《社説①・12.13》:Fパワーの検証 失敗の教訓 共有してこそ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.13》:Fパワーの検証 失敗の教訓 共有してこそ
第三者による客観的な検証の機会をつくるべきではないのか―。県議会でただされた県は、その予定はないとの考えを示した。
県が、塩尻市、民間企業とともに森林資源の有効活用を目指しながら、事実上破綻した「信州F・パワープロジェクト」についてである。
県内で集めた原木を製材し、端材や未利用材を燃料として発電する計画だ。林業を再生し、自然エネルギーの地産地消を進めるモデルを全国発信するとの意気込みで始まった事業である。
県は約24億円の補助金と無利子融資で製材、発電を担う企業を支援し、原木確保の調整を後押ししてきた。10年余を経て企業の経営が行き詰まり、計画が頓挫(とんざ)した。県が理由を分析し、県民に説明するのが当然ではないか。
化石燃料に依存しない循環型の地域社会をつくるという計画の理想は、森林県の信州にとってこの先も色あせることはない。くみ取るべき教訓を、県民が広く共有する必要がある。
情報開示に対する県の姿勢は消極的に過ぎる。昨年7月、発電所で燃料材の調達が困難になったことの説明を県議らが求めた際、県は「民間の経営問題」だとして説明を避けた。
今回、県議会に県が示したのも経過や課題を箇条書きしたわずかな資料でしかない。
プラント着工が遅れ、建設資材の高騰で建設費がかさんだ。全国で類似の発電所が増え、製紙用との競合もあって原木の確保が難しくなった―など、経営難の背景に触れてはいる。
ところが県の対応の評価が見当たらない。これまで阿部守一知事は「役割と責任はしっかりと果たしてきた」と述べてきた。当事者としての真摯(しんし)な説明が聞きたい。そのためにも、客観的な立場からの検証が要る。
年14万トンという大量の燃料材の確保計画が県内の供給力を超えているとの懸念は当初からあった。見通しに甘さはなかったか。事業環境の変化にその都度どう対処したのか。官民の責任分担と連携は適切だったのか。
林業を核に街を挙げて発電や熱利用を進め、地域内の資源循環を実現している岡山県真庭市のような先進例とも比較し、足らざる点を明らかにすべきだ。
失敗に学ぶことは多い。検証の過程そのものが県民の財産ともいえる。計画への公金支出などを認めてきた県議会もその責任を自覚し、対応すべきである。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月13日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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