暴力ではなく、対話でしか平和は訪れない―。そんなメッセージが強く込められている。

今年のノーベル平和賞は、北アフリカ・チュニジアの民主化に道筋を付けた労働組合など4者による「国民対話カルテット」に贈られることが決まった。

地中海に面し観光国でもあるチュニジアでは2011年1月、大規模な反政府デモで長期独裁政権が倒れ、中東の民主化運動「アラブの春」の先駆けとなった。

その後も混乱が続いたが、4者は政治危機打開のため、与野党間協議の仲介役として尽力、新憲法制定などに貢献した。

「アラブの春」が波及した周辺国では紛争や混乱が続き、人々の間には失望感が広がっている。

チュニジアの民主化は希望の灯である。中東地域の安定化に向けて、国際社会も後押ししたい。

ノーベル賞委員会は授賞理由の中で「中東や北アフリカなどで平和と民主主義推進を求める全ての人への刺激となることを望む」と呼びかけた。

10年12月、失業青年が抗議の焼身自殺を図ったことを機に起きたデモは瞬く間に全土に広がり、当時のベンアリ政権を倒した。

だが民主化への道のりは容易ではなかった。イスラム勢力と世俗勢力が激しく対立、世俗派指導者が暗殺されるテロも起きた。

同国で影響力が強い労組を中心に経済団体、人権組織、全国弁護士会の4者が立ち上がった。憲法制定など主要政治日程をまとめたロードマップを作成し、賛同した21政党が対話を開始した。

昨年暮れ、民主化移行の総仕上げとして大統領選が実施され、カイドセブシ氏が当選した。

各界を代表するカルテットが内戦突入を食い止めた。

チュニジアでは今春、日本人3人を含む22人が犠牲になるテロが起きた。過激派組織「イスラム国」に参加する若者も多い。社会の安定へ一層努めてもらいたい。

民主化運動がアラブ諸国に波及した背景には、独裁政権への怒りや貧富の格差への不満がある。

エジプトでは独裁政権崩壊後、クーデターなど混乱が続き、リビアは分裂状態に陥っている。

内戦が5年目に入ったシリアではイスラム国が台頭し、400万人超が難民となって国外に逃れた。米国、ロシアなどは武力介入しているが、泥沼化に拍車をかけるだけではないか。

「民主化のモデル」に目を向け、国民的対話を促すべきだ。(引用ここまで

ノーベル平和賞/アラブの春を国民の力で

 
神戸新聞 2015/10/10
 

今年のノーベル平和賞は、独裁政権の崩壊後、民主化による国づくりを進めるチュニジアの民間団体に授与されることになった。

「国民対話カルテット」。国内の労働組合や商工業界、人権団体、法曹界を代表する各団体が大同団結して2年前に発足した連合体だ。

中東の民主化運動「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアは、イスラム過激派の活動が活発化するなど、今も多くの試練に直面する。そうした状況下で対話と結束を国民に呼び掛け、民主化への移行に貢献した取り組みが評価された。

「アラブの春」はエジプトやリビア、シリアなどに広がった。だが、多くの国々は内戦状態に陥り、エジプトでは軍事政権が復活した。

その中でチュニジアは「唯一の成功例」とされる。民主的な憲法を制定し、昨年末には自由選挙で大統領を選出した。その動きを草の根で支えたのが「カルテット」である。

平和と安定を願う同国民による努力をたたえたい。新生チュニジアの挑戦を日本も支援していきたい。

同国で約23年続いた独裁政権が崩壊したのは2011年1月だ。1人の男性が生活への絶望から焼身自殺したのがきっかけで反政府デモが全国に拡大し、ベンアリ大統領らは国外に逃亡した。劇的な政変は「ジャスミン革命」と呼ばれる。

チュニジアも、他のアラブ諸国と同様、イスラム原理主義の存在など火種を抱えている。制憲議会ではイスラム政党が第1党となり、世俗派と対立することもあった。

一時は過激派による野党指導者の暗殺などで社会不安が高まり、国家の再建自体が危ぶまれた。その時期に「カルテット」は結成され、与野党協議の仲介役となるなど、国民的な対話の実現に結び付けた。

「平和的な政治プロセスを構築し、民主化に果たす民間団体の役割をも示した」と、ノーベル委員会は称賛する。「中東だけでなく世界各地の民主化に良い影響を与えるだろう」との期待も表明している。

ただ、チュニジアの政情は不安定だ。今年3月、博物館が襲撃され、日本人観光客らが犠牲となるテロが起きた。失業率も高く、低迷する経済に国民の不満は高まっている。

困難を抱える国づくりを支えたい。国民の力で芽生えた「春」を、国際社会の連帯で根付かせたい。(引用ここまで