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【機密文書・前編】:アメリカ原爆「機密文書」に書かれていた「重要事実」…! 『マンハッタン計画』指揮者が知っていた「放射線被害の本当の恐ろしさ」と、「オッペンハイマー宛のメモ」の中身

2024-12-19 23:58:50 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【機密文書・前編】:アメリカ原爆「機密文書」に書かれていた「重要事実」…! 『マンハッタン計画』指揮者が知っていた「放射線被害の本当の恐ろしさ」と、「オッペンハイマー宛のメモ」の中身

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【機密文書・前編】:アメリカ原爆「機密文書」に書かれていた「重要事実」…! 『マンハッタン計画』指揮者が知っていた「放射線被害の本当の恐ろしさ」と、「オッペンハイマー宛のメモ」の中身

 ◆機密「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」

 「原爆の放射線に即死するほど晒されなかった被害者は、過度に苦しむことなく死ぬだろう。実際、それは非常に気持ちのいい死に方だと言うことだ」

 これは、原爆の開発・製造目的で1942年に開始された「マンハッタン計画」の最高責任者レスリー・グローブス将軍(映画『オッペンハイマー』では、マット・デイモンが演じている)が、原爆が投下された1945年の11月に「原子力エネルギーに関する米上院特別委員会」の公聴会でした証言である。

 “被爆者が非常に気持ちのいい死に方をする”とは、とんでもない発言だ。当時、「マンハッタン計画」を主導した人々は、放射線の影響について、どの程度、認識していたのだろうかーー。

 8月7日、そんな疑問に答える、機密解除された文書「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」が公開された。この文書は、1970年代に数回の審査を経て非機密化されていたが、公開されたのは今回が初めてとなる。

 多くの政治家を輩出している名門ジョージ・ワシントン大学の私立研究機関「国家安全保障アーカイブ」がFOIA(情報公開法)を通じて行ったリクエストに対し、米国家核安全保障局が公開したこの文書は、「マンハッタン計画」のためにニューメキシコ州ロスアラモスに創設されたロスアラモス国立研究所のアーカイブの中から見つかった。ちなみに、「国家安全保障アーカイブ」は、原爆に関する機密文書をこれまで数年にわたって入手しており、この文書以外にも、様々な文書をサイトで公開している。

初公開された機密文書

 上の画像が、原爆投下の翌月1945年9月1日付けのその文書。ロスアラモス研究所の4名の科学者が、同研究所原爆計画爆発部長ジョージ・キスチャコウスキーの依頼で、広島と長崎に投下された原爆がもたらす生物学的影響についてリサーチして書いたメモランダムである。

 ◆「約800〜900メートルの範囲内で致命的な可能性」

 この文書は、書かれたその日までは指摘されることのなかった重要な事実を露呈している。科学者たちが“放射線被曝が、原爆の爆撃で亡くなった人々の死亡原因の一つになる可能性がある”と結論づけているのだ。この文書でそのことが指摘されるまでは、原爆の被害者は主に爆風や熱によって死亡すると想定されていた。つまり、この文書は、初めて、放射線被曝が原爆の被害者の死を引き起こした可能性を指摘した貴重な文書と言える。

 初公開された機密文書

 具体的には、原爆の爆発直後に発生するガンマ線が人体に致命的な影響を与える可能性があることや、生存者でも爆撃から何週間も経って亡くなる可能性があることが、以下のように述べられている。

 「爆発後、数秒以内に放射されるガンマ線は、致死量が599〜900レントゲンであるため、約800〜900メートルの範囲内で致命的となる可能性がある。この種の放射線の場合、この範囲内で奇跡的に生存した人であっても放射線によって命を落とすだろう。このケースでは、数週間後に亡くなることもある」

 また、放射性粒子による影響についても言及されている。

 「地面に堆積した放射性物質から出る放射線による生物学的損傷は算出できない。これはほぼ無視できる可能性があるが、降下する塵粒子の活性物質が堆積することは排除できない」

 ◆「オッペンハイマー」へのメモ

 放射線被曝が引き起こしたと思われる病気や死亡については、原爆が投下された後、日本でも報じられていた。しかし、「マンハッタン計画」の最高責任者レスリー・グローブス将軍は、この文書の日付の前日にテネシー州オークリッジで行われた記者会見で、“放射線が死亡を引き起こしたという事実はなく、報道は日本のプロパガンダだ”と主張して、放射線の影響を否定していた。

 つまり、グローブス将軍の主張は、4人の科学者が書いた“放射線被曝が原爆の被害者の死因の一つになる”としている前述の文書と真っ向から矛盾していた。そのため、文書を受け取ったチャウコウスキーは、当時ロスアラモス研究所所長を務めていたロバート・オッペンハイマー宛てのメモの中で「グローブス将軍が大胆な主張をした」と戸惑い、その文書をすぐにはグローブス将軍に送らなかった。

オッペンハイマー(左)とグローブス将軍(右) photo/gettyimages

 しかし、グローブス将軍は、本当に、放射線の影響を認識していなかったのだろうか? そうとは思えない。「国家安全保障アーカイブ」に掲載されている様々な文書がそのことを示唆している。

 例えば、1945年7月21日、アメリカがニューメキシコ州で“トリニティ実験”と呼ばれる人類初の核実験でプルトニウム原子爆弾を爆発させてから数日後、「マンハッタン計画」主任医務官スタフォード・ウォーレンは、最高機密報告書の中で、「キノコ雲から降下する粉塵は、爆発実験地点から約30マイル、北東約90マイルにわたって、非常に深刻なハザードを引き起こす可能性がある。空中には非常に大量の放射性の塵が浮遊している」と報告していた。

 また、ウォーレンらは、後に、実験地点から最大100マイル先まで大量の放射性降下物があったことを発見している。そこでは、ベータ線で焼かれて背中の毛が白色化した牛まで見つかっていたのだ――。

 後編記事『アメリカ原爆「機密文書」が“初公開”で判明…! 『マンハッタン計画』指揮者が「無視]した“放射線被害の深層”と、「日本のプロパガンダだ」発言のウラで漏らしていた「本音」』では、さらに機密文書に残されていた“深層”についてレポートしよう。



 ■飯塚 真紀子
MAKIKO IIZUKA

 在米ジャーナリスト。大分県生まれ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、雑誌編集を経て渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会問題、トレンドなどをテーマに様々な雑誌に寄稿。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲルなど多数の知識人にインタビュー。著書に 『9・11の標的をつくった男 天才と差別―建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社)、『そしてぼくは銃口を向けた 』、『銃弾の向こう側―日本人留学生はなぜ殺されたか』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社)、訳書に封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか(講談社 )などがある。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース 社会 【話題・機密解除された文書「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」が公開・担当:飯塚 真紀子・在米ジャーナリスト】  2023年08月15日  07:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【機密文書・後編】:アメリカ原爆「機密文書」が“初公開”で判明…! 『マンハッタン計画』指揮者が「無視」した“放射線被害の深層”と、「日本のプロパガンダだ」発言のウラで漏らしていた「本音」

2024-12-19 23:58:40 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【機密文書・後編】:アメリカ原爆「機密文書」が“初公開”で判明…! 『マンハッタン計画』指揮者が「無視」した“放射線被害の深層”と、「日本のプロパガンダだ」発言のウラで漏らしていた「本音」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【機密文書・後編】:アメリカ原爆「機密文書」が“初公開”で判明…! 『マンハッタン計画』指揮者が「無視」した“放射線被害の深層”と、「日本のプロパガンダだ」発言のウラで漏らしていた「本音」

 ◆「初公開」機密解除された文書に書かれていたこと

 8月7日、アメリカで機密解除された文書「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」が公開された。今回初公開された貴重文書であることは言うまでもないが、その中では「爆発後、数秒以内に放射されるガンマ線は、致死量が599〜900レントゲンであるため、約800〜900メートルの範囲内で致命的となる可能性がある」などと指摘。当時、原爆の被害者は主に爆風や熱によって死亡すると想定されていた中で、初めて放射線被曝が原爆の被害者の死を引き起こした可能性を指摘した貴重な文書が初公開された形なのだ。

公開された機密文書

 しかし、「マンハッタン計画」の最高責任者レスリー・グローブス将軍が、この文書の日付の前日にテネシー州オークリッジで行われた記者会見で、“放射線が死亡を引き起こしたという事実はなく、報道は日本のプロパガンダだ”と主張していたことを記事『“初公開”アメリカ原爆「機密文書」に書かれていた「重要事実」…! 『マンハッタン計画』指揮者が知っていた「放射線被害の本当の恐ろしさ」と、「オッペンハイマー宛のメモ」の中身』では紹介した。「マンハッタン計画」主任医務官スタフォード・ウォーレンもまた、最高機密報告書の中で、「キノコ雲から降下する粉塵は、爆発実験地点から約30マイル、北東約90マイルにわたって、非常に深刻なハザードを引き起こす可能性がある。いったいなぜ、放射線被害についての現実は“無視”されたのかーー機密文書には苦悶する指揮官の「本音」が残されていた。 

 ウォーレンは、グローブス将軍宛ての7月25日付の文書の中でも、都市上空での原爆の爆発が放射線ハザードや火事などを引き起こすと指摘、また、原爆の放射線は、爆発後に都市入りする軍隊にも危険を与える可能性があり、文書の最後に添付されている表で、放射線を大量に浴びた場合、多くの軍隊は「永久的なダメージ」を受ける可能性があると分析している。

 つまり、グローブス将軍はこの時点で、放射線の影響が十分わかっていたはずだ。

 しかし、グローブス将軍は、陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル将軍宛てに送ったトリニティ実験に関する7月30日付けの文書の中で、原爆が引き起こす爆風の影響については強調しているものの「地上では、放射性物質のダメージを受けないことが予想される」と放射線の影響を否定している。ここでも、ウォーレンの指摘は無視されてしまった。

 ◆「(日本の)上手いプロパガンダだ」と一蹴した

 そして、8月6日には広島に、9日は長崎に原爆が投下される。日本では、すぐに、原爆の放射線が引き起こしたと考えられる病気や死亡が報じられた。その報道はグローブス将軍の耳にも入り、1945年8月25日、将軍は、放射線の影響を報じる日本のラジオ放送についてオークリッジ病院の外科医と電話会談をしている。

 2人は、日本のラジオ放送が「広島は死の街となり、25万人が住む街の90%の家が即座に破壊された。今は幽霊が後進している。生存者は放射線火傷で死ぬ運命にある」と報じたことについて、「それは上手いプロパガンダだ。人々は熱傷を受けているだけだ」と一蹴している。

 9月7日、グローブス将軍は、ハーバード大学学長で「マンハッタン計画」にも深く関与したジェームズ・コナント氏と電話会談をしているが、その時も「放射線で人がなくなっているという報道には根拠がない」と言い切っている。

 グローブス将軍の“放射線の影響否定”はその後も続いた。

 前述のウォーレンは、グローブス将軍に宛てた11月27日付けの原爆調査報告書の中で、「広島と長崎の病院に入院した約4,000人の患者のうち約1300人に当たる33%が放射線の影響を受け、そのうち約半数が死亡した」と書いている。

 しかし、その3日後の1945年11月30日、「原子力エネルギーに関する米上院特別委員会」の公聴会で、議員から、原爆が投下された日本の2都市で「放射性の残留物」があるかどうか尋ねられたグローブス将軍は「ない。確定的にない」と断言した。ウォーレンが原爆調査報告書で伝えたことは無視されてしまった。

 ◆グローブス将軍への「あるアドバイス」

 また、原爆と放射線については「わずかな日本人に放射線被害を与えるか、10倍のアメリカ人の命を救うかという選択肢しかなかった」とし、「原爆が実際に爆発した時以外は、誰も放射線で負傷していない。それは瞬間的なダメージだ」などと放射線の影響を軽視する主張も展開した。

 さらに、グローブス将軍は、ここで、恐るべき証言をする。

 「普通の人間が、爆撃の範囲内で、放射線の影響で殺されるのは実際偶然の出来事だ。原爆の放射線に即死するほど晒されなかった犠牲者は過度に苦しむことなく死ぬだろう。実際、それは非常に気持ちのいい死に方だと言うことだ」

 当然のことながら、グローブス将軍のこの証言は「とんでもない虚偽」と大バッシングされた。

グローブス将軍 photo/gettyimages

 このように、グローブス将軍は、放射線の影響については、原爆投下前からウォーレンに知らされていながらも、また、原爆投下後に冒頭の「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」に関する文書が出されていながらも否定し続け、国民や議会を欺いてきたのだ。

 なぜか?

 文書には、“放射線による病気や死亡報道”に対し、同僚が「アンチ・プロパガンディストを出した方がいい」と日本のプロパガンダに対してアンチ・プロパガンダするようグローブス将軍にアドバイスしているくだりがある。

 ◆『マンハッタン計画』指揮者が「漏らした本音」

 それに対し、グローブス将軍はこう答えている。

 「それはできない。ダメージは全て、我々が引き起こしたからだ。我々は坐して待つ以外何もできない」

 加えて、日本はプロパガンダで同情を集めようとしているが、その状況を生み出した張本人はアメリカだという自覚も示している。

 「彼ら(日本側)は同情を集めようとしている。悲しいのは、それをアメリカが始めたさせたことだ。日本人が、爆撃から数日後に奇妙に亡くなっており、アメリカの偉大な放射線研究所でよく知られている現象の被害者の可能性があるということが、我々にダメージを与えている」

 原爆を開発し投下したアメリカとしては、日本に対して何も言えない状況だったのだ。結局のところ、放射線被害報道は日本のプロパガンダと決めつけることが、グローブス将軍ができた唯一のアンチ・プロパガンダだったのかもしれない。

 ◆「熾烈な核兵器開発競争」につながる「欺瞞」

 また文書で、民主党の上院議員が「アメリカ国内には、原子力とその利用に対する“非常に強い恐れ”がある」と指摘していた。国民が原子力に恐れを抱くなか、アメリカは、原子力を利用した核兵器の開発を推進しようとしていたのだ。

 日本に投下された原爆による放射線被害を否定する戦略をとらなければ、世論は反核へと向かうことになるとグローブス将軍は危惧したのだろう。何より、「マンハッタン計画」を指揮した者としての矜持もあったのではないか。

 グローブス将軍は、戦後も核兵器に関わり続けた。1947年に生み出された「武装部隊特別兵器プロジェクト(AFSWP)」の初代チーフに任命され、米軍の核兵器の監督を行った。
 
 そして幕を開けたアメリカとソ連による熾烈な核兵器開発競争。その始まりには、放射線の影響を無視し、否定した男の欺瞞があったのかもしれない。



 ■飯塚 真紀子
MAKIKO IIZUKA

 在米ジャーナリスト。大分県生まれ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、雑誌編集を経て渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会問題、トレンドなどをテーマに様々な雑誌に寄稿。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲルなど多数の知識人にインタビュー。著書に 『9・11の標的をつくった男 天才と差別―建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社)、『そしてぼくは銃口を向けた 』、『銃弾の向こう側―日本人留学生はなぜ殺されたか』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社)、訳書に封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか(講談社 )などがある。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース 国際 【話題・米国で機密解除された文書「広島と長崎における原爆爆発の生物学的影響」が公開・担当:飯塚 真紀子・在米ジャーナリスト】  2023年08月15日  07:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ニュースの教科書】:「原爆映画」の日米ギャップ突き破った奇跡的映画 映画史に異彩を放った「太陽を盗んだ男」

2024-12-19 23:58:30 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【ニュースの教科書】:「原爆映画」の日米ギャップ突き破った奇跡的映画 映画史に異彩を放った「太陽を盗んだ男」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ニュースの教科書】:「原爆映画」の日米ギャップ突き破った奇跡的映画 映画史に異彩を放った「太陽を盗んだ男」

 ■<ニュースの教科書>

 映画「バービー」の主人公の髪形を「キノコ雲」に加工したSNS画像が波紋を呼び、日米間の原爆に対する認識の違いが改めて浮き彫りになりました。底流に平和への思いが込められた作品でも、そもそも日米では視点が違うのです。映画史をひもとくと、そんなギャップを乗り越えた挑戦的な作品もありました。【相原斎】

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 1945年7月16日のアメリカ山岳部戦時標準時の5時29分45秒、トリニティ実験における「ガジェット」が爆発。その0.025秒後の火球をハイスピードカメラによって撮影された写真がこちら。地平線に沿った黒点は樹木と思われます。この爆発でTNT(トリニトロトルエン)換算約19キロトンのエネルギーが放出され、爆心地には放射能を帯びたガラス質の石からなる、深さ3m直径330mのクレーターが残されたとのこと。 GETTY IMAGES

             ◇    ◇    ◇  

 着せ替え人形を主人公にした「バービー」と、原爆開発者の半生を描いた「オッペンハイマー」が、くしくも米国で同時公開となったことが騒動のきっかけとなりました。注目作を「2本立て」で観賞する映画ファンが多く、バービーの髪形をキノコ雲に加工した画像などが次々にSNSに投稿されたのです。日本からすれば無神経な行為に映り、腹立たしい思いや悲しい思いをされた方も少なくないと思います。一方で、戦後間もない頃からキノコ雲のポップアートを当たり前のように目にしていた米国人にとっては、陥りやすい「画像加工」であったことも確かです。一連の投稿は日本からの批判を受けて削除され、配給元が謝罪する事態となりました。

 「バービー」は、「レディ・バード」(17年)で高評価を得たグレタ・ガーウィグ監督がメガホンを取った意欲的な作品です。女性が主人公の「人形世界」からやってきたバービーの目を通し、いびつな男社会の現実を浮き彫りにしています。

 クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」も、原爆開発者の苦悩を通して反戦反核の色濃い作品です。ロサンゼルス在住の千歳香奈子通信員によれば「若者向けの作品が多いサマーシーズンには似つかわしくない3時間超えの伝記映画にもかかわらず、異例のヒットになっています」。

 本来良心的で質の高い2作品の公開日がたまたま重なったことで、日米の認識の違いが改めて浮き彫りになったのです。

 「オッペンハイマー」には広島、長崎への原爆投下とその後の惨劇を描くシーンがありません。ノーラン監督の一種の配慮かもしれませんが、これが日米の視点の違いを端的に示しているように思います。

 今村昌平監督(06年、79歳没)の「黒い雨」(89年)は、対照的に原爆投下後の放射性降下物(フォールアウト)が題材です。公開当時、主演した田中好子(11年、55歳没)にインタビューする機会がありました。

田中好子は神妙な表情でインタビューに応えた(89年3月18日の紙面から)

 

 キャンディーズの解散で「スーちゃん」から女優に転身してちょうど10年。ほっそりとした外見に大きな瞳がよけいキラキラと目立ったことを覚えています。ロケ地岡山県の山村で半年間の「合宿撮影」を経て、体重はアイドル時代より8キロ落ちて「39キロになりました」と明かしました。

 劇中、田中演じる娘は、被爆した一家3人の中でただ1人原爆症の兆候が表れません。しかし、数年後のある日、ふろ場で黒髪がごっそりと抜け落ちてしまいます。どこかあきらめたような薄笑いの演技が記憶に残りました。

 「原爆が原因で、周囲がみんな死んでいく。1人で幸せになれない。むしろ、みんなの仲間になった方が…。そんな不思議な笑いなんですよね」

 田中は主人公の気持ちをそんな風に解釈したそうです。両親は東京・足立区で釣具店を営んでいましたが、戦時中、海軍工廠(こうしょう)に徴用されていた父親には悲しい経験と複雑な思いがあったようです。

 「撮影中の話をしたら、父が『これでお前にも一億玉砕の意味が少しは分かるだろう』って。確かに感じるところがありましたね」

 スーちゃん時代のイメージが残っていたこともあって、しみじみとした思い出話は意外でもあり、日本に根差した原爆や戦争への思いを改めて実感しました。

 戦勝国の米国で、反核の思いを伝えようとするなら、「オッペンハイマー」のような理性的な語り口が必要とされるのは想像に難くありません。対照的に、唯一の被爆国である日本の映画には、語り継がれる体験が感性として染み込んでいるのだと思います。

「ザ・デイ・アフター」の公開当時のポスター

 

 米中部のカンザスシティーを舞台に、米ソ核戦争勃発を想定した「ザ・デイ・アフター」(84年)では、核兵器の影響が科学的データに基づいて描かれています。「客観」に徹したニュース映像のようなカメラワークで、「30分以内にソ連のミサイルが飛来」という現実を受け止められない市民の表情が印象的でした。

 対して、新藤兼人監督の「原爆の子」(52年)を始め、「はだしのゲン」(76年、中沢啓治原作、山田典吾監督)「父と暮らせば」(04年、井上ひさし原作、黒木和雄監督)などの作品には、ダイレクトに心を揺さぶられてきました。 

 日米間の拭いがたいギャップを乗り越え、独特の視点から原爆の恐ろしさを印象づけて映画史に異彩を放っているのが「太陽を盗んだ男」(79年)です。

 この3年前に「青春の殺人者」を撮って一躍スター監督となった長谷川和彦監督(77)が、米国の脚本家レナード・シュナイダー(06年、62歳没)と共同で脚本を執筆したことで、米国的とも言えるちょっと突き放したような視点が生まれたのだと思います。

 中学校の理科の教師が原爆を作って政府を脅迫。その最初の要求は「プロ野球のナイター中継を打ち切らずに最後まで放送しろ」。大胆なストーリーには「ハリウッド的アイデア」が感じられます。

 一方で母親が原爆投下2日後の広島市に入り、胎内被爆している長谷川監督は、後にトークショーで「オレはおふくろの胎内で被爆しているのだから被害者そのものだと思うよ。ただその前に原爆なんてものを作ったり、落としたりする人類の一員であるわけで、そのことは避けて通れない」と、この作品に向き合う姿勢を明かしています。

 原子力発電所からプルトニウムを盗みだしてから原爆製造までの細密な描写に加え、劇中には国会議事堂や皇居前のアクションシーンもありました。そのきわどい内容は、今なら「バービー」騒動のような批判の嵐にさらされたかもしれません。ネットもSNSもなかった当時でも、資金集め、ゲリラ的撮影、そして公開決定までの間には綱渡りのような局面が何度もありました。

 ビッグスターの顔合わせが大きな原動力になったことも確かです。31歳で人気絶頂だった沢田研二が長谷川監督らの熱意に賛同して主演。脂ののりきった46歳の菅原文太(14年、81歳没)とスケジュール調整がついたのも当時としては奇跡のようなことでした。

 コンプライアンスの現代ではあり得ないゲリラ手法には運も味方しました。主人公が妊婦に扮装(ふんそう)して国会議事堂に潜入するシーンは逮捕覚悟の隠し撮りです。

「太陽を盗んだ男」の沢田研二(手前)と菅原文太(79年、東京・北の丸公園の科学技術館屋上で)

 

 沢田は後に「守衛さんは1人で『あれっ』て顔をしていたのでそのまま歩きました。撮り終わった瞬間にスタッフたちが僕を連れ出して逃げ帰ったんです」と振り返っています。

 製作費3億7000万円の半分近くが未調達のままの見切り発車でもありました。プロデューサーの山本又一朗氏(75)に改めて話を聞きました。

 「ゴジ(長谷川監督の愛称)の熱意が分かるから脚本を切るわけにはいかない。例えば皇居前の撮影には4省庁の許可が必要だったけど、どこもOKを出さない。それでも『やりますよ』と。そうしたら当時の皇宮警察のトップがささやくように『いつですか?』って。その日に連絡したら、車止めの一部がさりげなく取り払われていた。もちろんその後ろには何重ものガードがあるんですけどね。お金に関しては、確実にヒットが見込める映画を並行して作ることで乗り切ったんですね。それがいしいひさいちさんのコミック『がんばれ!!タブチくん!!』のアニメ化でした。想定以上の大ヒットとなり、続編も2本続きました。あれがなかったら、僕は億を超える負債を背負って、2度と立ち上がれなかったかもしれない」

 文字通り綱渡りの裏側がうかがえます。

 「太陽を盗んだ男」は「1970年代日本映画ベスト・テン」(18年=キネマ旬報社)で第1位となり、「オールタイム・ベスト映画遺産200」(09年=同)でも歴代7位に選出されています。

 がむしゃらとも言えるスタッフ、キャストの熱量と奇跡が重なって完成に至ったこの作品は高いエンタメ性の一方で、原子力発電所の危険性も示唆し、核の脅威を他にない視点で印象づけることになりました。

 「バービー」「オッペンハイマー」騒動が、一種ナショナリズム的批判で盛り上がってしまったことは、世界に反核の思いを伝える上で決していいことだったとは思いません。日米間にあるような視点の違いを克服して、原爆の恐ろしさを広げるためのヒントが、44年前のこの作品にあるような気がしてなりません。

 ◆相原斎(あいはら・ひとし) 

 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒澤明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。「太陽を盗んだ男」を製作した山本又一朗氏は今では、小栗旬、綾野剛、田中圭ら多くの人気俳優を擁する芸能事務所トライストーンの会長。80年代には何度も取材する機会があり、製作不可能と思われる作品にこそ生きがいを感じる異色のプロデューサーという印象がある。そんな熱量が多くの実力派俳優を引き寄せたのかもしれない。

 元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「ニュースの教科書」】  2023年08月26日  08:03:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

 

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【原爆裁判】:アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子

2024-12-19 23:58:20 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【原爆裁判】:アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【原爆裁判】:アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子

 「広島、長崎への原爆投下は国際法違反である」
 六十年前、戦勝国アメリカに対して驚天動地の判決を下した裁判官がいた!



 「三淵嘉子をモチーフにしたNHK朝の連続テレビドラマ『虎に翼』が話題となっている。ドラマの五月の世帯視聴率が一七%を超え、その後も最高記録を更新するなど、好評を博している。

 では主人公のモデル、三淵嘉子とは一体、どのような人物だったのだろうか。

 三淵は一九三八年に司法試験に合格。一九四〇年六月、日本で最初の女性弁護士となり、『家庭に光を、少年に愛を』と訴え、家庭裁判所の発展に生涯を捧げた。実は、数ある『虎に翼』本を調べてみると、すっぽり抜け落ちているのが、三淵が裁判官として『アメリカの原爆投下は国際法違反である』とする判決を下した経緯である。そして唯一、この点を深掘りしたのが本書なのである。

 二一世紀、AI時代が開かれようとしている今、世界は二〇世紀の『戦争の時代』に逆戻りしつつある。ウクライナ戦争、イスラエル対ハマス戦争、台湾有事、北朝鮮の核開発などにより、第三次世界大戦前夜のような危機的な雰囲気になってきた。本書は、前半で『原爆開発から広島・長崎への原爆投下の歴史』と、これまであまり知られてこなかった、三淵嘉子が携わった原爆裁判をテーマに書き進められ、さらに『原爆投下は国際的な戦争犯罪』とする判決文の全文も掲載している。連日ニュースやSNS、YouTube等でリアルに報道されているロシアによるウクライナへのジェノサイドの実態、ガザ地区で起きている民族戦争の惨状、本書はそれらの政治・軍事・歴史的な背景を知るための座右の書にもなる、衝撃的な一冊である」――前坂俊之静岡県立大学名誉教授

 元稿:毎日ワンズ 主要出版物 【原爆裁判―アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子】  2024年06月05日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ヒロシマの空白】:核禁条約制定の源流 「原爆裁判」資料現存 今もなお世界への警鐘

2024-12-19 23:58:10 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【ヒロシマの空白】:核禁条約制定の源流 「原爆裁判」資料現存 今もなお世界への警鐘

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ヒロシマの空白】:核禁条約制定の源流 「原爆裁判」資料現存 今もなお世界への警鐘

 米国の原爆投下は、国際法違反―。東京地裁が裁判所として世界で初めてそう判断した「原爆裁判」(1963年判決)は、大阪の弁護士の故岡本尚一さんが、人類の破滅につながる核兵器の使用に歯止めをかけるために提唱した。判決は核兵器禁止条約の源流の一つとなり、今もなお核使用が危ぶまれる世界への警鐘の意味を持っている。(編集委員・水川恭輔)

 
 「原爆の使用が禁止せらるべきである天地の公理を世界の人類に印象づけるでありましよう」。原爆裁判を起こすことに賛同を得ようと、岡本さんが作った冊子「原爆民訴或問(みんそわくもん)」は、裁判の意義をこう訴えている。


 原爆裁判では原爆投下を国際法違反と認定させ、原水爆禁止のてことする狙いがあった。広島市などの被害者5人が原告となり、55年に東京地裁と大阪地裁(後に東京へ併合)に提訴した。

 岡本さんが訴訟への賛同を募った冊子「原爆民訴或問」。「(被害者が)今も悲惨な状態のままにおかれている」などと訴えている(撮影・高橋洋史)

 原告側の中心だった岡本さんは提訴の3年後に病死したが、三原市出身の故松井康浩弁護士が継承。被告の国は、原爆使用を禁じる国際法がなかったなどと合法の立場から争った。東京地裁は63年12月の判決で賠償請求を退ける一方、「広島長崎両市への原爆投下は国際法違反」と断じた。

 世界初の司法判断は国際的にも知られ、特に国際法違反と判断した枠組みが注目された。多くの人命を無差別に奪う猛烈な爆風と熱線と、被爆者に苦しみを与え続ける放射線という原爆の特徴を、原爆投下当時の国際法が禁じる戦闘行為に照らして導いていた。岡本さんが書いた訴状の主張におおむね沿っていた。

 その枠組みは、国連の主要な司法機関として核使用の違法性を審理した国際司法裁判所(ICJ)が96年に初めて示した勧告的意見でも大枠で踏襲され、核兵器の使用と威嚇を「一般的に国際法違反」と判断した。この意見は、保有や開発などを含め核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約が2017年に国連で制定される機運を高めた。

 松井芳郎・名古屋大名誉教授(国際法)は「原爆裁判の判決は、核兵器の使用を国際法上、評価する際によるべき枠組みを示した。歴史的意義は大きい」と話す。

「原爆裁判」の判決を書いた裁判官の一人の三淵さん。女性法曹の先駆者でNHK「虎に翼」の主人公のモデルになった
 
 ◆判決書いた裁判官の一人故三淵さん 女性法曹の先駆者、「虎に翼」モデル
 
 原爆裁判の判決は当時の東京地裁裁判長の故古関敏正さん、裁判官の故三淵嘉子さんと高桑昭さん(87)=東京=の3人が書いた。1984年に69歳で死去した三淵さんはNHKの連続テレビ小説「虎に翼」で俳優の伊藤沙莉さんが演じる主人公猪爪寅子のモデル。女性法曹の先駆者だった。

 著書などによれば、三淵さんは明治大卒業後、38年に当時の司法試験に合格し40年に東京で日本初の女性弁護士に。戦時中は幼子を抱えて疎開生活を送り、応召した夫は戦病死した。終戦の2年後、「裁判官採用願」を司法省に提出。52年に女性初の判事となり、4年後に配属された東京地裁で原爆裁判を担当した。

 「おうようなやさしい人。私とは親子ほど年齢差がありましたが、古関さんとともに私を合議体の一員として遇してくれた」。当時20代だった高桑さんは懐かしむ。3人で合議をし、判決の方向性を決めたという。

 判決は「国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだ」と日本が戦争を始めた責任にも言及。国の原爆被害者への救済策は不十分とし、「政治の貧困を嘆かずにはおられない」と指摘した。

 三淵さんは、戦後設けられた家庭裁判所が孤児をはじめ戦争被害者の再出発を支援する役割を担うことに共鳴。新潟家裁所長なども務めた。原爆裁判の判決からも戦争で傷ついた人への強い思いをうかがい知れる。(水川恭輔)
(2024年4月21日朝刊掲載)

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【ヒロシマ平和メディアセンター】  2024年04月21日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【天風録】:三淵嘉子さん

2024-12-19 23:58:00 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍・広島、長崎原爆投下・核兵器禁止条約

【天風録】:三淵嘉子さん

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録】:三淵嘉子さん

  日本帝國男子ニ限ル。司法試験の会場に墨で書いて張り出されていた。時は1938年、当時の司法修習生採用の案内である。2年前に弁護士の門戸は女性に開かれたものの、裁判官と検察官にはなれなかった

 ▲「(この文言が)頭にこびりついて忘れられなかった」。この年、司法試験に合格して女性初の弁護士となった三淵嘉子(みぶち・よしこ)さんは語っていた。男女差別が色濃かった法曹界に道を切り開く

 ▲戦後志願し、やはり日本初の女性裁判官になった。家庭裁判所の創設にも携わり、女性や子どもの権利擁護に尽くした。4月に始まるNHK連続テレビ小説「虎に翼」は彼女が主人公のモデル。その人生がどう描かれるのか楽しみだ

 ▲広島とは意外な縁がある。被爆18年にして世界で初めて米国の原爆投下を国際法違反と断じた原爆裁判判決。それを書いた東京地裁判事の一人だった。自身は戦争で夫と弟を亡くした。戦争と核使用を繰り返してならぬとの思いは人一倍だったはず

 ▲きょうは国際女性デー。彼女には「女性であるという自覚より人間であるという自覚の下に生きてきた」の言葉もある。私たちにこびりついた、性別にまつわる思い込みに気づく日にしたい。

 元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】  2024年03月08日  07:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【日米安保】:知らなきゃよかった…日本の空は「実はアメリカのもの」だった

2024-12-19 23:54:10 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【日米安保】:知らなきゃよかった…日本の空は「実はアメリカのもの」だった ■エリート官僚も見て見ぬふりの真実

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日米安保】:知らなきゃよかった…日本の空は「実はアメリカのもの」だった ■エリート官僚も見て見ぬふりの真実 

 みなさんは、東京都の西部――たとえば世田谷区や中野区、杉並区、練馬区、武蔵野市などの上空が、「日本のものではない」ということをご存じですか?  「なにをバカなことを……」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。 しかし、これらは複数の公文書によって裏付けられた、疑いようのない事実なのです。

 北朝鮮ミサイルの脅威が迫るいまこそ、考えておきたい「日本の空」の真実とは?『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』の著者・矢部宏治氏による論考。

 ◆とんでもない歪みの正体

 おかしい。不思議だ。どう考えても普通の国ではない。みなさんは、ご自分が暮らす「戦後日本」という国について、そう思ったことはないでしょうか。

 おそらくどんな人でも、一度はそう思ったことがあるはずです。アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国であり、治安のよさや文化水準の高さなど、誇るべき点もたしかに多い私たちの国、日本。しかしその根っこには、どう隠そうとしても隠しきれない、とんでもない歪みが存在しています。

 たとえば私が本を書くたびに触れている「横田空域」の問題です。下の図1のように、じつは日本の首都圏の上空は米軍に支配されていて、日本の航空機は米軍の許可がないとそこを飛ぶことができません。いちいち許可をとるわけにはいかないので、JALやANAの定期便はこの巨大な山脈のような空域を避けて、非常に不自然なルートを飛ぶことを強いられているのです。

        図1 首都圏の上空に広がる「横田空域」

 図を見るとわかるように、とくに空域の南側は羽田空港や成田空港に着陸する航空機が密集し、非常に危険な状態になっています。また緊急時、たとえば前方に落雷や雹の危険がある積乱雲があって、そこを避けて飛びたいときでも、管制官から、「横田空域には入らず、そのまま飛べ」と指示されてしまう。

 6年前に、はじめてこの問題を本で紹介したときは、信じてくれない人も多かったのですが、その後、新聞やテレビでも取り上げられるようになり、「横田空域」について知る人の数もかなり増えてきました。それでもくどいようですが、私は今回もまた、この問題から話を始めることにします。

 なぜならそれは、数十万人程度の人たちが知っていればそれでいい、という問題ではない。少なくとも数千万単位の日本人が、常識として知っていなければならないことだと思うからです。

 ◆エリート官僚もよくわかっていない「横田空域」

 もちろんこの「横田空域」のような奇怪なものが存在するのは、世界を見まわしてみても日本だけです。では、どうして日本だけがそんなことになっているのでしょう。

 私が7年前にこの事実を知ったときに驚いたのは、日本のエリート官僚と呼ばれる人たちがこの問題について、ほとんど何も知識を持っていないということでした。

 まず、多くの官僚たちが「横田空域」の存在そのものを知らない。ごくまれに知っている人がいても、なぜそんなものが首都圏上空に存在するかについては、もちろんまったくわかっていない。これほど巨大な存在について、国家の中枢にいる人たちが何も知らないのです。日本を普通の独立国と呼ぶことは、とてもできないでしょう。

 「いったい、いつからこんなものがあるのか」「いったい、なぜ、こんなものがあるのか」

 その答えを本当の意味で知るためには、今回上梓した『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』を最後まで読んでいただく必要があります。じつは私自身、上のふたつの疑問について、歴史的背景も含めて完全に理解できたのは、わずか1年前のことなのです。

 ◆世田谷区、中野区、杉並区の上空も「横田空域」

 まず、たしかな事実からご紹介しましょう。横田空域は、東京都の西部(福生市ほか)にある米軍・横田基地が管理する空域です。

 もう一度、図1を見てください。大きいですね。いちばん高いところで7000メートル、まさにヒマラヤ山脈のような巨大な米軍専用空域が、日本の空を東西まっぷたつに分断しているのです。

 ここで「米軍基地は沖縄だけの問題でしょう?」と思っている首都圏のみなさんに、少し当事者意識をもっていただくため、横田空域の詳しい境界線を載せておきます(図2)。

         図2 東京都心部(23 区内)の「横田空域」の境界線

 東京の場合、横田空域の境界は駅でいうと、上板橋駅、江古田駅、沼袋駅、中野駅、代田橋駅、等々力駅のほぼ上空を南北に走っています。高級住宅地といわれる世田谷区、杉並区、練馬区、武蔵野市などは、ほぼ全域がこの横田空域内にあるのです。

 この境界線の内側上空でなら、米軍はどんな軍事演習をすることも可能ですし、日本政府からその許可を得る必要もありません。2020年(米会計年度)から横田基地に配備されることが決まっているオスプレイは、すでにこの空域内で頻繁に低空飛行訓練を行っているのです(富士演習場~厚木基地ルートなど/オスプレイの危険性については『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』第2章で詳述しています)。

 むやみに驚かすつもりはありませんが、もしこの空域内でオスプレイが墜落して死者が出ても、事故の原因が日本側に公表されることはありませんし、正当な補償がなされることもありません。

 そのことは、いまから40年前(1977年9月27日)に同じ横田空域内で起きた、横浜市緑区(現・青葉区)での米軍ファントム機・墜落事件の例を見れば、明らかです。

 このときは「死者2名、重軽傷者6名、家屋全焼1棟、損壊3棟」という大事故だったにもかかわらず、パラシュートで脱出した米兵2名は、現場へ急行した自衛隊機によって厚木基地に運ばれ、その後、いつのまにかアメリカへ帰国。裁判で事故の調査報告書の公表を求めた被害者たちには、「日付も作成者の名前もない報告書の要旨」が示されただけでした。

 ◆いまも中国・四国地方を覆う岩国空域

 こうした米軍が支配する空域の例は、日本国内にあとふたつあります。中国・四国地方にある「岩国空域」と、2010年まで沖縄にあった「嘉手納空域」です。

                   図3 「岩国空域」

 上の図が、これまであまり取り上げられることのなかった「岩国空域」です。「横田空域」と同じくこの「岩国空域」もまた、山口県、愛媛県、広島県、島根県の4県にまたがり、日本海上空から四国上空までを覆う、巨大な米軍管理空域です。

 この空域内の松山空港に向かう民間機は、米軍・岩国基地の管制官の指示どおり飛ばなければなりませんし、空域のすぐ西側にある大分空港へ向かう民間機も、高度制限など大きな制約を受けています。

 岩国空域に関して印象に残っているのは、2016年にオバマ大統領(当時)が広島を訪問したときのワンシーンです。アメリカ大統領による初めての「歴史的な」広島訪問に際して、オバマ大統領は中部国際空港から大統領専用機で米軍・岩国基地に移動したあと、この岩国空域を通って、海兵隊の軍用ヘリで原爆ドームへ向かったのです。

 車で行けばわずか40キロ、たった1時間で行ける距離をわざわざ軍用機で、しかも4機のオスプレイに先導されるかたちで移動した。さらに同行する大統領付きの武官は「フットボール」と呼ばれる核兵器の「発射キット」を携行していました。

 アメリカ大統領とは、すなわち核兵器を世界戦略の中心に据えた世界最強の米軍の最高司令官であり、彼は日本の上空を事実上自由に、自国の軍用機を引き連れて移動することができる──皮肉にも、そうした歪んだ現実世界の姿をまざまざと見せつけた、ノーベル平和賞受賞大統領の広島訪問となりました。

 ◆見せかけにすぎない「独立」と「安保改定」

 「日本の空」がすべて戦後70年以上経ったいまでも、完全に米軍に支配されているということは、じつは日本の法律の条文に、はっきり書かれている「事実」です。

 下は1952年、占領終結と同時に、新たに制定された日本の国内法(航空法特例法)の条文です。そこにはまさに、身もフタもない真実が書かれているのです。

 航空法特例法 第3項
 「前項の航空機〔=米軍機と国連軍機〕(略)については、航空法第6章の規定は(略)適用しない」

 ここで重要なのは、右の条文で「適用しない」とされている「航空法第6章」とは、航空機の安全な運行について定めた法律だということです。つまり、「離着陸する場所」「飛行禁止区域」「最低高度」「制限速度」「飛行計画の通報と承認」など、航空機が安全に運行するための43ヵ条(第57~99条)もの条文が、すべて米軍機には適用されないことになっているのです。

 要するに、もともと米軍機は日本の上空において、どれだけ危険な飛行をしてもいい、それは合法だということなのです。この条文のもとで米軍は、1952年に占領が終わったあとも変わらず日本の上空で、なんの制約も受けずに飛ぶ権利を持ち続けました。

 そして、それから60年以上たった現在に至るまで、この条文はひと文字も変更されていません。そのことだけを見ても1952年の「独立」や、1960年の「安保改定」が、いかに見せかけだけのものだったかがわかるのです。

知ってはいけない

***

本稿は、『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』の第1章を再構成したものです。同書の特設サイトでは、第1章のほか、「はじめに」「あとがき」「追記」、各章のまとめとしてのわかりやすい四コマまんが(計9本/商業目的以外であればマンガの使用・拡散は自由です)を無料で公開していますので、ぜひご覧ください。

 ◆矢部 宏治

 1960年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。株式会社博報堂マーケティング部を経て、1987年より書籍情報社代表。著書に累計17万部を突破した『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(以上、集英社インターナショナル)、『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』(書籍情報社)など、共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。企画編集に「〈知の再発見〉双書」シリーズ、J.M.ロバーツ著『図説 世界の歴史』(全10巻)、「〈戦後再発見〉双書」シリーズ(以上、創元社)がある。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・日米安保・在日米軍】  2017年09月05日  09:15:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【日米・「ウラの掟」】:③日本人が「知ってはいけない」、日本とアメリカの「本当の関係」…日本の戦後史最大の「謎と闇」

2024-12-19 23:53:30 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【日米・「ウラの掟」】:③日本人が「知ってはいけない」、日本とアメリカの「本当の関係」…日本の戦後史最大の「謎と闇」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日米・「ウラの掟」】:③日本人が「知ってはいけない」、日本とアメリカの「本当の関係」…日本の戦後史最大の「謎と闇」

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、社会全体の構造を歪めている。

 ■【写真】なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」  

 そうした「ウラの掟」のほとんどは、アメリカ政府そのものと日本とのあいだではなく、じつは米軍と日本のエリート官僚とのあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としている。

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  photo by gettyimages(KODANSHA)

 『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』では、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」を参照しながら、日米合同委員会の実態に迫り、日本の権力構造を徹底解明する。

 *本記事は矢部 宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)から抜粋・再編集したものです。

 ◆日米両国の「本当の関係」とは?

 ◆マッカーサーの迷い

 ◆「6・23メモ」の謎

 ■矢部 宏治 

 【関連記事】

 

  元稿:講談社 現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・日本政府と米国との密約「ウラの掟」・日米地位協定・担当:矢部 宏治】  2024年05月27日  06:34:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【日米・「ウラの掟」】:②首都・東京が、じつは米軍支配の激しい「世界でも例のない場所」だった…日本はなぜこんなに歪んでしまったのか?

2024-12-19 23:53:20 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【日米・「ウラの掟」】:②首都・東京が、じつは米軍支配の激しい「世界でも例のない場所」だった…日本はなぜこんなに歪んでしまったのか?

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日米・「ウラの掟」】:②首都・東京が、じつは米軍支配の激しい「世界でも例のない場所」だった…日本はなぜこんなに歪んでしまったのか?

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、社会全体の構造を歪めている。

 ■ 【写真】なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」  

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  photo by gettyimages(KODANSHA)

 ◆はじめに

 ◆事実か、それとも「特大の妄想」か

 ■矢部 宏治

 【関連記事】

  元稿:講談社 現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・日本政府と米国との密約「ウラの掟」・日米地位協定・担当:矢部 宏治】  2024年05月15日  06:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【日米・「ウラの掟」】:①「戦後日本」のヤバすぎる現実…「東京上空」に存在する「奇妙な空域」の「衝撃的な正体」

2024-12-19 23:53:10 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【日米・「ウラの掟」】:①「戦後日本」のヤバすぎる現実…「東京上空」に存在する「奇妙な空域」の「衝撃的な正体」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日米・「ウラの掟」】:①「戦後日本」のヤバすぎる現実…「東京上空」に存在する「奇妙な空域」の「衝撃的な正体」

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、社会全体の構造を歪めている。

 そうした「ウラの掟」のほとんどは、アメリカ政府そのものと日本とのあいだではなく、じつは米軍と日本のエリート官僚とのあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としている。

『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』では、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」を参照しながら、日米合同委員会の実態に迫り、日本の権力構造を徹底解明する。

*本記事は矢部 宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)から抜粋・再編集したものです。

 

 おかしい。

 不思議だ。

 どう考えても普通の国ではない。

 みなさんは、ご自分が暮らす「戦後日本」という国について、そう思ったことはないでしょうか。

 おそらくどんな人でも、一度はそう思ったことがあるはずです。アメリカ、中国に次ぐ世界第三位の経済大国であり、治安のよさや文化水準の高さなど、誇るべき点もたしかに多い私たちの国、日本。しかしその根っこには、どう隠そうとしても隠しきれない、とんでもない歪みが存在しています。

 たとえば私が本を書くたびに触れている「横田空域」の問題です。

 じつは日本の首都圏の上空は米軍に支配されていて、日本の航空機は米軍の許可がないとそこを飛ぶことができません。いちいち許可をとるわけにはいかないので、JALやANAの定期便はこの巨大な山脈のような空域を避けて、非常に不自然なルートを飛ぶことを強いられているのです。

 とくに空域の南側は羽田空港や成田空港に着陸する航空機が密集し、非常に危険な状態になっています。

 また緊急時、たとえば前方に落雷や雹の危険がある積乱雲があって、そこを避けて飛びたいときでも、管制官から、

 「横田空域には入らず、そのまま飛べ」

 と指示されてしまう。

 6年前に、はじめてこの問題を本で紹介したときは、信じてくれない人も多かったのですが、その後、新聞やテレビでも取り上げられるようになり、「横田空域」について知る人の数もかなり増えてきました。

 それでもくどいようですが、私は今回もまた、この問題から話を始めることにします。

 なぜならそれは、数十万人程度の人たちが知っていればそれでいい、という問題ではない。少なくとも数千万単位の日本人が、常識として知っていなければならないことだと思うからです。

  ◆エリート官僚もよくわかっていない「横田空域」

 もちろんこの「横田空域」のような奇怪なものが存在するのは、世界を見まわしてみても日本だけです。

 では、どうして日本だけがそんなことになっているのでしょう。

 私が7年前にこの事実を知ったときに驚いたのは、日本のエリート官僚と呼ばれる人たちがこの問題について、ほとんど何も知識を持っていないということでした。

 まず、多くの官僚たちが「横田空域」の存在そのものを知らない。ごくまれに知っている人がいても、なぜそんなものが首都圏上空に存在するかについては、もちろんまったくわかっていない。

 これほど巨大な存在について、国家の中枢にいる人たちが何も知らないのです。

 日本を普通の独立国と呼ぶことは、とてもできないでしょう。

 「いったい、いつからこんなものがあるのか」

 「いったい、なぜ、こんなものがあるのか」

 その答えを本当の意味で知るためには、この本を最後まで読んでいただく必要があります。じつは私自身、右のふたつの疑問について、歴史的背景も含めて完全に理解できたのは、わずか1年前のことなのです。

 ◆世田谷区、中野区、杉並区の上空も「横田空域」

 まず、たしかな事実からご紹介しましょう。

 横田空域は、東京都の西部(福生市ほか)にある米軍・横田基地が管理する空域です。

 いちばん高いところで7000メートル、まさにヒマラヤ山脈のような巨大な米軍専用空域が、日本の空を東西まっぷたつに分断しているのです。

 ここで「米軍基地は沖縄だけの問題でしょう?」と思っている首都圏のみなさんに、少し当事者意識をもっていただくため、横田空域の詳しい境界線を載せておきます(書籍版に掲載)。

 東京の場合、横田空域の境界は駅でいうと、上板橋駅、江古田駅、沼袋駅、中野駅、代田橋駅、等々力駅のほぼ上空を南北に走っています。高級住宅地といわれる世田谷区、杉並区、練馬区、武蔵野市などは、ほぼ全域がこの横田空域内にあるのです。

 この境界線の内側上空でなら、米軍はどんな軍事演習をすることも可能ですし、日本政府からその許可を得る必要もありません。2020年(米会計年度)から横田基地に配備されることが決まっているオスプレイは、すでにこの空域内で頻繁に低空飛行訓練を行っているのです(富士演習場~厚木基地ルートなど/オスプレイの危険性については『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』第2章で詳述します)。

 むやみに驚かすつもりはありませんが、もしこの空域内でオスプレイが墜落して死者が出ても、事故の原因が日本側に公表されることはありませんし、正当な補償がなされることもありません。

 そのことは、いまから40年前(1977年9月27日)に同じ横田空域内で起きた、横浜市緑区(現・青葉区)での米軍ファントム機・墜落事件の例を見れば、明らかです。

 このときは「死者二名、重軽傷者六名、家屋全焼一棟、損壊三棟」という大事故だったにもかかわらず、パラシュートで脱出した米兵2名は、現場へ急行した自衛隊機によって厚木基地に運ばれ、その後、いつのまにかアメリカへ帰国。裁判で事故の調査報告書の公表を求めた被害者たちには、「日付も作成者の名前もない報告書の要旨」が示されただけでした。

 こうした米軍が支配する空域の例は、日本国内にあとふたつあります。中国・四国地方にある「岩国空域」と、2010年まで沖縄にあった「嘉手納空域」です。

 ◆巨大な空域に国内法の根拠はない

 「横田空域」と「岩国空域」という、米軍が管理するこのふたつの巨大な空域に関して、私たち日本人が、もっとも注目すべきポイントがあります。

 それは空域の大きさではありません。

 私たちが本当に注目しなければならないのは、

 「この横田と岩国にある巨大な米軍の管理空域について、国内法の根拠はなにもない」

という驚くべき事実なのです(「日米地位協定の考え方 増補版」)。

 「自国の首都圏上空を含む巨大な空域が、外国軍に支配(管理)されていて、じつはそのことについての国内法の根拠が何もない」

 いったいなぜ、そんな状況が放置されているのでしょうか。

 さらに連載記事<なぜ日本はこれほど歪んだのか…ヤバすぎる「9つのオキテ」が招いた「日本の悲劇」>では、日本を縛る「日米の密約」の正体について、詳しく解説します。

 本記事の抜粋元『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)では、私たちの未来を脅かす「9つの掟」の正体、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」など、日本と米国の知られざる関係について解説しています。ぜひ、お手に取ってみてください。
 
 ■矢部 宏治 KOJI YABE
 
 1960年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。株式会社博報堂マーケティング部を経て、1987年より書籍情報社代表。著書に累計17万部を突破した『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(以上、集英社インターナショナル)、『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』(書籍情報社)など、共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。企画編集に「〈知の再発見〉双書」シリーズ、J.M.ロバーツ著『図説 世界の歴史』(全10巻)、「〈戦後再発見〉双書」シリーズ(以上、創元社)がある。

 元稿:講談社 現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・日本政府と米国との密約「ウラの掟」・日米地位協定・担当:矢部 宏治】  2023年11月09日  06:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【考察③】:なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」

2024-12-19 23:52:30 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【考察③】:なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【考察③】:なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、社会全体の構造を歪めている。そうした「ウラの掟」のほとんどは、アメリカ政府そのものと日本とのあいだではなく、じつは米軍と日本のエリート官僚とのあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としている。最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」を参照しながら、日米合同委員会の実態に迫り、日本の権力構造を徹底解明する。

*本記事は矢部 宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)から抜粋・再編集したものです。 

PHOTO by iStock

 ◆はじめに

 それほどしょっちゅうではないのですが、私がテレビやラジオに出演して話をすると、すぐにネット上で、

 「また陰謀論か」
 「妄想もいいかげんにしろ」
 「どうしてそんな偏った物の見方しかできないんだ」

 などと批判されることが、よくあります。

 あまりいい気持ちはしませんが、だからといって腹は立ちません。

 自分が調べて本に書いている内容について、いちばん「本当か?」と驚いているのは、じつは私自身だからです。

 「これが自分の妄想なら、どんなに幸せだろう」

 いつもそう思っているのです。

 ◆事実か、それとも「特大の妄想」か

 けれども本書をお読みになればわかるとおり、残念ながらそれらはすべて、複数の公文書によって裏付けられた、疑いようのない事実ばかりなのです。

 ひとつ、簡単な例をあげましょう。

 以前、田原総一朗さんのラジオ番組(文化放送「田原総一朗 オフレコ!」)に出演し、米軍基地問題について話したとき、こんなことがありました。ラジオを聞いていたリスナーのひとりから、放送終了後すぐ、大手ネット書店の「読者投稿欄」に次のような書き込みがされたのです。

 ★☆☆☆☆〔星1つ〕 UFO博士か?

 なんだか、UFOを見たとか言って騒いでいる妄想ですね。先ほど、ご本人が出演したラジオ番組を聞きましたが(略)なぜ、米軍に〔日本から〕出て行って欲しいというのかも全く理解できないし、〔米軍〕基地を勝手にどこでも作れるという特大の妄想が正しいのなら、(略)東京のど真ん中に米軍基地がないのが不思議〔なのでは〕?

 もし私の本を読まずにラジオだけを聞いていたら、こう思われるのは、まったく当然の話だと思います。私自身、たった七年前にはこのリスナーとほとんど同じようなことを考えていたので、こうして文句をいいたくなる人の気持ちはとてもよくわかるのです。

 けれども、私がこれまでに書いた本を一冊でも読んだことのある人なら、東京のまさしく「ど真ん中」である六本木と南麻布に、それぞれ非常に重要な米軍基地(「六本木ヘリポート」と「ニューサンノー米軍センター」)があることをみなさんよくご存じだと思います。

 そしてこのあと詳しく見ていくように、日本の首都・東京が、じつは沖縄と並ぶほど米軍支配の激しい、世界でも例のない場所だということも。

 さらにもうひとつ、アメリカが米軍基地を日本じゅう「どこにでも作れる」というのも、残念ながら私の脳が生みだした「特大の妄想」などではありません。

 なぜなら、外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアル(「日米地位協定の考え方 増補版」1983年12月)のなかに、

 ○ アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる。
 ○ 日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外、アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない。

 という見解が、明確に書かれているからです。

 つまり、日米安全保障条約を結んでいる以上、日本政府の独自の政策判断で、アメリカ側の基地提供要求に「NO」ということはできない。

 そう日本の外務省がはっきりと認めているのです。

 ◆北方領土問題が解決できない理由

 さらにこの話にはもっとひどい続きがあって、この極秘マニュアルによれば、そうした法的権利をアメリカが持っている以上、たとえば日本とロシア(当時ソ連)との外交交渉には、次のような大原則が存在するというのです。

 ○ だから北方領土の交渉をするときも、返還された島に米軍基地を置かないというような約束をしてはならない。*註1

 こんな条件をロシアが呑むはずないことは、小学生でもわかるでしょう。

 そしてこの極秘マニュアルにこうした具体的な記述があるということは、ほぼ間違いなく日米のあいだに、この問題について文書で合意した非公開議事録(事実上の密約)があることを意味しています。

 したがって、現在の日米間の軍事的関係が根本的に変化しない限り、ロシアとの領土問題が解決する可能性は、じつはゼロ。ロシアとの平和条約が結ばれる可能性もまた、ゼロなのです。

 たとえ日本の首相が何か大きな決断をし、担当部局が頑張って素晴らしい条約案をつくったとしても、最終的にはこの日米合意を根拠として、その案が外務省主流派の手で握り潰されてしまうことは確実です。

 2016年、安倍晋三首相による「北方領土返還交渉」は、大きな注目を集めました。なにしろ、長年の懸案である北方領土問題が、ついに解決に向けて大きく動き出すのではないかと報道されたのですから、人々が期待を抱いたのも当然でしょう。

 ところが、日本での首脳会談(同年12月15日・16日)が近づくにつれ、事前交渉は停滞し、結局なんの成果もあげられませんでした。

 その理由は、まさに先の大原則にあったのです。

 官邸のなかには一時、この北方領土と米軍基地の問題について、アメリカ側と改めて交渉する道を検討した人たちもいたようですが、やはり実現せず、結局11月上旬、モスクワを訪れた元外務次官の谷内正太郎国家安全保障局長から、

 「返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない」

 という基本方針が、ロシア側に伝えられることになったのです。

 その報告を聞いたプーチン大統領は、11月19日、ペルー・リマでの日ロ首脳会談の席上で、安倍首相に対し、

 「君の側近が『島に米軍基地が置かれる可能性はある』と言ったそうだが、それでは交渉は終わる」

 と述べたことがわかっています(「朝日新聞」2016年12月26日)。

 ほとんどの日本人は知らなかったわけですが、この時点ですでに、1ヵ月後の日本での領土返還交渉がゼロ回答に終わることは、完全に確定していたのです。

 もしもこのとき、安倍首相が従来の日米合意に逆らって、

 「いや、それは違う。私は今回の日ロ首脳会談で、返還された島には米軍基地を置かないと約束するつもりだ」

 などと返答していたら、彼は、2010年に普天間基地の沖縄県外移設を唱えて失脚した鳩山由紀夫首相(当時)と同じく、すぐに政権の座を追われることになったでしょう。

 ◆「戦後日本」に存在する「ウラの掟」

 私たちが暮らす「戦後日本」という国には、国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていないそうした「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めてしまっています。

 そして残念なことに、そういう掟のほとんどは、じつは日米両政府のあいだではなく、米軍と日本のエリート官僚のあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としているのです。

 私が本書を執筆したのは、そうした「ウラの掟」の全体像を、

 「高校生にもわかるように、また外国の人にもわかるように、短く簡単に書いてほしい」

 という依頼を出版社から受けたからでした。

 また、『知ってはいけない』というタイトルをつけたのは、おそらくほとんどの読者にとって、そうした事実を知らないほうが、あと10年ほどは心穏やかに暮らしていけるはずだと思ったからです。

 なので大変失礼ですが、もうかなりご高齢で、しかもご自分の人生と日本の現状にほぼ満足しているという方は、この本を読まないほうがいいかもしれません。

 けれども若い学生のみなさんや、現役世代の社会人の方々は、そうはいきません。みなさんが生きている間に、日本は必ず大きな社会変動を経験することになるからです。

 私がこれからこの本で明らかにするような9つのウラの掟(全9章)と、その歪みがもたらす日本の「法治国家崩壊状態」は、いま沖縄から本土へ、そして行政の末端から政権の中枢へと、猛烈な勢いで広がり始めています。

 今後、その被害にあう人の数が次第に増え、国民の間に大きな不満が蓄積された結果、「戦後日本」というこれまで長くつづいた国のかたちを、否応なく変えざるをえない日が必ずやってきます。 

 そのとき、自分と家族を守るため、また混乱のなか、それでも価値ある人生を生きるため、さらには無用な争いを避け、多くの人と協力して新しくフェアな社会をいちからつくっていくために、ぜひこの本を読んでみてください。

 そしてこれまで明らかにされてこなかった「日米間の隠された法的関係」についての、全体像に触れていただければと思います。

 ◆「リアル陰謀論」

 本というのは不思議なもので、書き手としては、自分が大切だと思ったことをいろいろと並べて書いているわけですが、読者の方の興味というのは、かなり特定の問題にピンポイントで集中することが多い。

 そうした読者からの反応を聞いてはじめて、

 「ああ、自分が書いた本の核心はここにあったのか」

 と気づかされることが多いのです。

 私がこれまでに書いた本でいうと、第一章でお話しした「横田空域」と、本章で扱う「日米合同委員会」の問題が、圧倒的にみなさんの関心をひくようです。

 しかし、よく考えてみるとそれも当然の話で、もしも私が数年前に誰かから、 

 「日本の超エリート官僚というのはね、実は月に二度ほど、都内にある米軍基地などで在日米軍のトップたちと秘密の会議をしているんだ。それで、そこで決まったことは国会に報告する義務も、外部に公表する義務もなく、事実上ノーチェックで実行することができる。つまりその秘密会議は、日本の国会よりも憲法よりも、上位の存在というわけさ」

 などといわれたら、確実に、

 「コイツはおかしいから、つきあうのはやめよう」

 と思ったはずです。

 「これが陰謀論者というやつか」

 とも思ったことでしょう。

 けれどもそういう「リアル陰謀論」とでもいうべき世界が本当に実在することが、いまでは広く認知されるようになりました。

 それが日米合同委員会です。

 ◆米軍の「リモコン装置」

 日米合同委員会というのは、その研究の第一人者であるジャーナリストの吉田敏浩氏の表現を借りれば、

 「米軍が「戦後日本」において、占領期の特権をそのまま持ち続けるためのリモコン装置」

 ということになります。

 占領時代、米軍の権力はまさにオールマイティ。日本の国内法など、何も関係なく行動することができました。どこでも基地にして、いつでも軍事演習をして、たとえ日本人を殺したりケガをさせても罪に問われない。

そうした圧倒的な特権を、日本が独立したあとも、「見かけ」だけを改善するかたちで以前と変わらず持ち続けたい──そうしたアメリカの軍部の要望を実現するために、「戦後日本」に残されたリモコン装置が日米合同委員会だというわけです。

 この組織のトップに位置する本会議には、日本側6人、アメリカ側7人が出席します。月にだいたい2回、隔週木曜日の午前11時から、日本側代表が議長のときは外務省の施設内で、アメリカ側代表が議長のときは米軍基地内の会議室で開かれています。

 おそらく横田基地からなのでしょう。木曜日の午前11時前に、軍用ヘリで六本木にある米軍基地(「六本木ヘリポート」)に降り立ち、そこから会議室がある南麻布の米軍施設(「ニューサンノー米軍センター」)に続々と到着する米軍関係者の姿を、2016年12月6日に放映された「報道ステーション」が捉えていました。

 ◆日米合同委員会に激怒していた駐日首席公使

 この日米合同委員会でもっともおかしなことは、本会議と30以上の分科会の、日本側メンバーがすべて各省のエリート官僚であるのに対し、アメリカ側メンバーは、たった一人をのぞいて全員が軍人だということです。

 アメリカ側で、たった一人だけ軍人でない人物というのは、アメリカ大使館の公使、つまり外交官なのですが、おもしろいことにその公使が、日米合同委員会という組織について、激しく批判している例が過去に何度もあるのです。

 有名なのは、沖縄返還交渉を担当したスナイダーという駐日首席公使ですが、彼は、米軍の軍人たちが日本の官僚と直接協議して指示を与えるという、日米合同委員会のありかたは、

 「きわめて異常なものです」

 と上司の駐日大使に報告しています。

 それは当たり前で、どんな国でも、相手国の政府と最初に話し合うのは大使や公使といった外交官に決まっている。そして、そこで決定した内容を軍人に伝える。それが「シヴィリアン・コントロール(文民統制)」と呼ばれる民主国家の原則です。

 ですから、スナイダーが次のように激怒しているのは当然なのです。

 「本来なら、ほかのすべての国のように、米軍に関する問題は、まず駐留国〔=日本〕の官僚と、アメリカ大使館の外交官によって処理されなければなりません」
「ところが日本における日米合同委員会がそうなっていないのは、ようするに日本では、アメリカ大使館がまだ存在しない占領中にできあがった、米軍と日本の官僚とのあいだの異常な直接的関係が、いまだに続いているということなのです」(「アメリカ外交文書(Foreign Relations of the United States)」(以下、FRUS)1972年4月6日)

 ◆日本という「半分主権国家」

 このように当のアメリカの外交官にさえ、「占領中にできあがった異常な関係」といわれてしまう、この米軍と日本のエリート官僚の協議機関、日米合同委員会とは、いったいなぜ生まれたのでしょう。

 詳しくは本書の後半でお話ししますが、歴史をさかのぼれば、もともと占領が終わる2年前、1950年初頭の段階で、アメリカの軍部は日本を独立させることに絶対反対の立場をとっていました。すでにソ連や中国とのあいだで冷戦が始まりつつあったからです。

しかし、それでもアメリカ政府がどうしても日本を独立させるというなら、それは、
「在日米軍の法的地位は変えない半分平和条約を結ぶ」(陸軍次官ヴォーヒーズ)

 あるいは、

 「政治と経済については、日本とのあいだに「正常化協定」を結ぶが、軍事面では占領体制をそのまま継続する」(軍部を説得するためのバターワース極東担当国務次官補の案)

 というかたちでなければならない、と考えていたのです(「アメリカ外交文書(FRUS)」1950年1月18日)。

 この上のふたつの米軍の基本方針を、もう一度じっくりと読んでみてください。

 私は7年前から、沖縄と本土でいくつもの米軍基地の取材をしてきましたが、調べれば調べるほど、いまの日本の現実をあらわす言葉として、これほど的確な表現はないと思います。

PHOTO by iStock
 
 つまり「戦後日本」という国は、

 「在日米軍の法的地位は変えず」
 「軍事面での占領体制がそのまま継続した」
 「半分主権国家」

 として国際社会に復帰したということです。

 その「本当の姿」を日本国民に隠しながら、しかもその体制を長く続けていくための政治的装置が、1952年に発足した日米合同委員会なのです。

 ですからそこで合意された内容は、国会の承認も必要としないし、公開する必要もない。ときには憲法の規定を超えることもある。その点について日米間の合意が存在することは、すでにアメリカ側の公文書(→72ページ「安保法体系の構造」の日米合同委員会の項を参照)によって明らかにされているのです。

 ◆「対米従属」の根幹

 こうして日米合同委員会の研究が進んだことで、「日本の対米従属」という戦後最大の問題についても、そのメカニズムが、かなり解明されることになりました。

 もちろん「軍事」の世界だけでなく、「政治」の世界にも「経済」の世界にも、アメリカ優位の状況は存在します。

 しかし「政治」と「経済」の世界における対米従属は、さきほどの軍部の方針を見てもわかるように、

 「あくまで法的関係は正常化されたうえでの上下関係」であって、
 「占領体制が法的に継続した軍事面での関係」

 とは、まったくレベルが違う話なのです。

 私たち日本人がこれから克服しなければならない最大の課題である「対米従属」の根幹には、軍事面での法的な従属関係がある。

 つまり、「アメリカへの従属」というよりも、それは「米軍への従属」であり、しかもその本質は精神的なものではなく、法的にガッチリと押さえこまれているものだということです。

 そこのところを、はっきりとおさえておく必要があるのです。

 私自身、いろいろ調べた末にこの日米合同委員会の存在にたどりついたとき、

 「ああ、これだったのか」

 と目からウロコが落ちるような気持ちがしました。それまで見えなかった日米関係の本質が、はっきり理解できるようになったからです。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース メディアと教養 【戦後の日米関係・担当:矢部 宏治】  2023年07月29日  06:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【考察②】:なぜ日本はこれほど歪んだのか…ヤバすぎる「9つのオキテ」が招いた「日本の悲劇」

2024-12-19 23:52:20 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【考察②】:なぜ日本はこれほど歪んだのか…ヤバすぎる「9つのオキテ」が招いた「日本の悲劇」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【考察②】:なぜ日本はこれほど歪んだのか…ヤバすぎる「9つのオキテ」が招いた「日本の悲劇」

 日本には、国民はもちろん、首相や官僚でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が存在し、社会全体の構造を歪めている。

 そうした「ウラの掟」のほとんどは、アメリカ政府そのものと日本とのあいだではなく、じつは米軍と日本のエリート官僚とのあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としている。

 『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』では、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」を参照しながら、日米合同委員会の実態に迫り、日本の権力構造を徹底解明する。

*本記事は矢部 宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)から抜粋・再編集したものです。

 ◆はじめに

 それほどしょっちゅうではないのですが、私がテレビやラジオに出演して話をすると、すぐにネット上で、

 「また陰謀論か」
 「妄想もいいかげんにしろ」
 「どうしてそんな偏った物の見方しかできないんだ」

 などと批判されることが、よくあります。

 あまりいい気持ちはしませんが、だからといって腹は立ちません。

 自分が調べて本に書いている内容について、いちばん「本当か?」と驚いているのは、じつは私自身だからです。

 「これが自分の妄想なら、どんなに幸せだろう」

 いつもそう思っているのです。

 ◆事実か、それとも「特大の妄想」か

 けれども本書をお読みになればわかるとおり、残念ながらそれらはすべて、複数の公文書によって裏付けられた、疑いようのない事実ばかりなのです。

 ひとつ、簡単な例をあげましょう。

 以前、田原総一朗さんのラジオ番組(文化放送「田原総一朗 オフレコ!」)に出演し、米軍基地問題について話したとき、こんなことがありました。ラジオを聞いていたリスナーのひとりから、放送終了後すぐ、大手ネット書店の「読者投稿欄」に次のような書き込みがされたのです。

 ★☆☆☆☆〔星1つ〕 UFO博士か?

 なんだか、UFOを見たとか言って騒いでいる妄想ですね。先ほど、ご本人が出演したラジオ番組を聞きましたが(略)なぜ、米軍に〔日本から〕出て行って欲しいというのかも全く理解できないし、〔米軍〕基地を勝手にどこでも作れるという特大の妄想が正しいのなら、(略)東京のど真ん中に米軍基地がないのが不思議〔なのでは〕?

 もし私の本を読まずにラジオだけを聞いていたら、こう思われるのは、まったく当然の話だと思います。私自身、たった7年前にはこのリスナーとほとんど同じようなことを考えていたので、こうして文句をいいたくなる人の気持ちはとてもよくわかるのです。

 けれども、私がこれまでに書いた本を一冊でも読んだことのある人なら、東京のまさしく「ど真ん中」である六本木と南麻布に、それぞれ非常に重要な米軍基地(「六本木ヘリポート」と「ニューサンノー米軍センター」)があることをみなさんよくご存じだと思います。

 そしてこのあと詳しく見ていくように、日本の首都・東京が、じつは沖縄と並ぶほど米軍支配の激しい、世界でも例のない場所だということも。

PHOTO by iStock

 さらにもうひとつ、アメリカが米軍基地を日本じゅう「どこにでも作れる」というのも、残念ながら私の脳が生みだした「特大の妄想」などではありません。

 なぜなら、外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアル(「日米地位協定の考え方 増補版」1983年12月)のなかに、

 ○ アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる。
 ○ 日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外、アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない。

 という見解が、明確に書かれているからです。

 つまり、日米安全保障条約を結んでいる以上、日本政府の独自の政策判断で、アメリカ側の基地提供要求に「NO」ということはできない。

 そう日本の外務省がはっきりと認めているのです。

 ◆北方領土問題が解決できない理由

 さらにこの話にはもっとひどい続きがあって、この極秘マニュアルによれば、そうした法的権利をアメリカが持っている以上、たとえば日本とロシア(当時ソ連)との外交交渉には、次のような大原則が存在するというのです。

 ○ だから北方領土の交渉をするときも、返還された島に米軍基地を置かないというような約束をしてはならない。*註1

 こんな条件をロシアが呑むはずないことは、小学生でもわかるでしょう。

 そしてこの極秘マニュアルにこうした具体的な記述があるということは、ほぼ間違いなく日米のあいだに、この問題について文書で合意した非公開議事録(事実上の密約)があることを意味しています。

 したがって、現在の日米間の軍事的関係が根本的に変化しない限り、ロシアとの領土問題が解決する可能性は、じつはゼロ。ロシアとの平和条約が結ばれる可能性もまた、ゼロなのです。

 たとえ日本の首相が何か大きな決断をし、担当部局が頑張って素晴らしい条約案をつくったとしても、最終的にはこの日米合意を根拠として、その案が外務省主流派の手で握り潰されてしまうことは確実です。

 2016年、安倍晋三首相による「北方領土返還交渉」は、大きな注目を集めました。なにしろ、長年の懸案である北方領土問題が、ついに解決に向けて大きく動き出すのではないかと報道されたのですから、人々が期待を抱いたのも当然でしょう。

 ところが、日本での首脳会談(同年12月15日・16日)が近づくにつれ、事前交渉は停滞し、結局なんの成果もあげられませんでした。

 その理由は、まさに先の大原則にあったのです。

 官邸のなかには一時、この北方領土と米軍基地の問題について、アメリカ側と改めて交渉する道を検討した人たちもいたようですが、やはり実現せず、結局11月上旬、モスクワを訪れた元外務次官の谷内正太郎国家安全保障局長から、

 「返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない」

 という基本方針が、ロシア側に伝えられることになったのです。

 その報告を聞いたプーチン大統領は、11月19日、ペルー・リマでの日ロ首脳会談の席上で、安倍首相に対し、

 「君の側近が『島に米軍基地が置かれる可能性はある』と言ったそうだが、それでは交渉は終わる」

 と述べたことがわかっています(「朝日新聞」2016年12月26日)。

 ほとんどの日本人は知らなかったわけですが、この時点ですでに、一ヵ月後の日本での領土返還交渉がゼロ回答に終わることは、完全に確定していたのです。

 もしもこのとき、安倍首相が従来の日米合意に逆らって、

 「いや、それは違う。私は今回の日ロ首脳会談で、返還された島には米軍基地を置かないと約束するつもりだ」

 などと返答していたら、彼は、2010年に普天間基地の沖縄県外移設を唱えて失脚した鳩山由紀夫首相(当時)と同じく、すぐに政権の座を追われることになったでしょう。

 ◆「戦後日本」に存在する「ウラの掟」

 私たちが暮らす「戦後日本」という国には、国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていないそうした「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めてしまっています。

 そして残念なことに、そういう掟のほとんどは、じつは日米両政府のあいだではなく、米軍と日本のエリート官僚のあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としているのです。

 私が本書を執筆したのは、そうした「ウラの掟」の全体像を、

 「高校生にもわかるように、また外国の人にもわかるように、短く簡単に書いてほしい」

 という依頼を出版社から受けたからでした。

 また、『知ってはいけない』というタイトルをつけたのは、おそらくほとんどの読者にとって、そうした事実を知らないほうが、あと10年ほどは心穏やかに暮らしていけるはずだと思ったからです。

 なので大変失礼ですが、もうかなりご高齢で、しかもご自分の人生と日本の現状にほぼ満足しているという方は、この本を読まないほうがいいかもしれません。

 けれども若い学生のみなさんや、現役世代の社会人の方々は、そうはいきません。みなさんが生きている間に、日本は必ず大きな社会変動を経験することになるからです。

 私がこれからこの本で明らかにするような9つのウラの掟(全9章)と、その歪みがもたらす日本の「法治国家崩壊状態」は、いま沖縄から本土へ、そして行政の末端から政権の中枢へと、猛烈な勢いで広がり始めています。

 今後、その被害にあう人の数が次第に増え、国民の間に大きな不満が蓄積された結果、「戦後日本」というこれまで長くつづいた国のかたちを、否応なく変えざるをえない日が必ずやってきます。 

 そのとき、自分と家族を守るため、また混乱のなか、それでも価値ある人生を生きるため、さらには無用な争いを避け、多くの人と協力して新しくフェアな社会をいちからつくっていくために、ぜひこの本を読んでみてください。

 そしてこれまで明らかにされてこなかった「日米間の隠された法的関係」についての、全体像に触れていただければと思います。

 さらに<「戦後日本」のヤバすぎる現実…「東京上空」に存在する「奇妙な空域」の「衝撃的な正体」>では、「米軍が支配する日本の上空」の問題について、詳しく解説します。

 (本書の内容をひとりでも多くの方に知っていただくため、漫画家の、ぼうごなつこさんにお願いして、各章のまとめを扉ページのウラに四コマ・マンガとして描いてもらいました。全部読んでも三分しかかかりませんので、まずはマンガから九章分通して読んでいただいてもけっこうです。商業目的以外でのこのマンガの使用・拡散は、次のサイトから自由に行ってください。〔アドレス→ https://goo.gl/EZij2e〕)

 *註1 原文は次の通り。「このような考え方からすれば、例えば北方領土の返還の条件として「返還後の北方領土には施設・区域〔=米軍基地〕を設けないZとの法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをソ連側と約することは、安保条約・地位協定上問題があるということになる」(「日米地位協定の考え方 増補版」1983年12月/『日米地位協定の考え方・増補版──外務省機密文書』所収 2004年 高文研)

 本記事の抜粋元『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)では、私たちの未来を脅かす「9つの掟」の正体、最高裁・検察・外務省の「裏マニュアル」など、日本と米国の知られざる関係について解説しています。ぜひ、お手に取ってみてください。

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース メディアと教養 【戦後の日米関係・担当:矢部 宏治】  2023年11月09日  06:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【考察①】:じつは「日本」は「完全な属国」であるという「衝撃の事実」…日本が米国と交わした「ヤバすぎる3つの密約」

2024-12-19 23:52:10 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【考察①】:じつは「日本」は「完全な属国」であるという「衝撃の事実」…日本が米国と交わした「ヤバすぎる3つの密約」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【考察①】:じつは「日本」は「完全な属国」であるという「衝撃の事実」…日本が米国と交わした「ヤバすぎる3つの密約」

 日本に存在する「ウラの掟」。  

 photo by gettyimages(KODANSHA)

 ◆大きな歪みの根底

 ■矢部 宏治

 元稿:現代ビジネス 主要ニュース メディアと教養 【戦後の日米関係・担当:矢部 宏治】  2023年12月16日  06:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【シリーズ検証・日米地位協定】:①ー② ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

2024-12-19 23:51:40 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【シリーズ検証・日米地位協定】:①ー②  ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

【シリーズ検証・日米地位協定】:①ー②  ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

日本の全土に基地を置き、危険な飛行を繰り返し、犯罪や交通事故でも簡単に逮捕されない―。そうした米軍の特権を定めた日米地位協定について、米軍専用基地の7割が集中する沖縄県に加え、今年7月に全国知事会が提言をまとめるなど、改定を求める声が高まっています。世界でも例のない米軍特権を定めた日米地位協定を検証します。

◆日米地位協定に定められた米軍の特権

2条 日本全土で基地の使用が認められる。自衛隊基地の使用も

3条 提供された基地の排他的管理権を有し、自由に出入りできる

4条 基地の返還の際、米側は原状回復・補償の義務を負わない

5条 民間空港・港湾、高速道路に出入りできる。利用料は免除

6条 航空管制の優先権を与える

7条 日本政府の公共事業、役務を優先的に利用できる

8条 日本の気象情報を提供する

9条 旅券なしで出入国できる

10条 日本の運転免許証なしで運転できる

11条 関税・税関検査を免除

12条 物品税、通行税、揮発油税、電気ガス税を免除

    日本が基地従業員の調達を肩代わり

13条 租税・公課を免除

14条 身分証明を有する指定契約者は免税などの特権を得る

17条 「公務中」の事件・事故で第1次裁判権を有する

18条 被害者の補償は「公務中」で75%支払、「公務外」は示談

24条 基地の費用を分担。日本政府の拡大解釈で「思いやり予算」の根拠に

25条 日米合同委員会の設置

◆地位協定とは

 米国は第2次世界大戦以来、地球規模での軍事作戦を可能にするため、平時でも海外に兵力を常駐させる「前方展開戦略」をとっています。米国防総省によれば、現在517の海外基地を有し、165カ国に米兵が駐留しています。

 これに伴い、米兵などの要員を「保護」し、受け入れ国の法律に制約されずに軍事作戦に従事できるようにするための枠組み=地位協定(SOFA)がつくられました。米議会によれば、米国は100カ国以上と地位協定を交わしています。

 ■全国知事会の提言(7月27日)要旨

 1 米軍機による低空飛行訓練等で国の責任で騒音測定などを実施。訓練ルートや訓練の時期について事前情報提供を行う

 2 日米地位協定の抜本的な見直し―航空法や環境法令などの国内法の適用、事件・事故時の自治体職員の立ち入りの保障などを明記する

 3 米軍人等による事件・事故に対する具体的・実効的な防止策の提示、継続的な取り組みを進める

 4 施設ごとに必要性や使用状況等を点検、基地の整理・縮小・返還を促進する

 元稿:しんぶん赤旗 朝刊 主要ニュース 特集・連載 【シリーズ検証・日米地位協定】 2018年10月28日  04:15:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【シリーズ検証・日米地位協定】:①ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

2024-12-19 23:51:30 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・沖縄防衛局・普天間移設・オスプレー・米兵犯罪】

【シリーズ検証・日米地位協定】:①ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【シリーズ検証・日米地位協定】:①ヘリ落ちようが 犯罪起こそうが…  ■世界に例ない米軍特権

 日本の全土に基地を置き、危険な飛行を繰り返し、犯罪や交通事故でも簡単に逮捕されない―。そうした米軍の特権を定めた日米地位協定について、米軍専用基地の7割が集中する沖縄県に加え、今年7月に全国知事会が提言をまとめるなど、改定を求める声が高まっています。世界でも例のない米軍特権を定めた日米地位協定を検証します。 

 ◆改定求める声高まる

 沖縄・普天間基地と東京・横田基地に配備されている米軍機オスプレイは航空法で義務付けられている自動回転(オートローテーション)機能を有しておらず、本来なら国内で飛行できません。しかし、同機は日本全土を自由勝手に飛んでいます。

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(写真)米軍CH53E大型輸送ヘリが不時着・炎上した民間牧草地付近に張られた規制線と警備する機動隊=2017年10月12日、沖縄県東村高江

 昨年10月、沖縄県東村の民有牧草地に米軍CH53Eヘリが墜落しました。沖縄県警は現場に規制線を張り、立ち入り禁止に。土地の所有者すら立ち入ることができず、米軍は墜落地点の土壌を勝手に持ち去りました。

 さらに昨年末、同県宜野湾市の普天間第二小学校に米軍ヘリの窓が落下。警察は証拠物品である窓を差し押さえず、米軍に返却。事故検証のために自衛官が基地内に入ると合意したものの、いまだに実現していません。

 こうした日本の主権侵害の背景には、日米地位協定があります。 

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(写真)オスプレイが墜落した現場付近に張られた規制線=2016年12月16日、沖縄県名護市安部

 ◆数々の特権列挙

 日米地位協定は1960年1月に改定された日米安保条約の第6条(基地の供与)に基づくもので、全28条からなります(表)。その内容は次の三つに大別されます。

 (1)基地の提供 米軍は日本全土に基地を置くことができ、「移動」のため日本中の陸海路、空域を使用できる。基地返還の際、原状復帰の費用は日本が負担。さらに日本側は地代など基地の費用負担を分担する。

 (2)基地の管理 米軍は提供された基地を排他的に管理し、火災や環境汚染などが発生しても日本側当局者は許可なしに立ち入れない。米軍は基地内に自由に施設を建設でき、どのような部隊も配備できる。無通告での訓練も可能。

 (3)米軍・軍属の特権的地位 国内で米兵や軍属が犯罪や事故を起こしても、「公務中」であれば米側が第1次裁判権を有する。被害者への補償は「公務外」の場合、示談。多くは泣き寝入り。また、納税や高速道路の利用料免除、旅券なしで出入国可能など、多くの特権が。

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 ◆処罰もされずに

 日米地位協定に基づく膨大な国内法も整備されています。たとえば、航空機が飛行中に物を落としたら航空法に基づいて処罰されますが、米軍機は航空法特例法により、普天間第二小のような部品の落下事故でも罰せられません。オートローテーション機能がないオスプレイが国内を飛べるのも、同法があるからです。

 また、事故現場の立ち入り規制は、地位協定合意議事録で、米軍の「財産権」が保障されていることを根拠にしています。

 さらに、地位協定は膨大な密約と一体で運用されています。たとえば、「公務外」の事件・事故の場合は日本側が第1次裁判権を有しますが、その場合でも日本側が裁判権を行使しないとの密約が存在しています。

 ◎日本は今も植民地状態 欧州・韓国 主権に関わると改定

 ◆根源は占領特権

 日米地位協定の前身は52年4月に発効した日米行政協定です。同協定は、占領軍として駐留した米軍が日本の独立後も基地を維持することを柱とした旧安保条約に基づき、米側の全面的な裁判権行使や無制限の基地管理権などを定めています。

 いわば米軍の占領特権をそのまま継続するものです。国民の批判をおそれた日本政府は52年2月まで公表せず、国会審議も行われませんでした。

 その行政協定の内容はほぼ、日米地位協定に引き継がれています。地位協定は今日まで一度も改定されていません。ちなみに、米軍機の低空飛行や危険飛行、欠陥機オスプレイの飛行などを「合法化」している航空法特例法も52年9月の公布以降、一度も改定されていません。

 日本の空は今も植民地状態なのです。

 ◆沖縄の基地協定

 さらに、沖縄には日米地位協定を上回る米軍の特権を定めた取り決めが存在します。72年5月15日の本土復帰に際して日米両政府が作成したもので「5・15メモ」と呼ばれています。全面占領下での基地の自由使用を保証したもので、深夜・早朝の飛行訓練などの根拠になっているとみられます。しかも97年3月まで非公表となっていました。

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 ◆低空飛行なくす

 一方、同じ敗戦国でも、ドイツやイタリアの歩みは全く異なっています。ドイツでは、北大西洋条約機構(NATO)地位協定の補足協定(ボン協定)が4度も改定。とくに93年には大幅に改定されました。背景には主権や国民の権利保護を求める国民世論がありました。

 沖縄県が今年3月に公表した現地調査報告書によれば、両国の地位協定と日米地位協定を比較し、(1)国内法の適用が明記されている(2)基地の管理権や緊急時の立ち入り権を有している(3)訓練の実施に関与する―などの違いを指摘しています。(別項)

 93年の大幅改定の結果、ドイツでは米軍機の低空飛行が減少し、現在ではほぼ行われていません。(表)

 イタリアでも、1998年2月に発生した米軍機によるロープウエー切断事故(死者20人)を契機に、米軍の低空飛行の高度制限や時間制限を強化。県の面談に応じたディーニ元首相は「米国の言うことを聞いているお友だちは日本だけだ」と苦言を呈しました。

 また、米韓地位協定は朝鮮戦争休戦中の「戦時」に締結されたことから、日米地位協定以上に主権侵害の度合いが強いものでした。しかし、同協定もこれまで数回にわたって改定されており、基地内の建設は韓国との事前協議を必要とするなど、日本より進んでいる内容も盛り込まれています。

 これらの改定はいずれも、米国との同盟関係の是非ではなく、主権にかかわる問題として提起されています。

   ◆

 このシリーズでは次回から、条文ごとに日米地位協定の問題点を指摘していきます。

 元稿:しんぶん赤旗 朝刊 主要ニュース 特集・連載 【シリーズ検証・日米地位協定】 2018年10月28日  04:15:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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