することを決めました。ロシアの引力圏を脱して欧州を志向するゼレンスキー政権にとって、EU加盟は北大西洋条約機構(NATO)加盟と並ぶ悲願です。
ただし、ウクライナが乗り越えなければならないハードルは高い。EUは加盟条件に汚職対策や法の支配の確立を挙げています。
世界の汚職を監視する非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルによる2022年の国別腐敗度調査では、180カ国・地域の中でウクライナは116位。以前よりは改善しているものの、137位のロシアをはじめ旧ソ連各諸国とともに下位グループの常連です。
◆ウクライナの脱露入欧
ウクライナを支援する欧米からうるさく言われて、ゼレンスキー大統領も汚職摘発の手を強めています。
最高裁長官が判決に手心を加えた見返りに270万ドルの賄賂を受け取った容疑で逮捕・罷免されました。
各州の徴兵窓口のトップが全員解任されたこともあります。徴兵逃れと引き換えに賄賂を受け取った腐敗が蔓延(まんえん)したためです。賄賂は5千~1万ドルが相場。ちなみに、欧州の最貧国の一つであるウクライナの平均給与は月額500ドル足らずです。
オデッサ州のトップはスペインで計500万ドル相当の別荘や高級乗用車を購入するのに汚いカネを充てていました。前線では兵士が死を賭して戦っているのを尻目に、私腹を肥やす連中が後を絶ちません。
ロシアとウクライナは一体だ、と見なすプーチン氏は、ウクライナが西を向くのが許せません。力ずくで自分の縄張りに留め置こうと侵略に及びました。これはまるっきり逆効果になりましたが。
一方、EUの加盟条件が意味するところは、ロシア的なるものとの決別です。染み付いた腐敗体質を改めるというよりも、まったく新しい社会に生まれ変わるに等しい。並大抵の努力では成し遂げられません。
加盟までには長い時間がかかるでしょう。ウクライナは初志を貫徹する覚悟を問われます。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年01月07日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。