【余禄】：ロシアのプーチン大統領が柔道の総本山…

【余禄】：ロシアのプーチン大統領が柔道の総本山…

　『漂流する日本の羅針盤を目指して』：【余禄】：ロシアのプーチン大統領が柔道の総本山…

　ロシアのプーチン大統領が柔道の総本山、東京・講道館を初めて訪れたのは2000年9月だった。柔道愛好家の同氏は、山下泰裕氏（現・日本オリンピック委員会会長）らに「わが家に帰ってきたようだ」と語った。名誉六段の帯を贈られたが「帰国して研さんする」と固辞したという

　▲その後、交流を重ねる中でプーチン氏は柔道の創始者、嘉納治五郎（かのう・じごろう）直筆の書を2度贈られた。それぞれ「自他共栄（じたきょうえい）」「精力善用（せいりょくぜんよう）」という嘉納の理念がしたためられていた

　▲政府は「対プーチン外交」で柔道を通じた交流を積極化してきた。友好関係を培い、北方領土交渉の弾みとする期待もあったのだろう。プーチン氏は領土問題で「引き分け」に言及したこともある

　▲だが、安倍晋三元首相による27回の首脳会談は空振りに終わった。世界はいま「自他共栄」の対極にあるような、独裁者が主導するおぞましい侵略行為の渦中にある▲全日本柔道連盟会長でもある山下氏がロシア侵攻批判の声明を公表したのは今月だった。山下氏自身「自分の未熟さを感じる」と認めるように遅きに失した。直ちに反応すべきだった

　▲嘉納が重んじた理念には「順道制勝（じゅんどうせいしょう）」という言葉もある。手段を選ばぬ勝利至上主義を厳しく戒めた言葉だ。侵略戦争を起こしたうえ、核による威嚇まで行うプーチン流はこれも正反対であろう。山下氏は「（いまの）プーチン氏は全く別人」と嘆くが、柔（やわら）の道から遠い人物だった。嘉納の二つの書は、いまどうなっているだろう。

　元稿：毎日新聞社　東京朝刊　主要ニュース　社説・解説・コラム　【余録】　 ２０２２年０４月２４日 　０２：０１：００ これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。