【社説・11.02】:中3殺害事件再審 審理の長期化を避けねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.02】:中3殺害事件再審 審理の長期化を避けねば
異議申し立てを検察側が断念したことは当然だ。再審公判では審理の長期化を避けねばならない。捜査や公判の問題点についても検証が求められる。
1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部は、殺人罪で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さんの裁判をやり直す再審の開始を認める決定をした。
これに対し、名古屋高検は、異議申し立てをしないと発表した。再審開始が確定し、無罪が言い渡される公算が大きい。
逮捕時に21歳だった前川さんは服役を経て、今は59歳になった。
満期出所後の第1次請求で高裁支部は2011年に再審開始を認めたが、名古屋高裁で取り消された。今回開始が決まったとはいえ、あまりにも遅すぎる。
10月には事件から58年を経て袴田巌さんの再審無罪が確定したばかりだ。袴田さんは88歳となり、人生の貴重な時間を奪われた。
福井の事件では、犯人を直接指し示す証拠がなく、前川さんは捜査段階から無実を主張していた。一審は無罪判決だったが、二審で逆転有罪となり、確定した。
確定判決が有罪の根拠としたのは、知人ら複数の関係者の供述だった。ところが、高裁支部の決定は、自己の利益のためにうそを言った可能性があるとして供述の信用性を否定した。
再審開始の扉をこじ開けたのは、第2次請求で、検察側が新たに開示した捜査報告書など計287点の新証拠だった。
「血の付いた前川さんを見た」と証言した関係者が事件当日に視聴したとしたテレビ番組のシーンが、実際はその日には放送されていないことが新証拠で判明した。
高裁支部は、捜査に行き詰まっていた警察が、供述を誘導した疑いが払拭できないと指摘した。
検察についても、供述に事実誤認があることを知りながら裁判で明かさず、有罪立証を続けたとした。「公益の代表者としてあるまじき、不誠実で罪深い不正だ」と指弾したのは、もっともだ。
ストーリーに沿った「見立て捜査」の線が色濃い。警察と検察は問題点を洗い出す責務がある。真犯人検挙の機会が失われたとすれば、その責任も問われよう。
新証拠を巡っては、弁護団が開示を求めた際に検察は渋ったが、高裁支部が開示命令を出すことを示唆したため、やっと開示した。
再審請求段階の証拠開示ルールがなく、検察の異議申し立てに制限がないなど無実を訴える人に著しく不利な制度の改善が急務だ。
検察側は今後の再審公判での姿勢を明らかにしていない。過去の再審公判では有罪立証を続け、審理が長期化するケースが多い。
検察側は高裁支部決定を真摯(しんし)に受け止めて臨んでもらいたい。
元稿:新潟日報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月02日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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