【社説】:検察の裏金捜査 国民は到底納得できない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:検察の裏金捜査 国民は到底納得できない
億単位の裏金を会計担当者の一存でつくれるだろうか。派閥幹部の刑事罰を問わない捜査結果に、国民はとても納得できまい。
自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件で、東京地検特捜部は事務総長経験者ら安倍派幹部の国会議員7人の立件を見送った。
安倍派では裏金づくりが長く組織的に行われ、2022年までの5年間の総額は約6億円に上る。
特捜部が政治資金規正法違反の罪で立件したのは、事務職員である派閥の会計責任者と、4千万円を超える資金の還流を受けた谷川弥一衆院議員(長崎3区)ら3人の国会議員だけだった。
安倍派と同様に裏金づくりが発覚した二階派と岸田派でも、会計責任者や秘書だけが起訴された。
裏金づくりに幹部の関与がなかったとは到底思えない。議員がパーティー券の販売ノルマを超えた額を派閥から受け取る際、政治資金収支報告書に記載しないように派閥から言われた、との証言が複数出ている。
安倍派では22年のパーティーで還流をやめる方針だったが、会長の安倍晋三元首相が死去した後、幹部らが協議して継続したという。
安倍派をはじめ3派閥は、裏金づくりに誰がどのように関わったかを国民に説明すべきだ。その上で責任の所在を明確にしてもらいたい。
岸田文雄首相も自民党総裁としてその責任を負う。岸田派を長く率いた立場もある。「極めて遺憾だ」で済ませられる状況ではない。
捜査が始まって以来、党内で裏金づくりの実態を調査せず、誰も説明責任を果たさないのは異様だ。このまま再発防止策を打ち出し、自民党が刷新できると考えているなら国民を愚弄(ぐろう)している。
今回の捜査で、政治資金規正法の不備が改めて浮き彫りになった。
規正法は会計責任者に収支報告書の提出を義務付けている。記載内容が事実と異なる場合、罪に問われるのは会計責任者だ。
政治家の共謀を立件するには具体的な指示を裏付けるメールやメモなどの証拠が必要となる。特捜部は派閥幹部からも任意で事情を聴いたが、立証できなかった。
多額の裏金がまかり通る政治を一掃するために、政治資金規正法の早急な改正を与野党に求める。
罰則を強化し、会計責任者が有罪になれば政治家にも刑事責任が及ぶ連座制が不可欠である。収支を透明にする措置も当然必要だ。
首相は岸田派解散を表明した。安倍派と二階派も解散を決めた。裏金づくりが慣行となった背景に派閥政治があるのは確かだが、解散したからといって「政治とカネ」の問題がなくなるわけではない。
不透明なカネをなくさない限り、国民の政治に対する怒り、不信は払拭できない。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2024年01月20日 09:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。