【社説・12.30】:袴田さん再審無罪検証 冤罪生まぬ改革が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.30】:袴田さん再審無罪検証 冤罪生まぬ改革が必要だ
1966年の静岡県一家4人殺害事件で、袴田巌さんの再審無罪が確定したことを受け、最高検と静岡県警は捜査や公判に関する検証結果を公表した。新たな冤罪(えんざい)を生み出さぬよう今後の捜査に生かせるかが焦点だ。
最高検の報告書では、県警の取り調べが連日深夜まで長時間に及ぶなど任意性を欠いたとし、検察も袴田さんを犯人と決めつけたかのように自白を求めたと指摘した。捜査資料や証拠の保管、把握も不十分だったとも判断した。
取り調べ時の問題点が明らかになったと言えよう。袴田さんに再審無罪を言い渡したことし9月の静岡地裁判決は、自白をさせた検察官調書が「強制、拷問または脅迫」に基づいていると痛烈に批判した。判決によると、袴田さんは1日平均約12時間の取り調べを受けており、弁護人との接見も限られるなど「肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べ」だったと断じている。
事件発生段階で適切な取り調べが行われていれば、冤罪は生まれなかったのではないか。日本の司法制度を巡っては、罪を認めなければ身体拘束が長引く「人質司法」の問題が指摘されており、現在でも罵声を浴びせるなど旧態依然とした捜査が一部で残っているという。冤罪を生まないためには「自白偏重」からの脱却が重要だ。踏み込んだ改革が求められよう。
今回の検証結果には課題も残る。静岡地裁判決では、検察側が提示した有罪を示す証拠3点を捏造(ねつぞう)と認定した。これに対し最高検の報告書は「5点の衣類」の捏造について「合理的な根拠を欠いていると評価せざるを得ない」と反論した。
最高検は、「捏造」との指摘に一貫して反発している。控訴を断念した際の検事総長談話でも、地裁判決が捜査機関による証拠の捏造を認定したことについて「強い不満を抱かざるを得ない」とした。
静岡県警の検証結果でも、「5点の衣類」については、当時の捜査員らから「具体的な証言が得られなかった」とし、捏造の有無は確認できなかったと結論付けている。
最高検の報告書に、捏造を否定する具体的な根拠が示されたとは言い難い。静岡県警の検証結果についても、多くの関係者が亡くなっていることなどから、捜査員の聴取対象は6人にとどまり、いずれも当時は衣類にかかわる捜査に携わっていなかった。
「身内」での調査に限界がなかったか。地裁が捏造認定したにも関わらず、否定の主張を繰り返したり、曖昧なままで終わらせたりしては、国民からの信頼は得られない。検察、警察の双方には、第三者を含めた再検証を求めたい。
免田事件などこれまで再審無罪となった事件では、警察などによる検証がなされたか不明なケースもある。冤罪を生まない対策を講じるためにも各事件の検証が必要だ。
元稿:琉球新報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月30日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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