Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

Village Design 34. 中甸・松賛林寺

2007年12月05日 | field work
 重畳景観という言葉がある。環境デザイン辞典から引用する[注]。「同一の景観要素が幾重にも重なり奥行感や連続感を感じさせるような景観。山間地帯でいくつもの山並みが重なり合って見えたり、斜面地で住宅の瓦屋根が重なり合うように見える景観。多くの場合、安心感や安定感をもたらす。」
 松賛林寺は、斜面を最大限利用し、丘全体を建築空間とすることによって、まさしくこうした重畳景観を呈している。 ここの斜面を上がってゆくと、視高の変化と共に見えてくる景観の変化は、デザインの視点から見ても興味深い。 中国には、こうした景観を有する寺院が他にもあるという情報を現地で得たが、私は確認には至っていない。
 類似景観にチベットのポタラ宮を想起すると人もいるだろうが、これは重畳景観とは異なっている。ポタラ宮は、大がかりな土塁を築き、その上に主要な建築物を建てている。そうした意味では、ポタラ宮は、我が国の城郭建築に近いといえよう。
 重畳景観が呈する空間構造は、下界から建築物が重なり合うって見えると共に、多くの建築物の中からは、下界への視界が確保され、 オープンテラスなどが設えられて人々がくつろぐ場となり、また上下をつなぐ道や階段や斜路など、高低差を活かしたデザインが展開できる点では、面白い空間コンセプトである。
 実際には、重畳景観を呈する都市をあげると、鎌倉七里ヶ浜、神戸、函館、尾道といったところが典型例だろう。海外では、世界遺産のアマルフィ、ポジターノ、或いはカンヌといった具合に多くの例がある。それらに共通しているのは、風光明媚という点であろう。それらは、優れた景観を暮らしの中に取り込み、活かしてゆく、そういう発想が当たり前のように、古来から行われている街だということである。
 
注:土肥博至編著:環境デザイン辞典,井上書院,2007.pp206.
 
1999年9月撮影
Canon EOS3.F3.5-5.6/EF28-135mm.コダクロームⅡ.
CanoScan9950F
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