Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

利休

2007年06月22日 01時44分44秒 | 邦画1981~1990年

 ◎利休(1989年 日本 135分)

 監督・企画・生花・カメオ出演/勅使河原宏 音楽/武満徹

 出演/三國連太郎 山崎努三田佳子 松本幸四郎 中村吉右衛門 山口小夜子 細川護煕

 

 ◎野上彌生子『秀吉と利休』より

 ドナルド・リチーまで出演してるぞ。

 勅使河原宏の人脈の広さをまざまざと見せつけられる。

 それと、豪華絢爛ながらも侘び茶をよく心得た演出は、さすがというほかない。

 夜明け前の朝露に濡れた椿といい、水盤に散る梅といい、これもまた、さすが、草月流の家元だけあって見事というほかない、てなことを素人のぼくが口にことすら憚られるよね。

 ただ、人物描写については、いろいろな批評があるだろう。やけにリアルというか、あまりに生臭すぎる秀吉と利休だったしね。ぼく個人としては、人間臭いところが好きだからいいんだけど。

 まあそのあたりは演出家の趣味なわけで、そういう人物設定が気に入るかどうかは観客それぞれだ。

 そうしたことは、衣装にも、装飾にも、いえる。絢爛たる桃山時代の頂点といっていい時代と舞台なんだから、豪華にならざるをえないよね。

 そんな世界の中に、なまぐさくて仕方のない主役ふたりがいるわけで、このアンバランスさはひととおりじゃない。

 やっぱりそのあたりの不均衡ぶりってのは、生け花に通じるのかな?

 生け花の芸術性は、不均衡な安定にあるんじゃないかとおもうことがある。ひとつひとつはとんでもなく捻じ曲がっているのに、それが大きなひとつの作品として仕上がったときには、すべての花や茎がふしぎな均衡と調和に包まれている。

 この映画も、そんな匂いがあるんだわ~。

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千利休 本覺坊遺文

2007年06月21日 00時45分23秒 | 邦画1981~1990年

 ☆千利休 本覺坊遺文(1989年 日本 107分)

 監督/熊井啓 音楽/松村禎三

 出演/三船敏郎 萬屋錦之介 奥田瑛士 加藤剛 芦田伸介 上條恒彦 東野英治郎

 

 ☆井上靖『本覺坊遺文』より

 天正19年2月28日、利休切腹。

「死ではなくなる。無ではなくならん」

 これはいったいどういう意味か、ということが主題だといっていい。

 実は簡単な謎解きなんだけど、映画で結論は出していない。

 まるで、利休が本覺坊をつきはなすように、

「その答えは、おのれひとりで出すものだ」

 とでもいわれているような気分になる。

 師として、また、矜持を持ち続けたひとりと男として、利休は描かれている。利休の死についての謎は、もちろん、わからないままだ。けれど、そこに断固たる意地のようなものがあったであろうと、井上靖と熊井啓はいっている。

 それを三船敏郎は、茶の手前だけでなく、茶掛けに榊で水を飛ばすさまで、たしかなものとして表現した。おそらく、三船敏郎を除けば、日本映画界には誰もできなかっただろう。

 加藤剛の古田織部はちょっとばかり生真面目すぎて、たしかに死の盟約を交わす者のひとりとしては上出来だけれど、織部という偏屈な人間をおしだすにはちょっと出来がよすぎる。

 萬屋錦之介は、この映画が遺作になった。佳境、床の上で、まるで前田利家の最期のように、まぼろしの脇差を手にして切腹の見立てをし、そして死を迎える。

 利休の死の謎を解き明かしたのか、それともそれは幻想だったのか、おそらく本人にもわからないまま死を迎えることになるけれども、

「わしは切腹はせぬよ。切腹はせぬが、茶人だよ」

 枯れた風情ながら、やはり得意の台詞まわしでいいきった錦之助の、東映で時代劇の若として君臨した錦之助の、遺作にふさわしいものだった。

 やけにものわかりのいい知的で文化的な秀吉を演じた芦田伸介も、東野英治郎も、上條恒彦も、奥田瑛二も、誰もが与えられた役をしっかりと演じているのがひしひしとわかり、それに競うようにもっていった熊井啓の演出も好い。

 画面は芸術的というより枯れた佇まいをしっかりと捉えながら、利休の切腹を表現する桜吹雪は一挙に幻想的な芸術性を見せつける。

 音楽も、安土桃山時代の音とはおもえない現代的な印象ながら、結局のところ、登場人物たちの内面の音を奏でている。

 80年代の傑作のひとつといっていいかもしれないね。

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日本の熱い日々 謀殺・下山事件

2007年05月25日 00時35分59秒 | 邦画1981~1990年

 ◎日本の熱い日々 謀殺・下山事件(1981年 日本)

 監督/熊井啓 音楽/佐藤勝

 出演/仲代達矢 山本圭 井川比佐志 平幹二朗 浅茅陽子 中谷一郎 岩崎加根子

 

 ◎追悼・熊井啓

 活字嫌いのぼくにはまったく珍しいことなんだけど、この原作本、矢田喜美雄『謀殺 下山事件』がいまだに本棚にある。

 大学時代に読んだんだよね。でも、活字が頭に入ってこないぼくは、読むのにずいぶんと苦労した。そんな記憶しかない。

 記憶といえば、たしか、渋谷東映がまだ二階建てで、映画館だけだった頃、地下の「渋谷東映地下」で、この作品を観たような覚えがある。それと、当時、なにかの仕事で知り合いになった女性が、脚本を書いた菊島隆三の教え子だかなんだかで、ちょうどぼくがこの映画を観たばかりだったものだから、

「あれはおもしろかったね~」

 っていう話をしたような気がする。

 でも、それが記憶のすべてで、どこでどんなふうに話したのかも覚えていない。

 人の記憶ってのはそんなもんで、国鉄の下山総裁の事件に関係した人間やそれを調べてた人間もまた、肝心なところは忘れないにしても前後の記憶は曖昧になっていくものだ。

 昭和、それも戦後の混沌期は、いろんな事件がほうぼうであった。そのさまざまな事件について、記憶や記録を持っている人間は、やっぱり早い内に文章にしておいた方がいいんじゃないのかな。

 まあ、それはそれとして、スタッフもそうなんだけど、役者の人達もみんな若くて、ぎらぎらしてる。好い時代だな~とかっておもうわ。

 狙いの白黒画面は、異様な迫力があるしね。

 ただ、ちょっとばかり、おもな登場人物の皆さんは、自己陶酔した雰囲気がありすぎな気もしないではない。

 それと、他殺説をとる演出が社会派すぎるきらいもあるかな~。

 ま、どちらも持ち味なんだから、ぼくがなんかいう立場でもないか。

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われに撃つ用意あり

2007年03月16日 15時24分45秒 | 邦画1981~1990年

 ▽われに撃つ用意あり(1990年 日本 106分)

 企画・製作・監督/若松孝二 音楽/梅津和時 主題歌/原田芳雄

 出演/原田芳雄 桃井かおり ルー・シュウリン 山口美也子 石橋蓮司 蟹江敬三

 

 ▽1968年10月21日、新宿騒乱事件

 青春の尻尾をひきずってる世代には、この日付は感慨深いかもしれなず、映画に登場してくる面々の心模様も、しっくりくるかもしれないんだけど、ぼくらの世代になると、ちょっとだけ違う空気を吸ってるような気分になる。ま、そんな呟きはどうでもいいよね。

 そんなことより、いくらなんでも、原田芳雄の前半の服装はなくない?

 観始めたとき、1980年くらいの映画かと思ってたら違ってた。歌舞伎町って設定の居酒屋は、昔懐かし二丁目の某所。そうか~学生運動をかじってた人達にとっては、あの地下の雰囲気がなんとも懐かしいんだろうな~とおもった。

 事件の鍵を握るルー・シュウリンが素敵で、このあたりは留飲の下がる感じはあったんだけどね。

 なんだか、なにもかもが懐かしい感じの映画だったわ。

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異人たちとの夏

2007年02月25日 01時54分44秒 | 邦画1981~1990年

 ◇異人たちとの夏(1988年 日本 108分)

 監督/大林宣彦  音楽/篠崎正嗣

 出演/風間杜夫 秋吉久美子 片岡鶴太郎 永島敏行 名取裕子 入江若葉 笹野高史

 

 ◇山田太一『異人たちとの夏』

 違和感のある佳境だったわ。

 夏のある日、死んでしまった家族が帰ってくるっていうのは、誰もが一度は空想したことのある話かもしれない。

 脚本家の主人公がトラックと衝突して死んだ両親に遭うのはいいんだけど、ふたりは若いときのままなんだね。死んだときの年齢じゃないんだ~とおもったとき、ちょっとだけ違和感があった。死んで幽霊になったときって、その時点の年齢のままじゃないんだろうか?

 自分がいちばんいい時代だっておもってるときの年齢になるんだろうか?

 幽霊になってないからわからないけど、名取裕子の場合は、なんで、風間杜夫のところに化けて出てきたんだろう?

 ていうか、わざわざ嘘をついてまでして現れる意味がちょっとわかんない。幽霊の恋って捉えればいいんだろうか?

 風間杜夫が徐々に衰弱していくのも入れると、これってつまり、牡丹燈籠なのね。とはいえ、名取裕子がなんだかやけに可愛くおもえるのは、なんでだろ?

 ちょっと頭がおかしいんじゃないかっておもいつつも、こんなふうに美人が訪ねてこないからな~って憧れる登場の仕方のせいだろか?

 濡れ場が妙に色っぽく感じられるのは、なんでだろ?

 鶴太郎がとっても良い感じに見えるのもそうで、なんでだろ?

 演出が上手く嵌まってるってことなのかな…。それとも、脚本が上手だってことなのかな。ともかく、夏の暑い最中の陽炎のような話はとてもいい感じに進んでくんだけど、なのに、なんでまた佳境になってホラー映画みたいな展開になるんだろね?

 それが美しく物悲しい怪談話ならともかく、B級ホラーもため息ついちゃうような特撮シーンは勘弁してほしいかなと。

 クライマックスだけ撮り直してくれないかしら?

 でもまあ、そんなふうにおもわせる映画に仕上がってるってことだよね。

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危険な女たち

2007年01月22日 12時44分32秒 | 邦画1981~1990年

 ▽危険な女たち(1985年 日本 122分)

 監督/野村芳太郎 音楽/杉田一夫

 出演/大竹しのぶ 藤真利子 和由布子 池上季実子 北林谷栄 夏八木勲 石坂浩二

 

 ▽おお、竹内銃一郎!

 と、おもわず声を上げてしまったのは、高校と大学の先輩だからだ。

 もちろん、ひとまわりも下の後輩なんだから、お名前を存じ上げているだけなんだけどね。

 ま、それはさておき、竹内銃一郎といえば、すでにこの時期、岸田國士戯曲賞を受賞された演劇界の大熟練で、以前に映画やドラマの脚本は書かれてたみたいだけど、なんでいまさらこの映画の脚本を?それも古田求と共同で?ともおもった。

 で、この映画だけど、2時間ドラマの大作みたいだった。

 見てて、おもわず引いちゃったのは、なんだか妙にCMのカットみたいな画で藤真利子が登場してくるところだ。この主題歌が、耳に残っていかん。『Mysterieux(ミステリユ)』っていう歌で、作曲が細野晴臣、作詞が秋山道男、唄が安野ともこ。Mysterieuxはフランス語で、神秘的って意味だ。安野ともこは、なんだか港あたりの一場面だけ出演してたらしいんだけど、よくわからなかった。

 ていうか、やっぱり、石坂浩二は、エルキュール・ポアロよりも金田一耕助だよね。

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真夜中の招待状

2007年01月03日 12時59分35秒 | 邦画1981~1990年

 ◇真夜中の招待状(1981年 日本 125分)

 監督/野村芳太郎 音楽/菅野光亮

 出演/小林麻美、小林薫、芦田伸介、高橋悦史、藤田まこと、渡瀬恒彦、丹波哲郎

 

 ◇夢は殺しの調べ

 記憶が錯綜してて、たしかなことはわからない。

 銀座の並木座だったとおもうんだけど、この映画の予告編を観た。邦画屈指の予告編だと、いまもぼくは信じてる。ふしぎなのは、この映画が並木座で掛かったとはおもえないことと、本編を並木座で観た記憶がまるでなく、松竹系の劇場で観たような気がすることだ。で、何年ぶりかにまた観たんだけど、人間のあいまいな記憶につけこむサブリミナルの話が絡んでた。

 実際、当時この映画にはコーラ会社のサブリミナルが隠されてたらしい。通常、ぼくは24分の1コマであっても見逃すことはまずないんだけど、それはまったく気づかず、かわりに無性に煙草が喫いたくなった。サブリミナルの話をしているとき、うまそうに喫煙する場面があったからだ。なるほど、これがサブリミナルかとおもった。

 ま、そんなことは蛇足で、映画のことだ。

 予告編同様、前半はのめりこまされるような面白さで引っ張られる。なにが面白いって、予知夢の話だからだ。

 遠藤周作という人は、ときどき、興味深い推理小説を発表する。この原作は読んでいないからなんともいえないけど、導入部分はあまり変更されていないだろう。浮世離れした美しさの小林麻美の婚約者が、とある恐怖に包まれてる。婚約者小林薫はとある旧家の養子で、何不自由ない四男坊なんだけど、兄弟が三人とも、6月から8月にかけて、つぎつぎに行方不明になる。それも、毎月15日になると姿を消すらしい。

 当然、小林薫に、自分も姿を消すのではないかという恐怖が生まれる。果たして、小林薫は9月15日に姿を消した。そこで、小林麻美の婚約者を探す旅が始まる。小林薫は夢を観ていた。頼りになるのは、その夢に観る風景だった。また、次兄の写真に薄気味悪い老人が写っていた。さらに、長兄の描いた絵にも同じ老人が描かれていた。疾走の謎を解く鍵は、夢の風景と奇妙な老人だ。

 やがて、その風景は熊本に現実に存在することがわかり、小林麻美は一路、熊本へと向かうという興味をそそられる前半が展開する。とはいえ、こうした展開は、ときおり他の映画でも使われる手法で、たいがい、夢や幻や幻聴や記憶の断片は凄まじく面白いんだけど、謎が解明されてゆくにつれ、なんだそんなことかっていう失望感が生まれるんだ。

 原作と比べるのは好きじゃないけど、遠藤周作の原作はどうやら戦争が絡んでいるらしく、都会派ファッショナブル推理劇には似つかわしくないため、この映画のような熊本の城めいた旧家と、トンネルをくぐってゆく幻想的な鉄道が選ばれたんだろう。

 ところで、小林麻美がひとり看板の主演作品というのは、この映画がただ一本だけだ。松田優作と共演した『野獣死すべし』はあくまでもヒロインで、そういうことからすれば、記念すべき作品ってことになるよね。

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鑓の権三

2007年01月02日 12時55分59秒 | 邦画1981~1990年

 ◎鑓の権三(1986年 日本 126分)

 監督/篠田正浩 音楽/武満徹

 出演/郷ひろみ 岩下志麻 火野正平 田中美佐子 水島かおり 三宅邦子 大滝秀治

 

 ◎虫籠窓の情事

 宮川一夫が作品の全カットを撮影したのは、たぶん、これが最後なんじゃないだろうか。『浪人街』は撮影協力だったし『舞姫』はユルゲン・ユルゲスと組んでるんで。で、そんなことをおもって画を観ると、いやもう、美しい。権三の衣装はすこしばかり派手すぎるものの、いかにも爛れはじめた諸藩の雰囲気が出ていていいし。くわえて岩下志麻の綺麗なこと。だけど、それが余計に徒になってしまってる感もないではないかも。

 それはともかく、近松の世話物浄瑠璃を映像化するとかいうことは、この先、あるんだろうか。文化ってのは継承されてこそ文化だとおもうんだけど、能や狂言、浄瑠璃や歌舞伎とかいった観客の限られてるものを、この先、どんなふうにして全国一斉封切させていけるんだろう?

 話についていえば、茶の湯がきっかけの道行話だ。娘を嫁がせたいとおもっていた鑓の名人権三との間に、不義密通の汚名を着せられた母親が、権三と駆け落ちし、やがて追い詰められて初めて肌を交わす。けど、やがて権三ともども京の橋の上で最後の大立ち回りをすることになるっていう悲恋物だ。けど、この大立ち回りにいたるまで映像が流れるように美しいものだから、ついつい、演技や話よりも画面やロケ地に興味が傾いちゃうんだよね。

 あ、それと。

 篠田組といえば『心中天網島』なんだけど、この『鑓の~』は、かつて『心中~』が作られて日本のヌーベルバーグといわれた時代のように才気走った感じはなくて、なんともオーソドックスに作られてる。ま、それもあって、なんとなく肩透かしを食らった観は否めないかもしれないね。

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