【社説②・11.19】:日中首脳会談 共通利益拡大の一歩に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・11.19】:日中首脳会談 共通利益拡大の一歩に
石破茂首相は15日(日本時間16日)、訪問先の南米ペルーの首都リマで中国の習近平国家主席と初の首脳会談に臨んだ。「戦略的互恵関係」の推進では一致したものの、尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、アステラス製薬の社員ら日本人の拘束問題については習主席から前向きな発言はなかった。だが、首相は「非常にかみ合った意見交換ができた」と語っており、首脳同士を含む日中間の対話を積み重ね、課題と懸案を一つずつ減らしていく第一歩としてほしい。
「戦略的互恵関係」は、大局的で未来志向の関係構築を目指すもので、冷え込んでいた日中関係の改善を模索する中、2006年に当時の両国首脳が確認した。以後の関係停滞で棚上げ状態となっていたが、岸田文雄前首相が昨年11月の習主席との会談で再び進めることで一致していた。
今回、その推進を再確認したのを受け、日中は共通利益拡大の道を探り、着実に関係を安定させることが重要だ。
日中両政府は既に9月、東京電力福島第1原発の処理水放出を受けた中国の水産物禁輸を緩和することで合意しているが、両首脳が合意の着実な実施を確認したのは一つの成果だ。再開時期は明言しなかったというが、主席自身が合意実施に言及した事実は重い。
また、会談では、広東省深圳で起きた日本人学校の児童刺殺事件などについて、習氏が「日本人を含む在中国の外国人の安全を確保する」と述べた。治安悪化を防ぐのは当然だが、事件についての情報公開が不十分なのは問題だ。引き続き説明を求めたい。
安保面では、不安解消の糸口は見えなかった。首相は尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、中国軍の活動活発化について「極めて憂慮している」と伝え、台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘したが、習主席から緊張緩和に向けた前向きな発言はなかった。
1972年の日中国交正常化に尽力した当時の日本の首相は田中角栄氏。正常化と、それに伴う平和友好条約を貫く精神は「不戦の誓い」である。若手政治家時代に田中氏の薫陶を受けた首相には、日中最大の共通利益が「不戦」であることを胸に刻んでほしい。
ただ、両国の国際社会における地位も当時とは様変わりしている。どう関係を紡いでいくか、手腕に注目したい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 07:35:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます