【社説①・01.10】:災害関連死/避難所改善し命守らねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.10】:災害関連死/避難所改善し命守らねば
能登半島地震の発生から1年が経過した。被災地では避難生活の心労や持病の悪化で命を落とす「災害関連死」が続いている。関連死の概念が生まれた1995年の阪神・淡路大震災以降、対策の重要性が指摘されてきたが、過酷な状況が今なお改善されない現状を深刻に受け止め、抑止に努めねばならない。
能登地震の死者は昨年末で504人を数え、半数強の276人が災害関連死で大半は高齢者だった。建物倒壊などによる直接死を関連死が上回るのは2016年の熊本地震に続く事態だ。関連死の認定審査は続いており、さらに増える可能性がある。南海トラフ巨大地震などが懸念される中、対策強化は喫緊の課題だ。
政府の有識者会議は昨年11月、能登地震の課題を検証し、報告書をまとめた。関連死を防ぐために避難所の生活環境の改善が欠かせないと指摘し、簡易ベッドや空調設備、温かい食事の提供、可搬式トイレ、入浴設備の確保などの具体策が必要だと訴える。
さらに、在宅避難者や車中泊への目配りも強化が必要と指摘した。行政全体に「場所(避難所)の支援」から「人の支援」へと発想の転換を促し、官民の連携や地域ボランティア人材の育成なども提言した。
報告書では、各県の備えを当局が定期的に点検する台湾や、国主導で官民が連携して避難所設営に当たるイタリアの事例も紹介された。学ぶべき点は積極的に取り入れたい。
一方で、これらの課題は東日本大震災や熊本地震など過去の災害でも指摘されていた。教訓がなぜ生かされないのかも直視するべきだ。
災害対策基本法は住民への支援の責務は市町村にあると定める。被災地の要望を待たずに国が物資を送る「プッシュ型支援」もあるが、避難所運営は原則として自治体任せだ。
しかし、地方では人材や財源が足りない市町村も多い。自治体の備蓄にはばらつきがあり、災害時は職員自身が被災者となる状況も懸念される。避難所の質の確保を自治体に任せていては問題は解決しない。
石破茂首相は「スフィア基準」と呼ばれる国際基準を踏まえ、避難所の生活環境を改善する方針を表明した。国際赤十字などが定めた、給水や食料、衛生、保健医療などについて避難所が備える最低限の基準だ。地域差が出ないよう、国の責任で財政支援などの迅速な実行を求める。専門性のある民間団体との連携も平時から進めておきたい。
関連死を克服できない限り、大規模災害の人的被害拡大は食い止められない。被災者の命を守り生活の質を保てる支援体制の強化へ、官民を挙げて取り組む必要がある。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月10日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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