【社説①】:富士山の噴火 「正しく恐れる」ために
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:富士山の噴火 「正しく恐れる」ために
静岡、山梨、神奈川の三県と国などは富士山の噴火に備えた新たな避難基本計画をまとめた。江戸期以来、三百余年ぶりに噴火すれば溶岩流や噴石が周辺を襲い、降灰は首都圏にも及ぶ。過去の災害を教訓に、「現実的」な対応策に主眼を置いた計画と言えよう。
二年前、最新の知見に基づき被害想定を大幅に拡大したハザードマップを踏まえた改定だ。従来の計画と比べ、警戒区域は静岡、山梨県の十五市町村から、神奈川を含めた三県の二十七市町村に、避難対象者は一万六千人から十一万六千人に増えた。
噴火時には噴石や火砕流、溶岩流、土石流、降灰、火山ガスなどの発生が予想される。基本計画は「噴火は予知できない」と警告した上で、細かくエリアを分け、避難の時期や手法を整理した。最大の変更点は、命の危険を伴う溶岩流からの避難を、その速さが人が歩く程度とされることを踏まえ、車から徒歩に切り替えたことだ。
すべての市民が一斉に車で逃げようとすると、深刻な渋滞が予想されるからだ。逆に徒歩での避難が難しい高齢者や体の不自由な人たちは優先的に車で搬送する。東日本大震災の反省も踏まえた策だが、火急の際、その原則が守られるか、疑念も残る。各自治体は今後、さらに詳細な計画を策定する中で、パニックで混乱に陥らぬよう、住民への周知を徹底したい。
従来は、一律に警戒区域外への避難を求めたが、エリアによっては安全確保を前提に近隣や自宅待機も可能とした。登山者や観光客など向けも含め、さまざまなシナリオを想定した訓練の重要性も指摘している。
今計画の根底には人と富士山との「共生」の理念があるという。富士山は、海外からも人を呼び込む観光資源であると同時に、周辺住民の「心のふるさと」にほかならない。敬愛しつつも、正しく恐れる−。そんな考え方のようだ。
とはいえ、用心にこしたことはない。南海トラフ地震との同時発生も想定し、さらに検討を重ねる必要はあろう。噴火規模や風向きによって、降灰は首都圏の鉄道や道路を止め、停電や断水、通信障害も懸念される。その総灰量は東日本大震災で発生した災害廃棄物の十倍に達するとされる。除灰作業やその処分先、他地域からの支援態勢など、警戒区域外の自治体とも連携して対策を練りたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月06日 08:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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