以下、読売と産経、日経の、名護市長選挙の結果を受けた社説は、中国・北朝鮮の「脅威」を前提として、煽り、それを米軍の「抑止力」によってなくしていこう、軽減していこう、そのためには、辺野古移設が妥当だとする思想と論理でちりばめられています。しかし、その思想にもとづく情勢評価は、事実を反映しているか、検証がなされているとは、とても思えません。
このこと、現在の日本の思想状況は、戦前の「ABCD包囲網」論を正当化するために考案された「鬼畜米英」論と似たところがあります。第一次世界大戦後、世界の覇者となったアメリカに経済的に依存していた大日本帝国が、アメリカの経済の傘の下で大陸侵略をしていたことと似ています。現在は中国経済が世界を席巻しています。アメリカを抜いています。日本の貿易も赤字が続いています。中国の貿易額は、今やアメリカを抜いているのです。日本の多国籍企業の行く手には中国が立ちはだかっています。
今や日本は中国に包囲されているのです。それは経済界にとってみれば「脅威」です。しかし、中国の「脅威」は日本の企業が中国に進出した結果でもあるわけです。そうした歴史的経過を無視して、中国の「脅威」を、「鬼畜」であるかのように、更には中国を文化的後進国であるというように、また何かと「危機」を漠然と煽り、日米軍事同盟で対抗しようとしているのです。これは現代版三国同盟です。中国に対する「危機」「脅威」は、「鬼畜米英」的感情論にもとづくものです。
その象徴的事例が、日経などは、「島を奪われた場合に自力で取り返す能力はまだ不十分だ。在日米軍との協力体制を強化したい」などと、トンデモナイことを仮想して論理を組み立てていることです。こうした思想が、安倍首相のダボス会議発言につながっていったのです。日米軍事同盟深化派・憲法改悪派は、「一旦緩急あれば」、一気に憲法を変えていこうという雰囲気の中に浸っているのでしょう。煽り行為も甚だしいと言わなければなりません。戦前的ムードが沈殿・醸成されていると言わなければなりません。
そうしたなかで、国民の平和を求める運動も、大きく広がってきていることも事実です。だからこそ、ウソとデマ、スリカエ、デタラメとトリックがマスコミをとおして垂れ流され、日本中を席巻しているのです。その一つひとつにクサビを打ち込んでいく必要があります。そこで、3つの社説のトリックを検証してみることにしました。
まず、読売です。
「昨年末に仲井真弘多知事が公有水面埋め立てを承認したことにより、辺野古移設を進める方向性は既に、定まっている」としていますが、読売は仲井間知事の公約違反は問題にしないのか、民主党の公約違反と自民党の公約違反は違うのか、説明すべきです。
「民主党政権が無責任に『県外移設』を掲げ、地元の期待をあおった結果、保守層にも辺野古移設の反対論が増えた」というのはスリカエ、大ウソです。県民の要求こそが、民主党を、自民党を動かしたのです。自民党の公約変更を民主党の責任になすりつけるのでしょうか。公約違反をした民主党を攻撃したのは誰でしょうか。民主党に右倣えして公約を変更したのは自民党でした。その自民党は、今回は公約を破ったのは事実です。どうやって説明するのでしょうか。
「在沖縄海兵隊の輸送任務を担う普天間飛行場の重要な機能を維持することは、日米同盟や日本全体の安全保障にかかわる問題だ。一地方選の結果で左右されるべきものではない」とするのであれば、それまでの自民党の公約を変更してまで選挙に臨んだ自民党はどうなるのでしょうか。国家は国民の命を安全を保障するという思想と日本全体の安全保障に地方自治は左右されないとする国家優先論は、国家とは何かを排除した本末転倒そのものです。
そもそも「市街地の中央に位置する普天間飛行場の危険な状況」をもたらしたのは誰なのか、その責任はどこにあるか、読売は明らかにすべきです。
「在日米軍の抑止力の維持」が「沖縄の基地負担」を増幅してきたこと、「在日米軍の抑止力」が、どのように機能してきたのか、説明すべきです。何故か。読売の論理に立てば、中国や北朝鮮の「脅威」はなくなっていなければなりません。ところが中国や北朝鮮の「脅威」の高まりは、「在日米軍の抑止力の維持」が機能していないことになります。これは明らかに自己矛盾です。
「市街地の中央に位置する普天間飛行場の危険な状況」をつくりだしているのは、「在日米軍の抑止力の維持」にあり、「沖縄の基地負担」の権化であることは明らかです。「在沖縄海兵隊のグアム移転」などに見るように、破綻した「抑止力」に拘って米軍基地を温存するのではなく、東アジアに平和を構築する国民的議論と関係諸国との交流を深めていくことこそ、憲法の平和主義の具体化と言えます。その方が安上がりであることも明らかです。
読売新聞 名護市長再選/普天間移設は着実に進めたい 2014/1/20 2:00
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20140119-OYT1T00888.htm
選挙結果にとらわれずに、政府は、米軍普天間飛行場の辺野古移設を着実に進めるべきだ。 沖縄県名護市長選で、辺野古移設に反対する現職の稲嶺進市長が、移設の推進を訴えた新人の末松文信・前県議を破って、再選された。 1998年以降の5回の市長選で、最初の3回は容認派が勝利し、前回以降は反対派が当選した。民主党政権が無責任に「県外移設」を掲げ、地元の期待をあおった結果、保守層にも辺野古移設の反対論が増えたことが要因だろう。 公明党は、党本部が移設を支持しているのに、県本部は「県外移設」を崩さず、市長選を自主投票にした。党本部がこの方針を“黙認”したのは、移設を推進する与党として問題だった。 末松氏は、政府や沖縄県との連携を強化し、名護市の地域振興に力を入れる方針を前面に掲げた。だが、同じ容認派の前市長との候補一本化に時間を要するなど、出遅れが響き、及ばなかった。 昨年末に仲井真弘多知事が公有水面埋め立てを承認したことにより、辺野古移設を進める方向性は既に、定まっている。 そもそも、在沖縄海兵隊の輸送任務を担う普天間飛行場の重要な機能を維持することは、日米同盟や日本全体の安全保障にかかわる問題だ。一地方選の結果で左右されるべきものではない。
仲井真知事が市長選前に承認を決断したことは、そうした事態を避けるうえで、適切だった。 名護市長には、代替施設の建設工事に伴う資材置き場の設置などの許可権限があり、工事をある程度遅らせることは可能だろう。ただ、権限は限定的で、辺野古移設の中止にまでは及ばない。 稲嶺市長は、末松氏が集めた票の重みも踏まえて、市長の権限を乱用し、工事を妨害する行為は自制してもらいたい。 政府は今後、在日米軍の抑止力の維持と沖縄の基地負担の軽減を両立させるため、沖縄県と緊密に協力し、建設工事を加速させることが肝要である。 工事が遅れれば、市街地の中央に位置する普天間飛行場の危険な状況が、より長く続く。在沖縄海兵隊のグアム移転や県南部の米軍基地の返還といった基地負担の軽減策も遅れるだろう。 仲井真知事らが求める工事の期間短縮や、円滑な実施には、地元関係者の協力が欠かせない。政府は、辺野古移設の意義を粘り強く関係者に説明し、理解を広げる努力を続ける必要がある。(引用ここまで)
次は産経です。産経は、稲嶺氏の勝利、末松氏の敗北が、よほど堪えたのでしょう。脅しの言葉に終始しています。かわいそうなくらいです。これしか言えないのです。そもそも「名護市長がかかわる権限が約10項目」としている公有水面埋立法は国会が制定した法律です。沖縄県や名護市の条例ではありません。産経は、そのことを忘れてしまっているのでしょうか。いやそうではありません。敗北の悔しさを、腹いせとして、意図的に覆い隠し、稲嶺市長を、違法者として描き、悪者にしようとしているのです。まさに形を変えた、戦前の非国民・国賊まがいのレッテル貼りです。ここに産経の立ち居が浮き彫りになったように思います。
県民中心の沖縄革命の成功のためには反革命の理不尽性を徹底して暴き少数派に転落させることだ! 2014年1月12日
「移設が難航すれば、住宅密集地の上を米軍機が飛行する普天間の危険な状態の固定化を招く」など、危険な常態をつくりだしている米軍・米国とそれに追随する安倍政権を免罪するものです。
「沖縄は国の守りの最前線に位置する」というのも、戦前的発想です。「国の守り」に「最前線」も「銃後」もありません。そのような偏狭な時代遅れの思想こそが、日本国を衰退させることは、歴史を見れば明瞭です。「在日米軍の基地の再配置が円滑に進むかどうかは、抑止力のありようや同盟の安定性に重大なかかわりをもつ」というのも、破綻した「抑止力」と侵略性を発揮してきた日米同盟の果たしてきた歴史的役割を覆い隠すものです。
「国との対決構図を終わらせる」のは、何も「移設推進の立場」だけではありません。「移設をおしつけることに反対する」立場も、国との対決構図を終わらせる」ものです。産経の論理のスリカエが浮き彫りになります。
「名護市民がけっして移設反対一辺倒ではなく、移設を町づくりに生かすべきだとの意見があることも稲嶺氏は考慮すべき」と稲嶺氏の公約を黙殺し、石破幹事長のアメとして打ち出した500億円問題を免罪するものです。
産經新聞 名護市長選/辺野古移設ひるまず進め 2014/1/20 6:00
http://sankei.jp.msn.com/column/topicslist/../../politics/news/140120/plc14012003450005-n1.htm
米軍普天間飛行場の移設問題を争点とした沖縄県名護市長選で、移設に反対する現職の稲嶺進市長が再選された。 稲嶺氏は市長の権限を盾にとって名護市の辺野古沿岸部への移設工事を阻止する考えを示している。だが、移設が滞り、日米同盟の抑止力に深刻な影響を与える事態を招くことは許されない。 仲井真弘多知事は昨年末、辺野古沿岸部の埋め立て申請を苦渋の判断の末に承認した。この流れを止めてはならない。市長選は移設にとって厳しい結果となったが、政府は名護市にいっそうの理解を求める努力を重ね、移設進展に全力を挙げるべきだ。 政府は知事の承認を受け、今年は埋め立てのための測量調査や普天間の代替施設の設計を進める予定だ。移設実現までには、基地の燃料タンク設置や河川切り替えの許可や協議など、名護市長がかかわる権限が約10項目ある。 稲嶺氏はこれを移設阻止に利用しようとしているのだろうが、これらは安全性確保が問題であって、政治目的のためにその趣旨を逸脱することは容認できない。 沖縄は国の守りの最前線に位置する。在日米軍の基地の再配置が円滑に進むかどうかは、抑止力のありようや同盟の安定性に重大なかかわりをもつ。辺野古移設は政府の責任で決定する問題であることを理解してもらいたい。 敗れた末松文信氏は、「国との対決構図を終わらせる」と移設推進の立場をとった。同じく推進派の元市長との候補一本化を経ての出馬でもあった。選挙結果は出たが、名護市民がけっして移設反対一辺倒ではなく、移設を町づくりに生かすべきだとの意見があることも稲嶺氏は考慮すべきだ。 移設が難航すれば、住宅密集地の上を米軍機が飛行する普天間の危険な状態の固定化を招くことも考えなければならないだろう。 もとより基地が集中する沖縄の負担軽減は政府の重大な責務だ。平成26年度予算案で沖縄振興費を充実させ、新型輸送機オスプレイ訓練の本土分散も進めている。 国は県と協力して、あくまでも名護市、市民に移設への理解と協力を働きかけ、一日も早く工事を開始してほしい。その際、妨害など違法行為には厳正に対処しなければならない。 混乱回避に市の責任が大きいことも忘れてはならない。(引用ここまで)
最後に日経です。日経の場合は、読売や産経と少し違ったスタンスですが、実はトンデモナイことを言っているのです。戦争を扇動することが、如何に不経済か、日経は検証すべきです。戦争の不経済性と平和の経済性について、です。
まず、「なぜ沖縄はこれほど重い基地負担を強いられるのか。こうした疑問を放置すべきではない」というのであれば、日米軍事同盟に立ち入っていく必要があります。
ところが「だが、島を奪われた場合に自力で取り返す能力はまだ不十分だ」という、戦争武力行使を前提とした思想と論理は「中国が海洋進出を活発化させ、北朝鮮の動向も不透明だ。米軍の沖縄駐留は日本の安全保障、さらに東アジアの安定に欠かせない抑止力」の破綻を示しています。
「国際情勢の現状をみれば、代替施設なしの普天間返還は現実的な選択肢ではない」と言うのは、アセアンやシリアへの軍事行動回避など、国際情勢の現状を見ているとは思えません。そのような「島を奪われた場合」などということを想定する前に、やることがあるでしょう。そもそも、尖閣問題の発端は誰がつくりだしたか、誰が挑発的言動を行ったのか、そのことの検証が必要です。更には、日本の領土問題の発端は、その歴史的要因は、どこにあるのか、解明・検証すべきです。
ところで、「島を奪われた場合」「在日米軍との協力体制を強化したい」と思っているのは日本の、安倍首相や読売・産経・日経などだけではないでしょうか。アメリカは、中国との戦争・戦闘を望んでいるのでしょうか。国際社会は、こうした紛争を望んでいるでしょうか。中国が公然と尖閣を奪うと言うことを前提としているのであれば、その前に日本政府はやるべきことはたくさんあるのではないでしょうか。ここにスリカエ、トリックの最大の盲点・弱点・欠陥が透けて見えてきます。
中国との対話を自ら勝手に閉ざしておいて、対話の扉を開けているとうそぶく安倍首相が国際社会から信頼されているでしょうか。
「政治目的のために」、「公約」を破棄したのは誰か。「基地負担と地域振興をあからさまに絡めるような手法」を使って国家主義を優先し「市民との永続的な関係」を破壊し「行政の権限」押し潰そうと、アメをばら撒いたのは誰でしょうか。国家権力を「乱用するのは筋違いだ」と言わなければなりません。
日本経済新聞 普天間移設の重要性を粘り強く説け 2014/1/20 4:00
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO65553700Q4A120C1PE8000/
米軍普天間基地の移設の是非が最大の争点となった沖縄県名護市長選で、受け入れ反対を掲げた現職の稲嶺進氏が再選された。移設への市民の抵抗感が改めて浮き彫りになった。政府は移設の重要性を市民に丁寧に粘り強く説き続けなければならない。 名護市辺野古が移設先に浮上してから5回目の市長選だった。最初3回は移設推進派が勝ったが、その後2回は反対派が連勝した。民主党政権が「県外移設」というパンドラの箱を開けた影響が大きいと言わざるを得ない。 ただ、きっかけは民主党でも、市民が心の内に不安を抱えていた事実は無視できない。騒音や事故で迷惑を被るのではないか。なぜ沖縄はこれほど重い基地負担を強いられるのか。こうした疑問を放置すべきではない。 中国が海洋進出を活発化させ、北朝鮮の動向も不透明だ。米軍の沖縄駐留は日本の安全保障、さらに東アジアの安定に欠かせない抑止力である。国際情勢の現状をみれば、代替施設なしの普天間返還は現実的な選択肢ではない。 自衛隊は沖縄県の尖閣諸島などの防衛に力を入れ始めた。だが、島を奪われた場合に自力で取り返す能力はまだ不十分だ。在日米軍との協力体制を強化したい。 移設作業が頓挫すれば宜野湾市の市街地にある普天間基地を使い続けることになる。万が一、ヘリ墜落などの事故が起きれば、周辺住民に深刻な被害が生じかねない。県内の米軍駐留の反対論もかつてない盛り上がりをみせよう。 政府と稲嶺市長にはこうした現実を見据え、協議の席についてもらいたい。 移設に必要な辺野古沿岸の埋め立ては沖縄県の仲井真弘多知事が昨年末に承認した。市町村にはこれに関する法的な権限はない。 稲嶺市長は漁港の資材置き場の使用許可など関連するあらゆる権限を使って移設を阻止する構えをみせる。政治目的のために行政の権限を乱用するのは筋違いだ。
政府も市に権限がないからと力ずくで工事を始めるべきではない。市民の納得なしにできた基地では円滑な運用は望めない。 自民党は投票日直前に突如、名護市振興基金の創設などを提唱した。移設推進派候補が敗れたことで白紙撤回するのか。基地負担と地域振興をあからさまに絡めるような手法では市民との永続的な関係は築けまい。(引用ここまで)