【天風録・12.07】:原子炉のカス
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・12.07】:原子炉のカス
何もかもをのみ込む深い穴が、ある村で見つかる。やがて原発会社が群がり、金や道路と引き換えに「原子炉のカス」を次々と捨てていく―。星新一さんのSF短編「おーい でてこーい」の一幕だ
▲カスとは使用済み核燃料、あるいは再利用できない高レベル放射性廃棄物を指すのだろう。どちらにせよ、長い名前を2文字で表すところが短編の名手らしい。発表から66年が過ぎても、背筋の凍る結末は色あせない
▲中国電力の島根原発2号機がきょう再稼働する。停止は13年近くにも及んだ。福島の事故で揺らいだ原発の「安全神話」を必死に繕った歳月と言える。15メートルにかさ上げした防波壁をはじめ、64もの安全対策が施された
▲再稼働でよみがえる問題もある。使用済み核燃料の行方だ。2号機の貯蔵場所は約10年で満杯になるという。一時的な保管先にと、中電が山口県上関町で建設を探る施設もまだ先は見通せない。SFのような便利な穴もないままに「カス」は増える
▲快適な暮らしは何と引き換えに成り立つのか。目をそらしている暗部はないか。星さんの問いかけに私たちも背筋を伸ばして向き合う時かもしれない。いつかつけが降りかからぬように。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】 2024年12月07日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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