ひまわり先生のちいさな玉手箱

著書「ひまわり先生の幸せの貯金箱〜子どもたち生まれてきてくれてありがとう」

思慕の念

2012年05月19日 | メッセージ

亡き人、別れた人、会えない人を思い出すことは、辛い。
好きであればある程辛い。
思い出してはいけないと思えば、思う程、なお辛い。

アメリカに行く直前に突然、父を失い
眠れぬ日々が続いていた。
思い出すことが辛かった。
思慕の念を抱くことは、辛いことだろうか…
四十九日を終え、最近ふと
思い出すことは、親孝行ではないかと考えた。
これ程、子どもに好かれていたのだから…。

ゴールデンウィークに
父が見たがっていた黒木の藤棚を見に行った。
辺りに漂う甘い香りが私を包んだ。
まだ、うまく言葉に出来ないが、父が何か教えてくれている気がした。
昨日は、熊本に講義に行ったついでに
あんまり天気が良かったので
父の車で阿蘇まで足を伸ばした。
『お父さん、綺麗ね…』
花が好きで、人をドライブに連れて行くのが大好きだった父。
父が免許を取ったのが私が六歳の時。嬉しくてダンボールで車を作り、うちのナンバープレートを貼り、
兄と引っ張り合いっこした。
その頃から父の横は、私の指定席になった。
『お父さん、あれな~に?』初めて見聞きした事を次々に質問し、
『あれはね…』
沢山教えてもらった。
よく一緒に歌も歌った。
『雪よ岩よわれらが宿り
おれたちゃ町には住めないからに
おれたちゃ町には住めないからに~』

町中で裕福な家庭で育った母とは対象的に
父は、田園の川沿いの兼業農家で仲の良い兄弟姉妹の真ん中で育った。
叔母ちゃんたちが口を揃え、父をこう振り帰った。
『九人の兄弟でお父さんが一番優しかった…』
『けいこちゃんは、ちゃんとそれを引き続でるとよ…』

そうか、引き継いでいるということは、命を繋いでいるということ。
たとえ、父が存在しなくなっても
父の温かさは、私の中にしっかりある。
歌声も頭を撫でてくれた時の優しい顔も手の温もりも。
小さい頃、お腹に手を当ててもらうと、ホッとして安心して眠れた。

父は、よく冗談も言った。
父の入院中のエピソード。
看護師さんに食事を残したか聞かれた時
父:『ご飯を…』
看護師さん:『どれくらい残しましたか?』
父:『残さず食べようとしたけど、茶碗に何粒かくっ付いて取れんでねえ~』
看護師さん:『もう~、まったあ』

私の息子たちは、一人暮らしの父を気遣い、
車で2時間の距離を時々尋ねてくれた。
父から言うと孫からのメール
孫:『今度の日曜日、そっちに行こうと思うけど、おじいちゃん、おる(いる)?』
父の返信メール
父:『逃げも隠れもいたしません』

私は、毎日 朝晩二回電話した。
私:『おはよう、今から仕事行ってくるね。』
父:『おお、今日はゆっくりやね。よか、よか。あんたは、いつも忙しいかけん。
いってらっしゃい!』
私:『仕事終わったよ』
父:『おかえり~。今日も頑張ったね。』
嬉しい話をすると
父:『私にまで分けてもろうてありがとね。良か話、私まで嬉しくなるよ。』
亡くなる2日前.母との馴れ初めを一時間話した後
父:『あ~つい、こんな話して、あんたに(娘に)こんな話して、あー何か変な気分』
私:『お父さん、慣れないことで照れ臭いんやろ。
娘やけん、親の馴れ初め聞けて、嬉しいよ。』

今からは、ドライブしながら、いっぱい話すね、お父さん。
『藤は、良い香りやね。』
『俵山、綺麗ね。』
『女神大橋、一緒に渡ったね。』
思い出すことをいけないと思うのは止めて
これからは、『思い出すことは親孝行』と思うことにします。
思慕の念を抱く相手がいることは、幸せ。
思慕の念を抱いて生きて行く。

以下、ゲーテの言葉。

思慕の念は、清らかな精神関係を
表現する意味でも
愛に似ている。
ただ、愛は、現在の持続性を要求するが、
思慕の念は、それを必要としない。(ゲーテ『箴言と省察』より)
コメント (10)
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