Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

ブリューゲルの動く絵

2013年07月05日 12時46分09秒 | 洋画2011年

 ◎ブリューゲルの動く絵(2011年 ポーランド、スウェーデン 96分)

 原題 The Mill and the Cross

 staff 製作・監督/レヒ・マジュースキー

     脚本/レヒ・マジュースキー マイケル・フランシス・ギブソン

     撮影/レヒ・マジュースキー アダム・シコラ 美術監督/スタニスワフ・ポルチェク

     美術/カタジーナ・ソバンスカ マルセル・スラヴィンスキ

     衣裳デザイン/ドロタ・ロクエプロ メイク/ダリウス・クリシャック モニカ・ミロフスカ

     SFX・VFXスーパーバイザー/パヴェウ・ティボラ

      音楽/レヒ・マジュースキー ヨゼフ・スカルツェク 

 cast ルトガー・ハウアー シャーロット・ランプリング マイケル・ヨーク

 

 ◎1564年『十字架を担うキリスト』

 16世紀、フランドル絵画の代表画家ともいえるピーテル・ブリューゲルは、

 農民画家とか呼ばれてるけど、けっこう、SF的なものを扱った観がある。

 また、人物の描写はきわめて写実的ながら、

 全体の構成は、けっこう、シュールだったりする。

 そんな不思議な印象を与えてくれる画家なんだけど、

 その数ある作品の中でも『十字架を担うキリスト』は超大作だ。

 この絵を、そっくりそのまま映像化しようとしたのが、この映画だ。

 しかも、絵の中に入って、絵のその瞬間に至るまでの話を描いている。

 いや、それだけじゃなく、

 この絵をブリューゲルが書くきっかけとなった、

 スペイン国王によるネーデルランドの民衆への迫害に対する怒りも描かれてる。

 つまり、

 絵を描くことにいたったブリューゲルの日常と、

 絵の中に封じ込められた民衆の迫害されるありさまと、

 さらにネーデルランドの状態について、

 キリストが磔にされた際の状態と酷似しているのではないかという、

 ブリューゲルの感想と、

「その感想をそっくりそのまま描いてはどうか」

 と勧める銀行家に美術収集家ヨンゲリングについて、

 なにもかも一緒くたにしたのが、この映画だ。

 ブリューゲルは絵の中で、ふたつの時代を混合してみせたけど、

 この映画はさらに画家そのものの時間もまた混合してる。

 台詞は少なく、あってもおもわせぶりなものが多く、

 聖母のマリアの祈りは、

 すなわち、フランドルの民衆の祈りでもあるという二重構造になってる。

 だから、なんとも小難しい構成にはなってるんだけど、

 そんなことはもういいわってくらいに絵が綺麗だ。

 4年を費やして製作されたCGと実写はあまりにも見事で、

 どのショットもまるで絵画を観ているような感じがする。

 よく撮ったもんだ。 

 

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ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える

2013年07月03日 19時40分00秒 | 洋画2011年

 ◎ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える(2011年 アメリカ 102分)

 原題 The Hangover Part II

 staff 監督/トッド・フィリップス 製作/トッド・フィリップス ダン・ゴールドバーグ

     脚本/スコット・アームストロング トッド・フィリップス クレイグ・メイジン

     キャラクター創造/ジョン・ルーカス スコット・ムーア

     撮影/ローレンス・シャー 美術/ビル・ブルゼスキー 音楽/クリストフ・ベック

 cast ブラッドリー・クーパー エド・ヘルムス ザック・ガリフィアナキス ケン・チョン

 

 ◎飛べ、異国の地へ!飛ぶな、昨夜の記憶!

 記憶がない。

 というのは恐ろしいことで、実は、この映画はずいぶん前に観た。

 というより、封切られてすぐに観に行った、はずだ。

 ところが、2年前のメモのどこにも観たという記録が見当たらない。

 どういうことなんだろう?

 ともかく、まあ、3を観る前に観直しておこうとおもって、また観た。

 と、やっぱり、観てた。

 どうして感想を書いてないのか不思議なんだけど、ちゃんと覚えてた。

 前作もそうだったけど、

 このシリーズは作劇のうまさにある。

 目が覚めると、

 アジアのどこかのうらぶれたホテル、

 ひとりは頭が坊主に刈られ、

 またひとりは下着姿で、顔の半分にマイク・タイソンの刺青が彫られ、

 ベストを着て煙草をふかす小さな猿がいて、

 婚約者の弟の指が指輪をしたまま切られて冷やされてて、

 謎の中国人が裸で寝そべってて、

 狼軍団の悪友のひとりの姿がない、

 なんて事態がいきなり起こるんだけど、最後まで回想場面がない。

 フラッシュや録画、あるいは少年期の主人公たちに戻った奇妙な回想しかなく、

 それでいて、徐々に、

 問題のバンコクの夜になにが起こったのかがありありとわかってくる。

 前作もそうだったけど、

 通常、回想というのは物事を説明するために利用されるんだけど、

 その回想をわざと見せずに観客に想像させるという手腕は見事なもので、

 観客は、

 登場人物もまるで憶えていないエンドロールの写真を観て、

 ようやく、

 想像よりも凄まじくおもしろい事実があったんだってことを知らされ、

 おもわず、吹き出す。

 もちろん、そこにいたるまでに、

 ふんだんにコミカルな場面とアクションが注ぎ込まれる。

 たいしたもんだわ。

 どれだけ、このいい加減で場当たり的におもえるコメディが、

 端の端まで繊細に考え抜かれているかがよくわかるよね。

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ザ・ライト -エクソシストの真実-

2013年05月08日 01時59分54秒 | 洋画2011年

 ◎ザ・ライト -エクソシストの真実-(2011年 アメリカ 114分)

 原題 The Rite

 staff 原作/マット・バグリオ『ザ・ライト -エクソシストの真実-

     監督/ミカエル・ハフストローム 脚本/マイケル・ペトローニ

     撮影/ベン・デイヴィス 美術/アンドリュー・ロウズ 音楽/アレックス・ヘッフェス

     協力/ゲイリー・トーマス神父

 cast アンソニー・ホプキンス コリン・オドナヒュー マルタ・ガスティーニ アリシー・ブラガ

 

 ◎The Riteの意味

 一般に、riteという単語は、宗教上の特定の儀式を指すらしい。

 ただし、厳粛に行われる式という意味もあるから、

 The Riteとなったら、こりゃもう、悪魔祓いの儀式になるよね。

 実をいうと、映画を観るまでは、

「アンソニー・ホプキンスがなんだってまたB級ホラーなんかに出るんだよ」

 てな感じでおもってた。

 ところが、とんでもない間違いだった。

「え。けっこう、まじな映画じゃんか」

 映画の前知識をほとんど仕入れずに観ることにしてるから、

 ま、こういうことはよくあるのさ。

 にても、バチカンがほんとに悪魔祓いをするエクソシスト養成講座を持ってて、

 実際に、現在も世界中に悪魔祓いをする神父が存在してて、

 その内のひとりが映画の撮影現場に立ち会ってるとはおもわなんだ。

 コリン・オドナヒューは実際の悪魔祓いにも見学したとかいうし、

 へ~ってなもんです。

 でも、悪魔が憑依することはあるかもしれないけど、

 釘が喉を逆流して口から吐き出されるのも、

 聴いたことのない、喋ったことのない言語をいきなり喋るのも、

 ついつい「ほんとに?」とかおもうよね。

 憑依された人間は十字架をつきつけられて苦しみ悶えるけど、

 これが日本だったら、数珠とか御幣とかになるのかな?

 狐憑きとかあったわけだから、

 どこの国の人間も、なんらかの悪霊には憑依されるんだよね、たぶん。

 それがキリスト教圏では、悪魔ってことになるわけでしょ?

 けど、まあ、悪魔祓いの真実はよくわからないので、

 映画の話をしよう。

 アンソニー・ホプキンスの上手さはいまさら触れるまでもないことだけど、

 特殊メイクもしないで、演技だけで怖がらせてくれるのは、

 彼とジャック・ニコルソンくらいなものだ。

 この映画の味噌は、うらわかい妊婦の悪霊を祓ったはいいけど、

 今度はその神父が悪霊に憑依されてしまうという展開だ。

 それを、葬儀屋を継ぎたくないために神学の道を選んだ若者が、

 生まれて初めての悪魔祓いをして助けるという話なんだけど、

 そこには、葬儀屋を営んでいた父親への反発と抵抗があり、

 でも実は父親に対する尊敬と哀惜を抱えた若者が、

 父親に見立てられる神父の苦悶をまのあたりにし、

 これを助けることで、父親への理解と愛情を示し、

 みずからの呪縛からも解放されるという構図になってる。

 つまり、

 父と息子の葛藤劇に悪魔祓いという味付けがなされてるわけだけど、

 そんな小難しい分析はさておき、妊婦役のマルタ・ガスティーニが好い。

 鬼気迫る演技を見せてくれてるし、普段はたぶんすごく綺麗なんだろな~と。

 それと、

 タイトルのそこかしこに十字架が見え隠れしているのも、goodでした。

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そして友よ、静かに死ね

2013年05月01日 15時15分28秒 | 洋画2011年

 ◇そして友よ、静かに死ね(2011年 フランス 102分)

 原題 Les Lyonnais

 staff 原作/エドモン・ヴィダル『さくらんぼ、ひとつかみで』

     監督・脚色/オリヴィエ・マルシャル 脚本/オリヴィエ・マルシャル エドガー・マリー

     撮影/ドゥニ・ルーダン 音楽/エルワン・クルモルヴァン

 cast ジェラール・ランヴァン チェッキー・カリョ ダニエル・デュバル ヴァレリア・カヴァーリ

 

 ◇1964年、さくらんぼ盗み

 そして、リヨンのギャング団の始まりとなるわけだけど、

 自叙伝が原作になってて、

 本人エドモン・ビダル(通称モモン)は、

 映画が公開されたときもリヨンに在住してて、子供3人と孫6人がいるっていうんだから、

 警察との露骨な取引や裏事情とか映像化されても、まあ時効って感じなのかしら?

 ともかく、フレンチ・ノワールってのは、

 男と男の友情が破綻し、破滅に追い込まれ、閉塞感ありありで逃げ回り、

 崖っぷちに思い込まれた後、陰鬱な対決と悲惨な結末が待ってるわけで、

 この映画も、そうしたフレンチ・ノワールの後を継ぐ物なんだろうけど、

 昔のものと区別するんであれば、

 ネオ・フレンチ・ノワールとかって呼べばいいのかな?

 題材のひとつになってるのは、ロマ。

 フレンチ・ノワールでは、ときどき題材にされてきた人々だ。

 ロマというのは、ぼくらの時代、ジプシーと呼ばれてた。

 ジプシーというのは英語で、フランス語だとジタン。

 ジタンといえば、ぼくなんかはフランス煙草の銘柄をおもいだしちゃうけど、

 そもそもロマって呼称は、

 東欧やイタリアで、かれらが自称してたものらしい。

 それがこの頃では共通した民族名とされてるみたいだ。

 でも、流浪の民とかいえば聞こえはいいけど、

 定住することを拒まれた民族なわけで、

 当人たちにしてみれば、身に覚えのない差別を受け、

 いうにいわれぬ苦労を強いられてきたことは誰の目にも明らかだ。

 ロマの人達が現在はどんな境遇に置かれてるのかはわからないけれど、

 主人公の少年時代はまだまだ偏見が色濃くて、

 差別されてた少年がたったひとり友達がいて、

 そいつがいろいろかばってくれたとしたら、

 おとなになったときに裏切れるだろうか?

 くわえて、若い頃、はちゃめちゃをしていた時代に、

 ふたりしてさくらんぼを盗んで投獄されるという共通体験を得ていたら、

 たとえ、その友達が悪事を続けていて、そのために命を狙われていたとしたら、

 助けようとするんじゃないのか?

 っていうのが、この映画、モモンの生涯を追った物語の本筋になるんだけど、

 結局、

 自分の信頼していた者に騙され、裏切られる人生の哀しさが主題というのも、

 なんだか身につまされるわね~。

 でもまあ、そのあたりのことはちょっと置いといて、

 ジェラール・ランヴァン、渋いわ~。

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ヒステリア

2013年04月28日 20時42分07秒 | 洋画2011年

 ◇ヒステリア(2011年 イギリス、フランス、ドイツ、ルクセンブルク 100分)

 原題 HYSTERIA

 staff 監督/ターニャ・ウェクスラー 脚本/スティーヴン・ダイア

     撮影/ショーン・ボビット 美術/ソフィー・ベッチャー

     音楽/ガスト・ワルツィング 衣裳デザイン/ニック・イード

 cast マギー・ギレンホール ヒュー・ダンシー フェリシティ・ジョーンズ ルパート・エヴェレット

 

 ◇1890年、大英帝国

 ぼくは、これまで、

 いわゆるバイブという代物は日本人の発明だとおもいこんでた。

 それが、第二次産業革命のもたらしたものだなんて、

 さらにいえば、医療用のマッサージ器具として開発されただなんて、

 まるで、知らなかった。

 いや~、無知ということは恐ろしい。

 ただまあ、監督が女性っていうこともあるんだろう、

 電マとはほとんど関係ない並列した恋愛話として爽やかに仕上げられてる。

 マギー・ギレンホールが電マの開発にまったく関与しないばかりか、

 あんなものは医療とは関係ない性具よってな感じで、

 さらりと断言しちゃうんだから、

 いったい、この映画の主題はなんなんだろうって、ちょっと考えちゃう。

 電マの開発秘話なのか、

 それとも、

 ヴィクトリア朝における参政権も与えられてない女性蔑視の克服と、

 貧者の施設の充実をめざす女性の恋愛話なのかって。

 たしかに、

 女性の権利を訴えればヒステリーという名の病気だと烙印をおされ、

 それを治癒させるためには子宮摘出しかないなどとされたのが真実なら、

 こんなあほな状況は打破しないといけない。

 迷信の先行する男中心の社会は根本から覆すべきだよね。

 それに、

 お金持ちの女性はヒステリーという病気があるという前提に立って、

 旦那や彼氏との間に欲求不満が解消されないでいるから病気になるとして、

 医者に性的なマッサージを受けることで癒されていたなんて状況も、

 やっぱり、あかんでしょ。

 性的な欲求不満は、成人であるかぎり男女を問わず当然のことで、

 それを解消できる性具があるなら、きわめて真摯に開発しないと。

 ただ、どっちが、映画の本題なんだろう。

 せっかく、誰も映像化しなかったヴィクトリア朝のバイブ開発秘話なんだから、

 それを、狂言回し的な扱いじゃなくて、話の臍にもってきて、

 マギー・ギレンホール演じるところの闘争的な姉もそれを認めて、

 みずから開発に手を貸すっていう設定にした方が、

 ぼくとしては納得しちゃうし、おもしろいとおもうんだけどな~。

 でも、性具というのは、ほんとに扱いが難しいよね。

 日本のこういう技術はきわめて優秀だから、

 日々、進歩と充実が図られてるし、需要もあるはずなんだけど、

 どうしても、日のあたる所に出てこない。

 とくに、欧米よりも日本の場合は、

 つつましやかで禁欲的な生き方が美徳とされているから、

 陰の代物になって、一部の人達だけの愉しみになってるし、

 多くの一般女性は、これを知らずに寿命をまっとうしちゃう。

 むつかしいところだよね、いやまじに。

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三国志英傑伝 関羽

2013年04月24日 21時04分51秒 | 洋画2011年

 ◇三国志英傑伝 関羽(2011年 中国 109分)

 原題 關雲長

 英題 THE LOST BLADESMAN

 staff 監督・脚本/フェリックス・チョン(莊文強) アラン・マック(麥兆輝)

     撮影/チャン・チーイン 美術/ビル・リュー リウ・チンピン 音楽/ヘンリー・ライ

     衣裳/チャン・リン 武術指導/ドニー・イェン(甄子丹)

 cast ドニー・イェン(甄子丹) チアン・ウェン(姜文) スン・リー(孫儷)

 

 ◇後漢末期、建安5年(200)

 関羽、千里を行く、

 というのは、三国志演義にある、

『美髯公、単騎、千里を走り、

 漢寿亭公、五関に六将を斬る』

 というところだが、この映画の場合、

 献帝の人となりなど、映画なりの脚色がほどこされている。

 好みかどうかは、観客によっていろいろと分かれるだろう。

 でも、これまでにも書いてきたように、事実は事実、映画は映画だから、

 正史や三国志演義がどうだろうと、映画独自の筋立てに納得できればそれでいい。

 関羽が劉備の許嫁だった女人とかつて恋仲だったという設定は、

 別段、とっぱずれたものでもないし、

 たとえば、別な物語ができて、

 赤壁の戦いの後に、劉備が呉から後室を娶る際、

 警護を任された趙雲と呉夫人とが抜き差しならない仲になったとしても、

 それはその物語に必要な設定であれば、それでいいとおもっちゃう。

 今回の場合もそうで、関羽の恋心がなければ盛り上がらないし、仕方のないことだ。

 けど、どうせなら、

 劉備のふたりの夫人のどちらかとそういう仲であってほしかったわ~。

 ま、それはともかく、

 甄子丹は小柄ながら、見事なものだった。

 とくに、左右に高い壁をめぐらせた回廊での一騎打ちはたいしたものだ。

 曹操の設定も悪くない。

 このところ、曹操の造形は悪役ではなく不世出の人物として捉えられることが多い。

 好いことだ。

 ただな~、この映画に限らず、たいがいの史劇は、

「民のために」

 とかいうんだけど、

 そういうあたりが、どうにもリアリズムに欠けてる気がしてならないんですわ。

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マネーボール

2013年04月04日 13時20分50秒 | 洋画2011年

 ◎マネーボール(2011年 アメリカ 133分)

 原題 Moneyball

 staff 原案/スタン・チャーヴィン 原作/マイケル・ルイス『マネー・ボール』

     製作/マイケル・デ・ルカ レイチェル・ホロヴィッツ ブラッド・ピット

     監督/ベネット・ミラー 脚本/スティーヴン・ザイリアン アーロン・ソーキン

     撮影/ウォーリー・フィスター 美術/ジェス・ゴンコール 音楽/マイケル・ダナ

 cast ブラッド・ピット ジョナ・ヒル ロビン・ライト ケリス・ドーシー

 

 ◎1997年10月、ビリー・ビーン、アスレチックスGM就任

 昨日のお昼前、何気なくテレビをつけたら、とんでもないことが起きてた。

 米メジャー・リーグ、レンジャーズ対アストロズ戦、七回裏。

 ダルビッシュが完全試合を目前にして、投げてた。

 結果、完全試合はならなかったものの、

 9回2死まで無安打、無四球、自己最多の14奪三振にくわえ、

 最速97mph(約156km/h)を記録するという快投だった。

「背番号11で111球目に打たれるってのは、やっぱ、ぞろ目はなんかあるな~」

 とかいった呑気な話をしようとしてるんじゃない。

 このところ、なんだか、野球の話題が多い。

 選抜高校野球で、

 最速152km/hという済美の安楽智大投手が、5戦772球でちから尽きたとか、

 長嶋茂雄と松井秀喜に国民栄誉賞が贈られることになったとかで、

 それぞれについて、いろいろと議論が交わされてる。

 高校野球にも制限球数を取り入れて、故障を未然に防いだ方がいいとか、

 そんなことになったら、

 完全試合、ノーヒットノーラン、完封完投、奪三振数とかいった記録が無くなるだろとか、

 長嶋はわかるけど、人生の半ばにも達していない松井はまだ早いんじゃないかとか、

 ほんとかどうか知らないけど、国民栄誉賞ってなんで総理の一存で決まるんだとか、

 そんなふうに報道されてるのを見たり読んだりするだけでも疲れちゃうくらいだ。

 ぼくだって、こうして駄文を書いてるんだから、世の中には無数の意見がある。

 けど、個人の意見や主張をそのまま押し通せる人間はかぎられてる。

 この映画の主人公ビリー・ビーンがそうした限られた人間かどうかはわからないけど、

 すくなくとも、自分の信じる野球理論セイバーメトリクスを実践して、

 オークランド・アスレチックスに奇跡的な白星を積み重ねさせたのは事実だし、

 貧者の野球理論を駆使して自チームを勝利に導くという筋立ては、

 弱者が強者に打ち勝つのが大好きなぼくみたいな人間の好むところだ。

 けど、世の中、難しいのは、他球団がこうした理論を取り入れ、

 やがてメジャーの中では当然の理論のようになってきた今、

 金満球団が出塁率の高い選手を一手に取り込んでしまうのが明らかなことだ。

 映画とちがって、現実は終わりがないから、ほんとに難しい。

 でも、アメリカの好いところは、こうした理論を取り入れようとする姿勢にある。

 根性や気合だけじゃどうにもならない世界があるんだって話は、

 努力もせずに、ぼんやりと「いいことないかな~」とかって暮らしてるぼくには、

 ちょっとばかり手厳しいんだけどね。

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幸せへのキセキ

2013年03月25日 00時04分44秒 | 洋画2011年

 ◇幸せへのキセキ(2011年 アメリカ 124分)

 原題 We Bought a Zoo

 staff 原作/ベンジャミン・ミー『幸せへのキセキ~動物園を買った家族の物語』

     監督/キャメロン・クロウ 脚本/アライン・ブロシュ・マッケンナ キャメロン・クロウ

     撮影/ロドリゴ・プリエト 美術/クレイ・エイ・グリフィス 音楽/ヨンシー

 cast マット・デイモン スカーレット・ヨハンソン エル・ファニング パトリック・フュジット

 

 ◇2007年7月7日、ダートムーア動物学公園、開園

 鮭、鯨、そして動物園と、

 なんだか、生き物の映画ばかりが連続してるけど、

 この映画は、どちらかといえば『世界にひとつのプレイブック』に似ている。

 なぜって?

 人の再生の物語だからだ。

 人はいろんなことで傷つき、壊れ、立ち直れないような痛手を受けるけれども、

 いつかかならず新たな人生に踏み出す機会が訪れるから、

 そのときにこそ、勇気をもって立ち向かっていこうじゃないか、

 っていう主題になってるからだ。

 妻そして母を亡くした家族に訪れる機会が、たまたま動物園だっただけの話だ。

 それがハリウッドの定番だろうっていわれれば、それまでだけどね。

 まあ、それはさておき、

 原作のある映画、実話をもとにした映画、どちらにもいえることだけど、

 映画がなにかに影響されたり感銘を受けたりして製作されるのは当たり前で、

 その原作や実話の持っている主題は損なわないようにしなければならないけれど、

 作品の内容は、別に原作や事実に忠実である必要は、これっぽちもない。

 ただ、この映画の場合、かなり原作に沿ったもののようで、

 原作者の英コラムニスト、ベンジャミン・ミーもずいぶん嬉しそうに取材を受けていた。

 いちばん大きく異なっているのは、奥さんを脳腫瘍で亡くす時期だ。

 動物園を買う前か、買ってからか、という違いで、でもそれは主題を決して損ねていない。

 2006年10月、ダートムーア野生動物公園を購入したベンジャミンは、

 翌年の7月に、ダートムーア動物学公園をオープンしたんだけど、

 実際の奥さんキャサリンは、2007年3月31日に40歳で亡くなっている。

 けど、映像化される際、奥さんの亡くなった時期にこだわる必要はない。

 愛する者を亡くした家族にとって動物園をふたたび開園することは、

 動物によるセラピーを受けているようにも感じられるけど、

 それ以上に、

 動物を愛している人達とのふれあいが大切な癒しになっているっていう図式は、

 しっかりと主題に則したものになっているっておもうから。

 にしても、たくさんの動物を使っての撮影は大変だったろうし、

 なにより動物園を作らなくちゃいけない美術さんたちもたいそう苦労しただろう。

 話はがらりと変わるんだけど、

 小学生の頃、ぼくは、動物が好きだった。

 ただし、動物そのものではなく、動物のフィギュアが好きで、たくさん集めていた。

 ぼくの田舎には、山の上の公園に鹿と猿と鳥と小動物の檻があり、

 とても動物園とはいえないような小さなものながら、いまだに飼育されている。

 誰が動物たちの面倒を見ているのか知らないけれど、

 もしかしたら、戦後まもない頃から何代にもわたって飼育されているのかもしれない。

 ま、それはいいとして、そんなしょぼいものしかない田舎に育った僕は、

 都会に出なければ、大々的な動物園なんて見ることも叶わなかった。

 当然、動物に興味はなかったんだけど、ただ、手塚治虫の『ジャングル大帝』が好きだった。

 そのせいで、動物のフィギュアを集め始めたんじゃないのかな、自信はないけど。

 ともかく、そのフィギュアは何百匹にもおよび、それを並べると畳3畳分はゆうにあった。

 このフィギュアは、当時、デパートでしか売ってなかったから、

 母親の買い物についていくと、かならず数匹ずつ買ってもらった。

 イギリスのブリテン社というところが作っていたもので、

 まじまじと見惚れるほど正確な縮尺で出来ていた…ような気がしてた。

 ところが、ある時期からマガイ物が出回るようになった。

 デパートでは売られず、田舎のおもちゃ屋や夜店で扱われるもので、

 動物のお腹を見ると、Hong Kong とあった。

 これじゃダメなんだ、とおもっていたら、ときどき、また別なフィギュアが混じり始めた。

 アメリカのサファリ社というところだった。

 そこの頃には徐々に動物フィギュアへの興味も薄れてしまったんだけど、

 おとなになってから海洋堂の動物フィギュアが登場したとき、

「ああ、懐かしい」

 とおもって、あらためて動物フィギュアの世界を覗いた。

 そしたら、ブリテン社は1999年に40年の歴史を閉じていたようで、

 サファリ社とドイツのシュライヒ社をはじめ、いろんな国で製作されているのを知った。

 けど、どの動物もなんだか顔が大きくて、やけに可愛らしくなっていた。

「ちがうんだよな~、これは」

 もちろん、当時の動物とは比べ物にならないくらい精巧に出来てるんだけど、

 1960年代の少年からすれば、なんだかしっくりこない。

 ときどき、おもうんだ。

 どこかの町の、時の流れに置き忘れられたような古ぼけた百貨店に、

 あの日のようにガラスのショウケースに入れられた動物が並んでないかな~と。

 そしたら、ぼくはまたこつこつと買い漁り、ぼくだけの動物園をつくりたいな~と。

 なんてまあ、ちんまりした夢なんだろうね。

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ル・アーヴルの靴みがき

2012年11月19日 16時52分36秒 | 洋画2011年

 ◎ル・アーヴルの靴みがき(2011年 フィンランド、フランス、ドイツ 93分)

 原題 Le Havre

 製作・監督・脚本 アキ・カウリスマキ

 出演 アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン

 

 ◎マルセル、ふたたび

 まあ、主人公の過去が作家であったということから類推すると『ラヴィ・ド・ボエーム』の後日譚になるのだろうな、とおもっちゃうんだけど、どうでもいいことかもしれない。だって、過去はすでに失われたもので、現在を生きている人々にはなんの意味もないからだ。そういう考えは、そのままこの作品に投影される。

 だから、マルセルはパリから流れてはきたものの、ここでやっと妻も迎えたし、彼女は貧相だけれども健気な女だし、それで幸せに暮らしているんだから、過去は要らないよってことになる。そんなところへ黒人密航少年が紛れ込む事で生じる小さな港町の住民悲喜劇となっているわけで、この老人と少年はおなじように過去を棄てたんだね。でも、マルセルの新たな人生も捨てたもんじゃなかったということになるわけだ。上手だな。

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捜査官X

2012年10月26日 22時07分00秒 | 洋画2011年

 ◎捜査官X(2011年 香港、中国 115分)

 原題 武侠

 英題 Dragon

 監督 ピーター・チャン

 出演 ドニー・イェン、金城武、タン・ウェイ、ジミー・ウォング、クララ・ウェイ

 

 ◎1917年初夏、中国雲南省

 針のくだりがえんえんと続くのが佳境の戦いの伏線になるなんて、なんてまあハリウッド的な展開だろう。

 七十二地刹の正体が明かされてからの物語の極端な膨張は、ちょっとばかり違和感があるものの、金城武は実に好演で、ドニー・イェンと堂々たる対峙ぶりだったような気がするわ。それと、この作品の掘り出し物のようなおもしろさは、スタントコーディネーターの谷垣健治や、スタントをこなした大内貴仁、佐久間一禎、稲留正樹らによるところが大きいんだろうな~っておもうわ。

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