【社説・12.11】:シリア政権崩壊/秩序の回復へ国際協調を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.11】:シリア政権崩壊/秩序の回復へ国際協調を
内戦下のシリアで反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド政権が崩壊した。攻勢を主導した「シリア解放機構(HTS)」のジャウラニ指導者は「新たな歴史をつくった」と勝利宣言する一方、アサド大統領はロシアへ亡命し、平和的な手段による政権移行を指示したとされる。
アサド氏と父親は半世紀にわたって強権的な政治を展開してきた。2011年の中東民主化運動「アラブの春」に伴うデモを弾圧した後は内戦状態に陥り、深刻な人道危機を招いた。子どもや民間人を含む死者は40万人以上、避難民は1300万人を超えるとされる。国際法に反して市民らに化学兵器を使用したとして、国際社会から強い批判を浴びたことも記憶に新しい。
10日余りの攻防でのあっけない幕切れは、軍の士気低下など独裁政権の限界を示したと言える。長きにわたった混乱を解消し、避難民が帰還できる環境を整えてもらいたい。前政権幹部の責任追及も不可欠だ。
政変の背景にはさまざまな要因が重なった。政権の後ろ盾だったロシアはウクライナ侵攻の長期化で余力がなく、友好関係を築いてきたイランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラもイスラエルとの攻撃の応酬で疲弊していた。
混迷する世界情勢は、地域紛争に予想外の激変をもたらすことを示した格好だ。中東の真の安定化には、国際秩序の回復が欠かせない。
懸念材料は山積する。HTSは国際テロ組織アルカイダの流れをくみ、国連や米国からテロ組織に指定されている。指導部は穏健路線への転換を主張するが、国家運営の手腕は未知数だ。諸派や少数民族との対立が表面化する恐れもある。再び強権的な体制に陥らないか、国際社会が動向を注視し、まずは公正な選挙による政権移行を促す必要がある。
「アラブの春」の後、シリアの反体制派地域では過激派組織「イスラム国(IS)」が国家樹立を宣言し、混乱に拍車をかけた。シリアに政治的空白が生じれば、こうした勢力が再び台頭する恐れがある。
米軍とイスラエル軍は政権崩壊を機に、シリア国内のIS拠点や政府軍の武器庫を空爆した。政変は対イスラエルの「抵抗の枢軸」の力を一時的にそぐ可能性があるが、中長期の影響を見通すのは困難だ。
パレスチナ自治区ガザでの人道危機に対処できない欧米に、新興国などは冷ややかな目を向けている。イスラエルや米国主導で強引にシリアの秩序回復を図れば混迷を深めかねず、各国が協調して対応するべきだ。欧米のみならず、中東諸国とも友好関係を築いてきた日本には仲介的な役割を期待したい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月11日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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