【こちら特捜部】:「残念石」を大阪万博のトイレに使う残念な計画が浮上 「お城博士」も惜しむ歴史的な真価とは
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【こちら特捜部】:「残念石」を大阪万博のトイレに使う残念な計画が浮上 「お城博士」も惜しむ歴史的な真価とは
江戸初期に大坂城再建のための石垣用に切り出されながら使われず、京都府木津川市の木津川流域に残された「残念石」を、2025年大阪・関西万博会場のトイレの建物の柱に使う計画が波紋を広げている。専門家からは「文化財保護の観点から不適切」との声も。400年の時を経た残念石の価値を今に生かす方策とは。(安藤恭子)
矢穴がくっきりと残る残念石=2022年10月、京都府木津川市加茂町大野で(市教育委員会提供)
◆木津川流域には約40個残る
残念石とは、初代大坂城が1615年の夏の陣で焼失後、江戸幕府が約10年かけて再建工事をした際に使われなかった巨石。兵庫県の六甲山地や香川県の小豆島など各地に存在する。
木津川では「築城の名手」とうたわれた武将・藤堂高虎が指揮。近くの大野山斜面から切り出された花こう岩が石材として川港に降ろされ、舟で大坂城へと運ばれて使われた。一方で、川の中も含め、今も約40個の残念石が残されているという。表面には、切り出される際に開けられた「矢穴」や刻印の跡が残る。
◆クラファンで建設費募る
この石に着目し、30代の建築士ら3人が立ち上げたのが「400年越しに大阪へ!『残念石』を『万歳石』へプロジェクト」。日本国際博覧会協会から2022年、万博会場南西のトイレの設計を委託され、残念石の使用を思い付いた。
京都府道の工事に当たり移設された残念石=2023年5月、京都府木津川市加茂町大野で(市教育委員会提供)
「長い年月をかけてできた残念石の変色や風合いなど、人の力だけでなしえない『石の力』に魅力を感じた」とメンバーの小林広美さん。府道工事のため河川敷に移設された11個の石を管理する木津川市に打診し、借用の了承を得た。建設費は約6300万円。長辺3メートル前後、最大13トンの4個を使う計画で、同プロジェクト名のクラウドファンディングで2月中旬まで追加の資金も募っている。
市文化財保護課の永沢拓志課長補佐は「万博での計画も保存活用の一環。石を案内している地元の団体とも相談し『残念石を知ってもらえれば』という結論になった」と説明する。
◆「残念な計画」SNSなどで批判
しかし計画が今月報じられた後、交流サイト(SNS)上では「残念な計画」などと批判が相次いでいる。懸念する1人が「お城博士」として知られる名古屋市立大の千田嘉博教授(城郭考古学)だ。「城の石垣に使われるはずだった石を縦にして柱として使うのなら、活用ではなくて転用。文化財としての価値を生かすことにならない」
市が管理する残念石は既に元の位置から移設されているが、400年にわたり木津川に置かれてきたことにも価値があるという。千田教授によると、通称「残石帳」と呼ばれる史料や残念石からは、当時切り出した520個の石の大きさを調べて流域に保管し、すぐに運び出せるようにと並べておいた効率的なシステムがあったと分かる。
◆「文化財にふさわしい展示を」
木津川市は残念石を文化財に指定していない。千田教授は「国史跡の大坂城築城につながる知恵と過程が分かる貴重な場所として、市は一帯を『埋蔵文化財包蔵地』とし、きちんと調査すべきだった。『残念石』と言われるが、全く残念な石ではない」と強調する。
万博では綱で石を引くデモ企画もあったが、行わない方向という。同志社女子大の山田邦和教授(考古学)も「万博で展示するというなら建物の素材として使うのではなく、文化財の価値を明示し、それにふさわしい展示方法がなされるべきだ」と見直しを求める。
市によると、残念石の加工や現状変更を行わないこと、傷つけないための養生を貸与の条件とする方針。万博終了後は戻してもらうことにし、河川敷での集団展示や別の場所での展示を検討中という。「残念石は大切な地域の史料。市に批判が寄せられれば、丁寧に説明していきたい」(永沢氏)としている。
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元稿:東京新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【連載・こちら特報部、大阪・関西万博】 2024年01月29日 12:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。