【社説・01.07】:震災30年 検証本紙「6つの提言」(6)BOSAIの知恵を世界と共有しよう-震災経験の普遍化
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.07】:震災30年 検証本紙「6つの提言」(6)BOSAIの知恵を世界と共有しよう-震災経験の普遍化
■途上国から学ぶ私たちの役割
阪神・淡路大震災から学んだ「BOSAI」の知恵を世界に広げる取り組みは、2005年に神戸で開かれた国連防災世界会議での「兵庫行動枠組」採択で本格化した。15年の「仙台防災枠組」では数値目標が設定され、国際協力機構(JICA)と民間団体が支援を強めてきたが、近年は新たな課題に直面する。
国内外で人材育成が進む(シーズ・アジア提供)
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災害による被害は発展途上国に集中している。経済基盤が脆弱(ぜいじゃく)なこれらの国々でBOSAIを根付かせるには地道な活動が不可欠だ。
神戸市中央区のJICA関西では07年に国際防災研修センター(DRLC)が発足し、途上国から研修員を受け入れてきた。これまで130カ国の約4千人が、神戸に集積する防災機関の関係者ら延べ約3千人から学び、各国の実情に応じた防災計画を策定してきた。
計画を本国に持ち帰っても早期の実現は難しい場合が多いが、それでも事前の備えの重要性を知る人材が増えれば政策における「防災の主流化」を実現する力になり得る。「交流サイト(SNS)の普及により、DRLCで学んだ人材の横のつながりは強まっている」とJICA関西の木村出(いづる)所長は指摘する。
フィリピンでは治水事業への日本の支援と相まって河川の氾濫対策への投資が進む。防災への事前投資は災害リスクを軽減し経済発展の礎になるとの知見をさらに広めたい。
草の根の啓発も課題だ。DRLCへ研修員を最も多く送ってきたトルコは、神戸の「人と防災未来センター」をモデルに防災館を整備した。しかし、23年のトルコ・シリア大地震では耐震基準を満たさない建物の倒壊が相次いだ。国民の意識を底上げするには、民間団体と連携した息の長い活動が欠かせない。
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アジア各国で防災教室を支援してきた認定NPO法人「SEEDS Asia」(シーズ・アジア=神戸市東灘区)は、住民同士が支え合う「共助」の大切さを伝えている。
阪神・淡路では建物の倒壊が相次ぐ中、共助の活動で多くの命が救われた。「神戸を拠点に啓発する意義はそこにある」と、大津山光子事務局長は強調する。
バングラデシュではシーズ・アジアの教室で学んだ住民が、強固なコミュニティーを生かし自主的に道路拡幅などの防災工事を行った。大津山事務局長は手応えを感じる一方、今の兵庫で同じことができるだろうか、との思いにとらわれたという。
「原点であるべき兵庫で、コミュニティーはむしろ弱まっているのではないか。震災30年を経て、私たちに問いが突き付けられている」
急激に進む地球温暖化への適応など、途上国が先を行く対策も多い。シーズ・アジアは毎年1月17日、アジアと日本の小学生らがオンラインで防災の取り組みなどを発表し合うイベントを続ける。紛争や洪水を生き延びる知恵に、日本の子どもたちが学ぶことは多いはずだ。
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各地で激化する武力紛争も官民の活動の前に立ちはだかる。戦乱に遭った国からはDRLCなどへの派遣が難しくなる。JICA関西の木村所長は「復興や難民への支援を防災に結びつけるなど、相手の状況に応じた対応が重要」と話す。
シーズ・アジアは昨年9月、内戦の長期化を踏まえミャンマーの事務所を閉鎖し、隣国に逃れた避難民の支援に切り替えた。混乱の中、避難所では性被害が深刻化している。
大津山事務局長は言う。「阪神・淡路でも避難所などでの性被害は指摘されていた。くみ取るべき教訓はもっとあったのではないか」
BOSAIの理念を学び直し、さらに世界へ発信する-。震災30年を経ても、被災地が果たすべき役割に終わりはない。=おわり=
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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