《社説①・12.08》:脱炭素と排出量取引 実効性の高い制度設計に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.08》:脱炭素と排出量取引 実効性の高い制度設計に
脱炭素社会の実現に向けて、企業に行動変容を促す実効性の高い制度にしなければならない。
政府が2026年度に本格導入する排出量取引の大枠を決めた。1年間に排出できる二酸化炭素(CO2)の上限を企業ごとに定める。超過した分は、下回った他社から買い取って相殺する仕組みだ。取引で穴埋めできなければ、国に負担金を支払う。
排出を減らせなければコストがかさみ、抑えられれば余った分の売却益を見込める。脱炭素技術の開発を促す効果が期待される。
年間排出量10万トン以上の企業に参加を義務づける。電力会社や鉄鋼、自動車など300~400社が対象となる見通しで、国内全体の排出量の6割程度がカバーされるという。先行して導入した欧州や韓国を参考にした。
排出量を売買する市場は、すでに東京証券取引所に開設されている。だが、参加するかどうかや、排出上限の設定は企業に委ねられている。超過分の買い取り義務もなく、削減を後押しする仕組みとしては限界がある。
強制力を持つ制度になれば、削減効果は高まる。ただし、課題も少なくない。
まず企業ごとの上限を公平・透明な形でどう設定するかが問題だ。厳し過ぎれば、排出量の取引価格が高騰し、業績を圧迫する。半面、甘過ぎれば、脱炭素への投資が停滞しかねない。
政府は鉄鋼や自動車などを念頭に「輸出競争力の確保に配慮する」と説明する。だが、企業の事情を優先するあまり、削減が進まないようでは本末転倒だ。
これまで積極的に取り組んだ企業ほど追加削減の余地が乏しいという点も考慮する必要がある。
韓国では15年の導入当初、「特定企業が優遇されている」との不満が噴出し、訴訟が起きた。教訓とすべきである。
公平性を保つには、各企業のこれまでの排出実績の把握が必須となるが、評価方法は確立されていない。環境整備が急がれる。
削減コストが製品価格に転嫁されれば、消費者の負担となる。国民の理解を得る努力も不可欠だ。
政府は50年の排出量実質ゼロを国際公約に掲げる。それにつながる制度とすることが求められる。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月08日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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