「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

若山牧水と駅弁

2006-09-16 06:19:55 | Weblog
# 白玉の歯にしみとおる秋の夜の
  酒は静かに飲みべかりけれ (若山牧水)

秋はやはり日本酒がよい。亡き父が居間の長火鉢の前に座って
独鈷でお燗をしながらいつまでも夜長を楽しんでいた姿が想い出さ
れる。この父が半年間だけだが沼津で牧水と杯を交わしている。


父は大正9年8月31日から翌年2月まで旧「報知新聞」の沼
津通信部に勤務していた。牧水の年譜によると、彼も同じ年の
同じ15日に東京から沼津に移住してきた。牧水は当時在であ
った楊原村に居住、父は町中の玉突屋の二階に下宿していた。
二人を結ぶ接点はわからないが、残っている父の送別会写真
などからみると、沼津町の記者クラブではなかったかと思う。

残念ながら父は牧水との出会いについて何も書いてないが、生前
よく僕に「牧水は駅弁で酒を飲むのが好きだった}と語っていた。
どちらかといえば、父は人と賑やかに飲む酒が好きだったが、
”白玉の”の和歌でみるかぎり、牧水は"一人静かに"飲む酒だっ
たようだ。父が牧水と酒席を一緒にしたのは多分仲間うちの集まり
だったと思うが”白玉”の和歌から牧水の気持ちが伺い知れ面白い。
牧水は当時34歳、父は35歳、早稲田大学同窓であった。

"白玉の"酒は冷やだったのか、熱燗だったのか。戦前一般には
冷酒は労務者が飲むものとされていた。しかし、牧水が駅弁で
飲むのが好きだったとすれば”歯にしみとおる”のは冷酒だった
かもしれない。料亭で綺麗どころを侍らせて床の間を背にした熱
燗では和歌にならない。